第26話 雨の中の会議

 ――梅雨が、きた。

 さわさわと窓の外を見れば暗雲から降り注ぐ小粒の雨たちによって、暑くなり始めた気候に湿度を与えている。

 日本の熱気よりかは全然耐えられるレベルのそれだけれど、やっぱり現地人の図書館員さんとしてはかなり大敵の様で、一日ごとに各ジャンルの本の調子を管理しているのだとか。


 ……なんて、仕事の話を思い出せば多少も気は紛れるのではないかと、頭の裏側で現実逃避している私がいます。


 時は真昼の迎賓館。その一階にある食堂にて。

 私達彷徨人の生徒は、一堂に会していた。


 元の世界から交流のある人同士で集まるのではなく、各ギルドや商工会ごとに分かれて座っている。

 その様子だけで、ここに居る皆が少なくとも自分達が《彷徨人》であるという意識をし始めたことを物語っているような、そんな風に私は感じていた。


 ――コンッ、という銀の鍍金を纏った私の杖……《シルバースタッフ》の石突きが、食堂の石で出来た床板を叩けば、皆の視線が一気に、彼ら彼女らの前に出た私へと集まっていく。

 私の隣にはクロさんとカトレアが居て、カトレアは私の後ろで立ったまま控え、クロさんは私の隣の席で足と腕を組み、脚の上にシーダを乗せ、目を伏せながら沈黙を貫いていた。

 あぁ、緊張で胃がキリキリしてきた。こくっと飲み込んだ唾も喉をうまく通らず、それだけ身体も強張っているのが分かる。

 そんな中で、私は意を決して立ち上がり、口を開いた。


「まず、皆さんお忙しい中、突発的にも拘わらずお集まりいただき、ありがとうございます。転入生の身ではありますが、皆さんのご意見等を取りまとめたいと思い、この場を設けさせて頂きました」


 一礼しながら言葉を続けると、クラスのカースト上位層だった男子生徒と思わしき黒髪の狼人族の男子生徒がコクコクと相槌を打ってくれたあと、質問を投げかけてくれる。こういった時のリアクションは本当にありがたい。


「それで、風銀さん。意見っていうのは?」

「はい。……このブレイシアにやってきて、早くも1月が経過しました。この現状を、皆さんはどう思っているのか。一人一人のご意見を伺えればと思います」

「抽象的だね。もっと言うと?」


 人間らしい優し気な顔つきで、頭についた狼耳をピクピクと揺らしながら尋ねる男子生徒。やっぱり最初から2択を迫るべきだったのかな、と内心で反省しながら私は眼鏡の位置を直しつつ頷き返した。


「この世界に一生留まるか、もしくは――私達のいた世界に戻る術を探すか。最終的にこの二択になると、私は考えています」


 周囲がにわかにざわめきだす。それもそうだろう。誰もが一度は『異世界からの帰還』を頭に浮かべているはずだから。

 それでも、折角やってきたこの異世界。そして新しい「自分」で、人生をやり直すか。もしくは、元の世界に戻って新しいクラスメイト達と共に一月前と変わらない、平穏な日常を過ごす事を目指すのか。

 細かく言えば、殆どの答えは出ている。この世界にやってきて一週間後の時点でこの街から旅立った子達は後者。この街に留まった私達は前者。


 けれどこの中に、ゆっくりと帰還方法を探せばいいと考えて、揺らいでいる子も少なからずいるはず。

 だからこうして、改めて一人一人の意見を聴く場を設けた。

 アオヤマ先生は勿論不在で、この場には私達生徒しかいない。クラスの半数を失っても、遅かれ早かれこういった場所は設けなければならなかったと思う。


 今こうして私が先導しているのは、異世界での行動の殆どを経験したから。

 生活の中でギルドの仕事や学業をこなし、それでいて非常時に付き纏う『戦闘』という概念を経験した。

 それを恐ろしいと感じて元の世界に帰りたいかどうかを、この場で皆と話し合うべきだと考えている。


「もし、この場であがった意見を君が取りまとめたとして、何ができるのかな?」

「この街に留まることを念頭に置くのであれば、《魔術師》として、何より《彷徨人》として、《ブレイシア》の活性化を主に行動します。主に挙げられるのは、魔族やヒトからの防衛システムの再考案、魔術における現存する生活器具へのアプローチの二点、でしょうか」

