第16話 作戦会議
お昼も近くになった頃。騎士団の訓練を終えたテッドくんと、ブティックの仕事を早めに切り上げて来てくれたエルが現れた。
授業時間というのもあって、校舎からグラウンドを挟んだ場所にある図書館に来る子もおらず、午前業務の殆どは各クラスの先生が集めてくれた貸し出し図書の返却と棚戻しの作業や、生徒達が希望した図書や朝の内に済ませた劣化して交換が必要な図書の発注書を作成することくらい。
流石に高い本は買えないけれど、安価なものであれば基本的に購入許可が下りるので、許可が下りた日の内に学園通りにある本屋さんへ発注書を届けて、自由行動日に取りに行く、といった具合になっている。
余談だけれど、仕事というのもあって学園通りで買い物することが多く、日用品の殆どがそこで購入したものばかりになってたり。
「……《片割の精石よ、彼の許へ
半割れになった際、魔力を籠める事で癒着する性質を持つ石を利用した魔術、【メモリー・アタッチメント】を館内の規模に抑えて発動すると、淡い蒼の光が幾つも館内に現れ、受付のテーブルに置かれた図書は羽が生えた様に中空に浮遊して、ゆっくりと相方の石が収められている本棚へと戻っていく。
仕組みとしては、薄いカード状に加工した石を本の表紙に貼り付け、相方の石を元あった本棚に埋め込んで、元あった位置に戻るというもの。
これを作るのはかなり苦労した。図書館内にある本全てを確認してジャンル毎に揃え、劣化していた棚などを一新する際に家具屋さんへ依頼したのだから。
しかも本一つ一つに、加工された石を張り付ける作業は私の方で行っていたので、実際にこの魔術を起用したのはつい二日ほど前だったりする。
正常に機能している魔術を見ながら安心して一つ息を吐くと、テッドくんは感心したような声をあげた。
「へぇ、よく思いついたな。オレなんかじゃ考え付かないよ」
「あはは……。確かにこれのお陰で助かってるんだ。戻す作業は時間もかかるから……」
この魔術式を組み上げたのは、何を隠そう私。床板の裏には巨大な魔術式を焼き付けてあるので、その式の上で詠唱してしまえばあとは自動的に図書が戻っていく、というのがこの魔術のタネ。
ルビア先生のお陰でなんとか基礎魔術は覚えることが出来たけれど、じっくり考えてこの程度。戦闘で即興で組み上げた魔術なんて、今の私には到底扱えないと思う。
テッドくんは物珍しそうに浮遊している本をつつきながら目を丸くしており、そんな姿がどこかおっかなびっくりだった事もあって、私は思わず笑ってしまった。
「な、なんで笑うんだ……。あまりに幻想的なものだったから驚いたんだが」
「くすっ、別に噛んだりしないよ~」
「本は犬じゃないぞ?」
「うぁ、冷静に言われると流石にきつい……」
私は彼から視線を逸らしながら言うと、足下で魔術の補助にあたってくれていたシーダが肩へ登ってくる。
クロさんはクロさんで準備室の中で優雅にコーヒー飲んでるし、エルもエルでアオヤマ先生の差し入れのクッキー食べちゃってるし……。まぁ、クロさんは図書の確認を手伝ってくれたからいいけれど。エルも仕事で糖分欲してるのは分かるし……。それにしても、二人とも寛ぎ過ぎじゃない?
