第1章 学園生活編

第12話 新たな日常

 この世界、《メラツィア》へやってきて、早くも一週間ほどが経過していた。

 異世界人の《彷徨人》としてやってきた私達はまず、一週間で一般常識を学ぶ傍ら、時と場合によって戦闘を行う、騎士見習いなどを選択する人も多かったこともあり、戦闘訓練も取り入れながら学園の生活を謳歌している。

 戦闘訓練といっても、テッドくん達が毎朝行っている稽古と同様。べつにノルマを設けて魔物を倒しに行くなんて危険なことはせず、各クラス毎に主に扱う武装に慣れるための授業だった。

 例えばテッドくんが専攻しているクラス、《ソードマン》や《クレリック》は片手剣から棍、大剣、槍、斧など近接戦闘系の武器を。《レンジャー》と《ウィザード》は短剣や鞭、槍、杖などの長物を用いて、あくまで『近接戦闘に於けるそれぞれのクラスとしての対処法』を学ぶ。

 それらは今後も『講習会』として開催されるみたいだけれど、基本的には個人の努力が必須になってくる。


 また、クラスについては満十六歳といった私達のような時期に、この街の西部、炭鉱区と港湾区の間にある教会で『クラス選定の儀』が執り行われることで、晴れて自分の臨んだクラスを取得できるらしい。

 つまり。五月下旬のこの時期で、私達彷徨人を含めたブレイシア学園高等部一年の面々は、誰一人としてレベル1の境界線を越えていないということ。


 訓練などによる技術的な習熟はレベル経験値とは別枠の『熟練度』に値するらしく、要はレベル1なのに筋力値などのステータスが上昇するだけの状態であり、経験値は実際に魔物などとの戦闘でしか獲得できない。


 ということは《クラスⅢ》や《クラスⅣ》の騎士団員・騎士団長レベルの人達はそれだけの修羅場をくぐり抜け、この街に生活している人々は熟練度というステータス上昇の恩恵のみを得たレベル一桁の集まり。

 オンラインゲームでもよくある、低レベル層が高レベル層を羨望するという形が自然的に成り立っていて、戦いに身を投じた戦闘民族プレイヤーを、戦う潜在能力は持つものの、自分が積み重ねてきた技術を生かして支えるといった街の体勢が出来上がっている。

 簡単に表現するのなら、誰もがプレイヤーなのに、戦う人とそうでない人同士が相互作用を生み出して共存し合っている、ということ。本当によくできた世界だと思う。こんなゲーム一度はやってみたい。……いや、やるというか生きているんですけど。


 通貨に関しては未だに生産量が安定していない紙幣は、お金持ちという名の貴族勢が殆どを所有している。基本は銅貨、銀貨、金貨といった三種類の貨幣が流通していて、真銀貨と呼ばれるミスリル通貨も存在しているけれども、滅多に出回ることはないのだとか。ギザギザの十円みたいなものらしい。価値は雲泥の差だけれど。

 原則給金としては銀貨での支払いが殆どな為に貴族などの存在が読んで字のごとし貴重とされているのも頷けた。


 人々の階級制度については、私達の住む王国、《ソルティル王国》は王族、貴族、平民といった三階級制。奴隷や下民といった低階層がないということはそれだけの民度を保てているということだけれど、中央大陸を挟んだ向こうの国、《カラディナ帝国》に於いてはその二つを取り入れた五階級制なのだとか。

 中でも帝国にはエルフ族は幸福の象徴とされている風習があり、特に私の様な白髪に白肌のエルフは死体や腕だけでもかなりの高値で取引されているらしい。おぉ怖い……。


 この街にもエルフ族の人々は少なからず存在するけれど、それでも他の種族との割合的には最下位になる。やっぱり気難しく血筋にこだわりを持つきらいがあるみたいだった。

 帝国からの難民も受け入れているらしく、特に奴隷層が殆どなのだとか。それが理由となって戸籍という存在が必要となり、王国側で平民として受け入れられた奴隷の人々は、炭鉱ギルドなどで住み込みの仕事を行いながら知識を身に着け、王国に定住するか、もしくは平民として帝国へ戻るかの選択肢を得られるような仕組みになっている。