「帰還に意見が傾いた場合は?」

「先程挙げられたものと並行しつつ、魔術的観点から帰還方法を模索したいと考えています」


 そこで、カトレアの友人である狐の尻尾を生やした女子生徒が手を挙げた。


「風銀さん――じゃないね。スノウフレークさんは魔術って結構言ってるけど、魔法とどう違うの?」

「魔法の用途は殆ど戦闘向きのものばかりですが、魔術は戦闘以外にも様々な用途があります。身近で言うのであれば、この天井に敷設している照明器具や街路灯などがそうです。また、《ウィザード》クラス以外のヒトでも行使する事が可能です」

「へぇー。実際可能そうなの?」

「思い当たる所は多々ありますが……。先の定期試験でカーバンクル先生が行使した【ワープ・ゲート】のほかに、対象を別空間に転移させる魔術も存在します。現在はこういった転移系の魔術を中心に調べています」

「りょーかいっ。説明ありがとー」

「いえ、あまり具体的に説明できずすみません……」


 ちら、と後ろで控えていたカトレアに視線を送ると、彼女はウィンク交じりに片頬を上げて頷いてくれた。……よかった、充分な説明になっていたみたい。


「他に質問などはありませんか?」

「んじゃ、俺から2点くらいいいか?」

「え゛……クロさん?」


 今まで沈黙を貫いていたクロさんが、まさかの挙手。私は思わず顔が引きつる。


「んな怯えんなよ。誰もが疑問に感じてる事を俺が言うだけだっての」

「は、はい……」

「まず1つ目だ。すでにこの街に出て行った奴らについては?」

「学園経由でそれぞれの所在地とかは確認しているみたい。動向についてもやり取りはしているから、足取りは掴める」

「ならよし。次に2つ目。これはお前以外の奴らへ聞く」


 クロさんはハーッと息を吐きながら立ち上がり、バンッ! と手前のテーブルに自分の右手を勢いよく叩き付けた。

 あまりの音にシーダがびくつき、私の肩へとよじ登ってくる。


「――なんで、コイツにンな損な役割やらせてんだよ?」

「や、それは私が学級委員長さんを知らなかったからで――」

「そんでも、コイツらと全然交流のないお前が人集めから何から何までやる必要なかっただろ。過程の話をしてんだ」

「つけ加えると、リアの隣にアタシらが居るのはこの子がお願いしてくれたからよ。セッティングした後に、クロウ以外からこんな質問された時の為に、ってね」


 クロさんとカトレアの言葉に、私を含め皆が押し黙ってしまう。

 彼の怒りは最もだけれど、クラスメイトを知ろうとしなかった私にも責任はあるし、学級委員長さんと相談する事も必要だったと思う。

 私が話を急ぎ過ぎている事もある。でも、本来なら旅立って行った子達を含めて話し合う内容だったようにも感じてはいた。


「本来こっちに来た当日の夜に詰める内容だろうが。クラスの半分もいねー状態で話し合うのは遅すぎだっつってんだよ。それを今リア主導でやるのは良いけどな、もっと先に言い出すべき奴がいたんじゃねーのかよ?」


 唸る様にそう言った彼の切れ長の瞳は苛立ちで更に細められ、先ほど一番に質問を投げかけてくれた男子生徒へと視線が注がれる。

 そんなクロさんの視線を受けた男子生徒は眉根を歪めながら俯いて顔を逸らし、クロさんは後ろ頭を掻いて声のトーンを戻していく。


「……まぁ、確かに色々ありすぎてンな話できなかったのは確かだ。タイミングの見計らい方が分からねーのも分かる。でもお前、クラスのまとめ役だっただろうが。最低限アオヤマと内容は詰めてたんだろ?」