受付から窓越しに準備室の中を覗いでいると、不意にクロさんと視線が合ってしまい、彼は気まずそうに唇を尖らせ二人分のコーヒーを作っていく。
あ、エルが紅茶をオーダーしたものだからクロさんが変な声上げてる。「はぁん?!」とか言ってるし。それでもティーセット探してあげてるあたり、優しいなぁ。
「ちょっと休憩にしようか」
「休憩もなにも、オレは何もしてないんだけどな……」
「さんせ~。ボクおやつ食べた~い」
「はいはい」
シーダのおやつ入れである麻袋を懐から取り出した私は準備室へ入ると、小麦粉にほんの少しだけお砂糖を入れた簡単な焼き菓子を彼へ食べさせる。
遅れてテッドくんも入室して、私がエルの隣に座り、テッドくんと向かい合ってソファへ座ればクロさんが淹れてくれたコーヒーがローテーブルに置かれた。
「ったく、人遣いが荒いぜ」
「ソファでぐだーっとしてた人に言われたくはないかなぁ」
「へいへい、どうせ俺はコーヒー淹れるっきゃ能がねえ野郎ですよ、っと」
「ははっ、それでも一仕事はしたんだろう?」
「ちよっとークロウこれコーヒーじゃんっ! あたしの紅茶はー!?」
「茶葉がねぇんだよ我慢しろっ」
まぁな、とテッドくん側のソファの背もたれに軽く腰掛けたクロさんはずずっとコーヒーを啜っていく。
二人は男同士でたまにお昼を食べに行くことが多いらしく、私とエルの様に時間を見つけては交流を深めていたみたい。なんだかんだで同じことをしているんだとエルと笑い合ったのはつい最近の話だったり。
「そういや聞いたかよ? カトレアの奴、今回の試験フロントメインで行くらしいぜ?」
「……カトレアが?」
その情報はどこから、と色々突っ込みたくなったけれど、唐突にクロさんから切り出された内容に耳を疑う。
フロントというのはパーティーの戦闘時に於ける前衛の事を指しており、メインとは常に前衛を張り続けるという意味。
体力の回復などの為に一度後退することもあるけれど、盾などの防御向きの武器を持たない純粋な近接火力クラスは基本的にヒットアンドアウェイがベター。フロントメインは過酷だ。
以前の訓練でカトレアは大剣に近しい刃渡りの長い大太刀を使っていたので、そのリーチの長さを活かした戦法を取ることは目に見えて分かる。
けれど、ダンジョンの詳細が不明な今、大振りの武器はミスチョイスだと思う。なぜなら狭い空間で戦う事になった場合、大太刀は突きや切っ先を動かすだけの戦法しか取らざるを得ないから。
流石に戦闘の選択肢を自ら狭めに行っている友人に心配はあるけれど、彼女もそれは織り込み済みのはず。きっと何が考えがあるのだと思う。
「カトレアはカトレアなりに、自分の立ち回りを模索してるのかもしれないね」
「好意的に捉えりゃそうだが……。初めての実戦でそこまで上手く立ち回れるモンかねぇ」
「あたし達は元から剣の稽古とかあったけどねー」
「そうだな。あまり慣れ親しんだ物でもないだろうし……」
再び沈黙。エルは心配げな表情を浮かべてマグカップを両手で包み込んで弄り、クロさんも考える様にマグカップ片手に腕を組んで気難しい表情を浮かべ、テッドくんは手元のマグカップに入ったコーヒーを眺めながら、ぽつりとつぶやいた。
「……これは騎士の先輩の受け売りだけども、定期的な訓練だけで突破できるほど生易しくはないらしい。実際、先輩のクラスでも負傷者多数で先生の召喚獣が止めに入った、って話も聞いたことがある」
「そんだけ強力な魔物が出てくる、っつーことか?」
「らしいな。先輩でも初戦は特に苦戦したとか」
「たとえばどんな所でー?」
テッドくん曰く、パーティーメンバーのエンカウント直後や前衛メンバーの負傷時、魔物の数が多かった時などに陣形が乱れてしまい、連携が取り難かったとか。
ゲームでもよくある話だ。対人ゲーを経験している人なら痛いほど分かる。ゲームでもそうなのだから、この『あるある』は現実でも確実に起こり得る要素なのだと思う。
ましてやデータの塊が負傷するならまだいい話だけれど、ダメージを受けるのは仮想の自分ではなく現実の自分なのだから、戦闘というものは、まずその恐怖感と戦わなければならないはず。