 ここまでが、この一週間で私達が知り得た一般常識。他にもいろいろとあるけれど、どうして私達に戸籍が必要なのか、という疑問もある程度消化できた。


 問題なのは、ある程度の知識や戦闘の心得を得た私達の級友の半分ほどが、この街から去ったということ。

 アオヤマ先生と私を含めてクラス総勢三十二名。その内十三名の半数が、先日この街から旅立った。

 級友としても残念で、街の人からも別れを惜しまれたその旅立ちが幸福であることを皆で祈りつつ、彼ら彼女らの背中を見送ったのが三日前。

 そんな一幕を経て、私は――


「……よしっ、今日もやりますかっ」


 時刻は早朝。私は大図書館にもあった円筒状になっている建物の前に立っている。

 学園校舎からグラウンドを挟む形で聳え立った二階建てのそこが、私の職場である図書館。白から焦げ茶色に変色した外装には蔦が絡まり合い、入口にある天井の白いポーチには軽くヒビが入っていた。

 屋根はドーム状になっているので、遠目から見れば少し可愛らしい印象を受ける。


 清潔なハンカチをマスク代わりに口元を覆い後ろで結ぶと、パーカーの袖を巻くって古びた木製の扉を開く。すると、もふぁ~っと中から大量の埃が舞い出てきて、なんとかそれを振り払う。

 内部には相変わらず、大量の埃を被った大型の地図を巻き留めたものや、時刻の読み方を教えるための大きな時計の模型といった、今はもう使われなくなった教材などで満ちており、なんとかここ四日ほどで作り上げた足場を頼りに奥へ進んでゆく。


 相棒のシーダは流石に埃だらけの場所に連れて行くわけにもいかないので、彼は大通りに構えたブティックの服飾見習いとして働いているエルに預けていた。

 エルは最近シーダの洋服を作るのがマイブームだそうで、数日置きにフリル付きの可愛らしいドレスやしっかりとタイを縫い合わせたワイシャツなどを彼にプレゼントしている。それを見たカトレアは何度鼻血を吹き出したことか。


「ふふっ……」


 私は小さく笑いながら、その地図や模型などを外へ出して、掃除道具で埃をはたき落としてゆく。

 そんなところに、先日から工学科の教師として学園へ再就職したアオヤマ先生がやってくる。先生は学園の教師服が届いたようで、白地のワイシャツにモスグリーンのズボンに白衣といった格好。

 ちなみに私は未だに届いてません。それに掃除をする以上制服が汚れる可能性もあるので、学園の先生達にも黙認されていた。


「おー、やってるな」

「アオヤマ先生、おはようございます」

「ああ。……なんだ、一人か?」


 アオヤマ先生は挨拶もそこそこに、図書館の中を伺う様にして身体を傾けて扉向こうを眺め、私は軽く両肩を竦めながら「みんな忙しいので」と小さく眉根を寄せて苦笑する。こうでもしないと、マスクを着けているので表情がわからないから。

 そうかぁ……と寂しそうにしょんぼりするアオヤマ先生。その仕草も愛嬌があって、つい笑ってしまった。


「あはは……。それより先生、どうしてこんなところに? まだ営業してませんよ?」

「見りゃあわかるよ。先生も何か手伝おうと思ってな」

「大丈夫なんですか、授業の方は?」

「今日は午後の二時間だけだから大丈夫だよ。どれ、いっちょ重いもんでも運んでやるか」

「ふふっ、ありがとうございます。助かります」


 こうしてアオヤマ先生の手を借りながら、図書館の読書スペースに乱雑に置かれた教材入れの棚やチェストを外へ運び出していく。

 今更だけど、男手があるとこんなに楽なんだ、といつも手伝ってくれたクロさんとテッドくんの有難さが身に染みる。


 学園内にある図書館の管理人見習い。最初に聞いた時は校舎内にあるものだと思っていたけれど、まさか戸建てになっているとは思いもよらず。蓋を開けて見てみれば、図書館と言うよりも廃家というか、離れの物置き同然の佇まいになっていた。

 責任者であるルビア先生から初めて任された仕事は『図書館の再生』という、かなりの大仕事だったのである。


 個人的にはかなり遣り甲斐のある仕事で、掃除も嫌いではなかったので進んでその仕事を受け持ったけれど、その圧倒的な物量から一人での対処は難しく、こうして誰かの手を借りなければ成り立たない。

 昨日と一昨日のお休みという名の自由行動日もここに来て整理していたけれど、まだまだ片付けるものが多く、落ち着いて蔵書に手を伸ばせるのは暫く先になりそうだった。


 ルビア先生に一体どのくらい放置されていたのか聞いてみれば、凡そ三十年。溜まりに溜まった埃と物品の数々をたったの数日で片付けるのは至難の業。

 座学と訓練の前後などでも作業をしているけれど、奥に進めば出てくる出てくる。未だに使えそうな魔導具や魔導器の数々。挙句の果てには新品同然の錬金釜さえも床に転がっている。あれは強敵だった。だって凄く重いんだもん……。