「まあ、それなりには……」

「なら今それ吐き出しちまえよ。そのための場所だろ、ココは」


 言う事は言った。クロさんはそんな様子で息を吐き出しながら再び椅子に腰かける。

 そして数秒男子生徒は押し黙ったあと、天井を仰ぎ一つ深呼吸をしてから立ち上がり、私へと頭を下げた。


「――まず、風銀さん。この場を設けてくれてありがとう。そして、本来なら僕が皆を集めないといけなかった事、本当に申し訳ない」

「いえ……」

「僕の名前はロイド。学級委員長として……何より、此処までしてくれたスノウフレークさんの為にも、今回の集計と結果報告等の事務作業は、僕にやらせて欲しい」

「え、ですが……」

「いいんだ。緒川――クロウの言う通り、最初の時点で何も言い出せなかった僕に責任があるから」


 男子生徒――ロイドさんは、立っていた獣耳をしゅんと前へ倒しながら苦笑する。

 ……どうしよう。そういう事になれば、ロイドさんにも負担が掛かってしまうはず。席の位置的にどこかの商工会に所属しているみたいだけれど……。

 判断に迷っていた所で、クロさんがビシッとロイドさんへと指を差し、


「お前、書記と経理な」

「……うん。引き受けさせてもらうよ」


 役職を言い渡して、前へ来るように手招きすると、ロイドさんがクロさんの隣へやってきて腰かけた。


「だ、大丈夫……? 私もちゃんと手伝うからね……?」

「平気さ。むしろこうして、事務局に入れて貰えた事の方が僕としては驚いてるよ」


 ロイドさんはそう言うと、クロさんから差し出された羊皮紙と羽ペンにインクをさし始める。

 クロさんへ視線を向ければ「続けろ」と言う様に頷き返され、私は気を取り直してクラスメイト達を見回した。


「それでは、挙手制で人数を把握した後、具体的な内容を詰めて行きたいと思います――」



       ◇



 ……結果としては、殆どの子が帰還を選択していた。

 ただ現状、クラス全体のレベルが2から4といった状況下で、街の外に出るのは危険という声もあり、当面は街外への探索には踏み込まないという事で合意。

 少なくとも《彷徨人》本来の役割を全うしてから、元の世界への帰還方法を模索する、という運びになった。


 それからはものすごい勢いで話が広がっていった。

 各ギルド・商工会の面々に分かれて話し合いが繰り広げられ、商工会、港湾ギルド、炭鉱ギルドの生産職・販売職の見習いに行っている生徒中心に、他ギルドと案を詰める事にまで発展している。

 ロイド――くんは、その案件を中心的に取りまとめ、カトレアは騎士見習いや湾岸警備隊の見習いの生徒達と顔をつき合わせて、例の事件も含めて、巡回ルートなどの相談を声を抑えながら話し合っていた。

 一方で、私とクロさんと言えば――


『なぁクロウ、この街に鉄道網引いてみねぇか? スノウフレークさんにも、魔術の件で色々と聞きたい事が――』


 炭鉱ギルドの技術者見習いさん達に群がられ、この街を発展させる為の新しい取り組みについての話し合いに混ざっていた。

 驚いたのが、その輪の中に何人も女子生徒が居たこと。彼女達も男子に影響されて、技術者としてのロマンに魅せられたとかなんとか。

 この街に鉄道を走らせる。当初はそんな話だったけれど、過去に作られた蒸気機関の再現や、運行ルートの形成などはとてもではないけれど知識が乏しい為、『トラム』と呼ばれる一両だけの路面電車を、試験的にではあるけれど制作してみる事になった。

 ……まあ、正確には『モドキ』なのだけれど。


『スノウフレークさん、学園の図書館に蒸気機関の資料とかは?』

『んー……子供向けになってしまうから。街の人の認知度を調べるなら大図書館の方がいいと思う。技術的な側面になれば、過去の《彷徨人》さんが製造した資料とかは役場に保管されているみたいだから、両方とも私の方から話は通しておくね』