……盲点だった。こと
実際に魔物と対峙した時、果たして負傷した際の痛みは如何ほどのものか。想像するのも恐ろしい。
きっと、前衛クラスを選んだ子達の一部は後悔しているのではないだろうか。
そう考えると、不謹慎だけれどやっぱり盾や防具の存在は偉大なんだなぁ。はっきりわかるんだね。
「ちなみにテッドくん。前衛の回復手段はどのくらいあるの?」
「基本は《クレリック》のヒールくらいかな。《ソードマン》や《ファイター》の武器には“
「あー、“付呪”については俺もギルドで習った。攻撃力増加は勿論、デバフ成功率増加、回復性能増加は特に金額が高めになってる。中でもその奪命は桁が違うわ。百万は吹っ飛ぶ。代わりに防御性能増加なんかはやっすいけどな」
「結局は安価で手に入るポーションに落ち着く、って事になるのかなー。騎士団もそうだよね?」
「ああ」
三人の言う様に、便利なスキルほど値段が高く設定されているのは目に見えていた事でもある。
ちなみにポーションもロー、ミドル、ハイと三段階に分かれている。先日神様からの特典で貰ったポーションを薬屋で効能の確認をしてもらったところ、低レベルから高レベル層にかけて三段階の等級が付けられていた。
高湿高温の場所さえ避ければ瓶詰の物なら一月は持つとのことだったけれど、自室のクローゼット内の引き出しはそのポーションが大半を占めていたのもあって、殆ど売り払ってしまっている。
残る在庫はそれぞれ200本ずつ。私の鞄なら半分程度であれば収納可能で、テッドくん達パーティーメンバーに分配すれば殆ど持ち切る事が可能だと思う。
薬効は等級が高いほど回復量と持続時間、効き始めが早い。戦闘終了時から次の戦闘までのインターバルにローを使用するとして、ミドルを戦闘時、ハイを緊急時に使用する方が得策のはず。
身体増強や武器に使用する補助アイテムも忘れてはいけない。
攻撃力を一時的に増大させる『丸薬』と呼ばれるアイテムや、主に近接武器に属性攻撃を付与する場合に使用する、精霊石を粉末状にまで砕き、砥石と配合させた『刃薬』が存在する。これらは比較的安価で薬屋や鍛冶屋などで購入することが出来る。
そしてもう一つ。精霊石の中でも光属性の《光精石》には回復の効果がある。その効果を特殊な技法で抽出したものは『回復結晶』と呼ばれ、これはRPGでもよくある教会でのみ購入が可能。ポーション類とは一線を画す即時回復効果の為、“付呪”の『奪命』スキルと同等かそれ以上の値が付けられているらしい。
「……テッドくんとエルは《ソードマン》だったよね?」
「ああ。オレは片手剣と盾の併用だよ。エルは細剣寄りの、細身の片手剣さ」
「テッドは騎士団で習った剣術だけど、あたしはパパから教わった剣術だからねー」
エルやテッドくん達にも自衛手段はあるみたいだった。《ソードマン》のスキル構成以外にも家柄によって剣術なんかもあるんだ。その能力については聞いておきたいところだけど。
このパーティーメンバーでシナジー効果があるのはエルとテッドくんの《ソードマン》、そしてクロさんの《レンジャー》のみ。
近接火力や敵の憎悪値……ヘイト管理を行うのは《ソードマン》。
その点、《ウィザード》というクラスは自己完結型のクラス。弱体化魔法で敵の魔法防御力を下げ、攻性魔法で高火力の一撃を見舞う。その為、一人で二人分の仕事をこなさなければならないことから中距離から遠距離での戦闘が基本になっている。
もちろん例外として槍を持った《ウィザード》が物理ダメージを与えながら魔法防御力を下げ、物理・魔法の混成スキルでロマン砲、なんてことも出来るらしいけれど、戦闘初心者の私達にはその選択肢はほぼ皆無といっていい。
――ここまでの思考で気付く。
これらの条件下から導き出せる、私達が出来る事前準備と実戦での行動。なにより、《彷徨人》として“特典”を、そしてルビア先生から“魔術”という偉大な技法を与えられた私にできる事は……。
「―――……」
「どしたのリア? 急に静かになっちゃって」
「何か閃いたか、参謀?」
唐突に押し黙った私を見て、隣に居たクロさんはニヤリと悪戯気な笑みを浮かべる。