『おぉー助かる! 船が蒸気機関で動いてるんだったら、資料にも路線の企画案とか転がってるかもしれないもんなっ!』

『ついでに言っちゃあなんだが、こういった取り組みをする時は役場に資料を提出してからじゃねーとな。外堀埋めてからやった方が資金も下りんだろ』

『なるほど……そうじゃないと作ろうにもお金がないもんね~……どうしよっか』


 渦の様に会話が生まれ、一丸となって目標に向かって現実的な話をしていた。

 それがとても嬉しくて、一夜明けた今でも、気を抜けば口元が緩みそう。


 外出の私服に着替え、準備を終えて一階のエントランスへ降りてくれば、蒸気機関の開発グループの男の子達がソファーやローテーブルが並んでいる一角を占拠して羊皮紙や模型……と言えばいいのかな? 小さな木片をテーブル中に広げたまま、ソファに横になったり、背もたれに身体を預けて眠っている姿があった。

 その中でも、未だに起きて作業をしていたのか、昨夕の内に街役場から持ってきたであろう資料とにらめっこしているクロさんがいて、私は彼の顔を覗き見る。


「徹夜ですか、クロさ、ん……?」


 挨拶交じりにその問いかけをするけれど、私の問いに答えてくれるはずだった彼は……。


「………」


 しっかりと資料を握りしめ、まるで思案する様に太腿に頬杖を突きながら、静かな寝息を立てていた。

 恐らく寝落ちの類だと思う。私もよく本を読んだまま寝ちゃう事もあるし……。


「(寝ちゃってるね~)」

「……もう」


 肩に乗っていたシーダがそれを口にして、私は苦笑いを浮かべながら、階段下にあるリネン庫から毛布を人数分拝借して、この場で雑魚寝している男の子達に一枚一枚掛けておく。


「(これでよし、っと)」

「(お疲れ様~リア~)」


 一仕事終えて溜息を吐く私に、ローテーブルの上に乗っているトラムの模型(仮)と戯れていたシーダは私の肩へ戻ってきた。

 それじゃあ、レアなクロさんの寝顔を拝見させていただくとしましょうか。

 幸い三人掛けソファの右端に位置取っていた彼の傍に移動して、肘置きに手を掛けながらしゃがみ込む。

 この際外出用のパーカーの裾が床につくのは気にしない。コラテラルダメージと言う名の尊い犠牲であるっ。

 といっても、管理人のアンセムさんや食堂でご飯を作ってくれているお姉さん達のお陰で凄く綺麗だから、汚れる事もないのだけれど。


 そーっと肘置きに掛けた手を軸に身体を傾けていき、クロさんの顔を見る。

 最近はバンダナがトレードマークになっていたからか、長い前髪を持ち上げ、左右に流しながら下ろしていた彼の髪は完全に下りきっていて、その顔が少し幼く見えた。

 整った顔の輪郭。スッと伸びた鼻。男の子にしては少し長めのまつ毛は、瞳が閉じ切っている事で纏まっていて……。


「(なに、このイケメン)」


 と、つい言葉にして呟いてしまった。

 その上頬杖を突きながら書類を手放さずに眠っているものだから、私と同年代の子なんかがこんな姿を見ればイチコロだろう。こんな言葉を呟かなければ私も冷静ではいられない。キュン死不可避。

 可愛い、格好いい。そんなダブルパンチを見舞って来るこの寝顔は凶悪すぎる。

 ただ、私としては可愛いという印象が強すぎて、早くも見て居られなくなった。


「(……くそぅ、かわゆい……!!)」

「(確かに~)」


 肘置きから手を離して、座り込んだまま踵を返しながら彼に背を向け、顔を覆っていると、シーダが私の背中からクロさんの座るソファへと飛び移っていく。


「えっ、シーダ――」

「――んぉおおっ?!」


 慌てて彼の名前を呼びながら振り返れば、シーダはクロさんの背中をよじ登っており、そのせいでクロさん、起床。

 ビクッ! と身体を一瞬だけ振るわせて起き抜けの変な声を上げたクロさんは、「えっ、なんだ、虫っ? なんぞっ?!」っと慌てて、眉間に皺を寄せながら両腕を背中に回してその根源を探している。

 声もさることながら、彼の慌て様が思わずツボに入ってしまい、口元を両手で抑えながら私は盛大に笑わない様に震えながら我慢する事に専念した。


「クロちんおはよ~」

「このぞわぞわの原因はお前かーっ!」

「てへぺろ~☆」

「にゃろー人の睡眠を邪魔しやがってっ」

「んぎゃ~っ! 捕まった~!」


 逃げ回るシーダをいよいよ捕まえたクロさんは、シーダのお腹をくすぐったりと弄び始める。ごめんシーダ、今は助けられない……っ!!