私は肯定するように、小さく笑みを浮かべながら眼鏡のブリッジを軽く持ち上げた。
……久しぶりだと思う。自分の持ち味を活かす為に何かを語るのは。
そして腰の鞄のベルトを外して、ローテーブルの上に置いた。
「――今回の試験。私達のパーティーでボスを
テッドくんが呆気に取られた表情を浮かべる中、相棒の一人と一匹は……
「……へへっ」
「ほほ~」
「「ええっ!?」」
まるで「待ってました」とばかりに口角を上げ、尻尾を振るう。
そんな私の言葉を聞いたセージ兄妹はぎょっと驚いた表情を浮かべて、エルはギュンっという擬音が鳴りそうなほど高速で私に振り向き、テッドくんはがたっとクロさんが背もたれに腰かけていた事によってソファの足を浮かせながら机から身を乗り出した。
「どういうこと、リア!?」
「本気、なのか? いや……本気なんだろうな。君は」
驚きのあまり声を張ったエルは口元に手をやって申し訳なさげに眉根を下げ、テッドくんは乗り出した身を引きながら困ったような笑みを浮かべてソファに腰を落ち着かせ、腕を組み話を聞く体制に戻っていく。
皆が私の言葉に耳を傾けてくれている。一人一人に視線を合わせながらゆっくりと頷いた私は、鞄を開いた。
「私の手元には金貨五千枚、銀貨百二十枚、銅貨三百枚。消耗アイテムとして各種ポーションが二百本。他に使えそうなアイテムもある。リストは……これ」
「ごっ……せ……っ!?」
「う……っそぉ……」
丸められた一本のスクロールを鞄から取り出すと、エルとテッドくんの二人は目を見開いたけれど、もう慣れた事なんだと思う。苦笑いが飛んできた。
その羊皮紙を広げて開示すると、クロさんは私が転生特典で得たアイテムの数々を見て目を細める。
「……金貨五千枚、ってだけで驚きなんだが? そこの説明はどうよ?」
「クロさんは思い当たるところがあると思うけれど、『クラス初期化スクロール』。教会に持ち込んで一枚、換金してもらったの。基本的に私達が使っているのは銀貨と銅貨だけど、あれはかなり高価なものらしくて」
「レベル50の《ソードマン》の人が、思い切って《ウィザード》になりたい! みたいな時に使うアイテムだったよね?」
「ああ。そのスクロールは、かなり限定された人にしか使えないアイテムだよ。あらかじめ取得していたクラスⅢ相当のものを別の物にしたり、リセットする事も可能にする物だったはずさ」
……とのことです、と苦笑を浮かべた私はクロさんへ視線を送ると、彼は疲れた様に「んで、その金どこにやったんだ」と肩を竦めながら聞いてくる。
五千枚なんて量はとてもじゃないけれど持ち切れないうえ、持っていると怖いので教会の人にお願いして、街役場の隣にある銀行に保管してもらっていたり。
お陰で銀行口座の開設だとか色々な手続きが必要だったので、戸籍作成時に出会った街役場の職員であるオスカーさんが丁寧に教えてくれたので助かりました。流石ナイスミドルな御猫様。やっぱり公務員って金銭関係も強いね。
「あれだけ図書館に入り浸っていたのに、そんな時間がどこにあったんだ?」
「自由行動日で外に出ることが多いからね。次いでに済ませておいたの」
「うわぁお……」
「ウルトラCどころじゃねぇだろ、おい……」
それぞれが感嘆の声を上げる中、私は話を戻す様にして軽くンッと咳払いをしてから、リスト内にある三つの便利アイテムを指差す。
「試験まで一週間を切ったこの現状。戦闘の講習会が増えてくるはず」
「講習会は俺の方で確認済みだ。明日から一日置きに午後の二時限分用意されてる」
「ありがとう。――その時間に合わせて、まずはこの『熟練度スクロール』を使用。これでパーティー内のスキル熟練度に追い込みを掛けるの。きっと訓練用のカカシ相手になるだろうけれど、皆の戦闘時に於ける立ち位置の最終確認やスキル挙動の分析も含めて、纏まって行動しておきたい」
「異議なーし!」
元気よくエルが手を挙げてくれたので、テッドくんもようやく驚きの表情を緩めてくれた。
「次に、『経験値スクロール』。これはダンジョン突入時に使いたいと思う。経験値獲得の仕組みはよく分かっていないから、現場で確認する必要があるので、こればかりは様子見で」