「お前も居るなら止めろよ!」

「や、あの……くふぅっ……はぁ、はぁっ……」


 クロさんから抗議の視線を受けるものの、軽い酸欠状態になっていた私は、口から笑い声が軽く漏れてしまい、肘置きに手を置いて顔を床に向けて必死に我慢する。

 あぁ、顔が熱い。片手で手団扇をしていると、クロさんは呆れた様に盛大な溜息を吐いた。

 ようやく落ち着いてきた私も顔を上げると、眠そうに目を細めたクロさんが不機嫌そうに頭を掻きながら尋ねてくる。


「はぁ~っ。ったく……。何しに来たんだよ」

「ううん、気持ちよさそうに寝てたから、毛布掛けたら出ようと思っていたんだけれど……。その、魔が差したと言いますか、なんといいますか」


 う。気まずくて顔が見れない。そう思った私は、口元をわぐわぐさせながら彼から視線を逸らす。


「ガキかお前らはっ」

「一応まだ子供ですぅ~。十八までは成人じゃないんですぅ~」


 顔を逸らしたまま、私はエルの様に唇を尖らせて反論した。

 この国の成人年齢は十八歳。私も来年には成人になるけれど、今はまだ「子供」の範疇。こういうことをしたって問題ない。

 よし、理論武装完了。

 ちらっとクロさんを見れば、笑い疲れてぐったりしているシーダを肩に担ぎながら、空いた右手で眉間の皺を揉み解していた。


「ったく……。こいつらまで寝ちまってるし。まぁ無理ねーけど」

「筋肉痛とかは大丈夫? 薬飲む?」

「ンなもん動いてりゃなんとかなるっての。出かけるのか?」

「うん、森で採取に行こうかなって。戻ってくるのはー……お昼過ぎくらいになりそうかな?」


 クロさんからぐったりしているシーダを差し出され、私は受け取って肩に乗せながら答えると、クロさんは背中に掛けておいた毛布を手に立ち上がる。


「なら俺も行くわ。頭使い過ぎて正直今はなんも考えたくねぇ」

「いいけど……。大丈夫? 顔色、少し悪いよ?」


 念のために、ポーションの入った小瓶を鞄から取り出して彼に持たせると、クロさんは怪訝そうな目でそれを見つめた。


「……なんか色合い変わってね? HPポーションなのかよ、これ?」

「あ、それは私の調合薬。効果を少し薄めて飲みやすくしてみたの」

「ほーん……」

「滋養強壮、体調不良にはこれが結構効くんだよ」

「栄養ドリンクかっての」


 肩を竦めながら苦笑したクロさんは、小瓶のコルクを抜いてぐびっと一気に飲み干していく。


「――おっ、飲みやすい。なんつーか喉に引っ掛からねぇというか……」

「でしょう? 蜂蜜やミルクとかを入れてみたの。これなら小さい子とかも飲みやすいかなって」

「もう一本くれ」

「ダメでーす。短時間での使用は逆に体に悪いんだよ? 夕方にまたあげるね」


 その言葉にしぶしぶ了承したクロさんは、「とりあえず、準備だけしてくるわ」とだけ言って自分の部屋へと戻って行った。

 私は玄関口に移動しながら彼を見送ると、自分の肩でぐったりしているシーダを見つめる。


「大丈夫、シーダ?」

「うん~。やっぱりイタズラはしちゃいけないね~」

「レベルが高かったね、今回のは」

「難易度☆5~」


 顔を上げて話してくれたシーダも、それだけ言ってくてっと倒れ込んでしまったので、私は小さく笑いながらシーダの頭を軽く撫でるのだった。☆5って最高難度なのかな?

 その後、クロさんが一向に現れなかったので部屋へ行ってみれば、ベッドまで辿り着けず、ベッドの脇に顔を埋めて見事に寝落ちしていたので、置いていくことにしましたとさ。

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