「あー。一撃与えるごとに経験値が貰えるかどうか、って流れか?」
「そういうこと。倒した時点で経験値が貰えるだけなのか、それとも過程で経験値や熟練度が微量ずつ上がっていくのか。そして、パーティーメンバーに経験値は分割されるのか。時間のロスは仕方ないけれど、できる限り検証はしておきたい」
「……なるほど」
……というわけで、必然的にタンクを担うテッドくんに尋常じゃないほどの負担が付き纏う。
なんとかケアする方法を考えてはいたけれど、やっぱり思いつくのは“魔術”以外にない。
ポーションでは回復速度に難があり、“付呪”の特性上、下手な武器に高価なものを付けてはお金の無駄になってしまう。
ましてや私達は全員レベル1。強すぎる力は身を滅ぼす結果になるのは目に見えているので使わないに越したことはないのです。私もレベル5の装備に切り替えた時点で下手な装備棄てるか売るもの。
そして、“魔術”にはパーティーメンバーを瞬時回復することが出来るものも存在する。今の私では魔力総量が心許ないけれど……むむ、これは私も頑張らずにはいられませんね。
一応使えるか使えないかと聞かれれば、使える。けれど連発は難しい。魔術にも
けれど前衛がエルとテッドくんの二名、中衛がクロさんという布陣であれば一時的に後方火力が機能しなくても前線は維持できる。魔力を回復するMPポーションを使用すれば、数秒後には初級程度の攻性魔法は安定して放てるはずだ。むしろ今の私の攻撃手段はそれしかない。本当、低レベルでよかったぁ……。
閑話休題。私は対面に座るテッドくんを心配げに見つめると、彼は目を伏せ、口角を上げながら大きく頷いてくれた。
「君が心配してくれてるのは痛いほど分かってる。でも今は情報が必要なんだろう? なんにでも使ってくれ。オレは君の盾なんだからさ」
「……ありがとう」
……蚊帳の外になっていたエルとクロさんがニヤニヤしてきたので次のアイテムについて話すことにする。
鞄から取り出したのは、中くらいの大きさである長方形型の木箱。蓋を開ければ虹色の七色に加えて白を入れた八本の小さなベルが入っていた。
「最後は『パーティーベル』。本来なら8人パーティーのレイド用に使うものなのだけれど、今回は四本使います」
「メリットはー?」
「パーティーメンバー全員のレベルとパーセンテージ、体力、スタミナ、魔力、敵情報の可視化。多分近接のテッドくん達は除けてしまっていいかも。必要になるのは私とクロさんだから」
「……使ってみてもいいか?」
「どうぞ?」
テッドくんは青色のベルを、エルはオレンジ色のベルを。クロさんは紫で、私は白のベルを各々木箱から取り出して、それぞれのタイミングでそのベルを鳴らした。
リン、と小さな鐘の音が室内に鳴り響き、突如として目の前に小さな光の窓が出現する。
私以外のパーティーメンバー三人分のステータス情報が書き出され、クロさんが「ほーっ」と声を上げた。
これは以前、ルビア先生と試験的に使わせて貰ったので能力などについてはメモに記載されていることもあって、一通り理解できている。
「これは……凄いな!?」
「なんかリアの下にシーダの名前があるー!」
「ほんとだ~!」
その窓を覗き込んだシーダがぱたぱたと私の肩の上で尻尾を振るわせて喜び、私はその窓に軽く触れながら移動させてみせると、皆がそれに倣って自分に適した位置へと修正していく。
「毒や火傷、凍結。防御力低下なんかのデバフが入ると、名前とレベルの横にマークが付いて知らせてくれるから、戦闘の幅はかなり広がると思う」
「お前さんの本領発揮ってトコだな」
「うん」
窓を操作しながら嬉々として言ってきたクロさんに私は大きく頷くと、彼はワクワクした表情を浮かべた。
「こりゃあ益々楽しみになってきたぜ! なぁテッド?」
「ああっ、そうだな!」
「あたしもあたしも!」
なんとかみんなの士気を上げることが出来たみたいでほっとした。
私は微笑を浮かべながらマグカップを手にして、コーヒーを一口啜る。
淹れたてだったはずのコーヒーがいつの間にか
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