 救出(という名の掃除)されたそれらは所定の準備室に戻されて行くけれど、毎度毎度先生方が申し訳なさそうな顔をして荷車を引いてやってくるものだから、どう反応していいのやら。


 閑話休題。なんとたったの二十分で七個もの本棚とチェストを運び終えた私達は埃をはたいてゆく。

 基本的に何かが入っているものは鍵が掛けられているので、教務室と呼ばれる職員室へと運ばれていく。そこで使われなくなって保管されていた鍵と照らし合わせが行われる、といった流れ。

 あまりにも量が多い場合は体育館やその場で行われるけれど、教本の場合殆ど新版が出ているので焼却処分や古本屋さんへ持っていくことが多い。


 チェストの中には不思議な液体や、最早何かすら分からないほど融解してしまっている標本などがフラスコに詰められていたりするので、ウィザード系列の《クラスⅢ》、属性魔法に特化したクラスである《エレメンタリスト》のルビア先生がその場で燃やし尽くしてくれるけれど、あれは本当に大丈夫なんでしょうか……不安でたまりません。


「少し休憩するか」

「は、はい……」


 流石に重い物を連続で運ぶとなれば体力も減る。私とアオヤマ先生はマスクを外して、図書館の壁に寄りかかりながら一息つく事にした。

 壁に身体を預けて座った私に対して、先生は立ち上がり懐から煙草を取り出して一服つく。


「あれ? 先生煙草吸うんですか」

「あぁ、まあな。紳士の嗜み、ってやつだ。意外か?」

「はい。いつも生徒とスポーツをしたり勉強を教えてくれる方だったので、てっきり吸わないと思ってました」

「教師としちゃあこれ以上ないくらいの誉め言葉だな」


 ハハッと快活に笑った先生は、携帯灰皿を取り出してその煙草の灰をぽんぽんと落としてゆく。

 ふーっと紫煙を青空へと吐き出した先生は、「ここの煙草も旨くてなぁ」と、こだわりがあるのか少しだけ煙草について教えてくれる。

 どうやら銘柄も何種類か出回っているようで、彼の吸っているそれは自分で作る『巻き煙草』と呼ばれるものらしい。なんでも煙草の草を纏める紙だった部分も草になっているとかなんとか。

 確かに紙は貴重だとされていることから、嗜好品にもこういった形で別のアプローチがされているのだと察することができた。

 それから趣味の話や、自由行動日にどこの何が美味しかっただとか、そんな他愛のない話をしていく。

 緊張はするけれど、それを先生も感じ取ってくれていたのかどこか安心できる落ち着いた口調で返してくれることから、次第にそれはほぐれていった。


 しばらくして、グランド越しにも聞こえていた体育館からの声と剣戟の音が鳴り止み、そろそろかな、と思っていると体育館側から図書館に繋がる道路を通ってテッドくんとクロさんがやってくる。

 学生食堂からグラウンドの外周を通る形でカトレアの姿も見えて、アオヤマ先生が目を伏せながらフッと渋く笑いながら煙草に点いていた火種を揉み消す。


「お仲間が来たみたいだな」

「くすっ……そうみたいです」


 私はその場から立ち上がると、クロさんとテッドくんがアオヤマ先生の姿を見て挨拶を交わしてゆく。


「ペインテッドは毎朝よく見るが……どうしたクロウ? お前さんが朝練なんて珍しいな」

「まっ、付き合いってヤツでね。最近はやってますよ」

「体力も有り余っているみたいだったので、お誘いしました」

「そうか。そいつは昼行燈なところがあるからなぁ。これからもよろしく頼む」

「はい!」

「おぉい二人で進めんな!? 俺だってゆっくりしてぇ時もあるんだからな!?」

「おはよー。……クロウは何荒ぶってんの?」

「おはよう。朝練の件で二人にからかわれてる……」

「ざまぁ」

「はぁん?!」


 クロさんは声を半音上げながら煽ったカトレアを軽く睨み付け、私はまぁまぁと彼を窘めながら落ち着かせる。

 アオヤマ先生はそんなやり取りを笑いながら眺めたあと、「そんじゃあ、もうひと頑張りするかぁ」と言って再び袖をまくり上げるのだった。



       ◇



「……おや。アオヤマ先生もいらしてたんですか」

「おはようございますす、カーバンクル先生」

「ええ、おはようございます。……大分疲れている様に見えますが、大丈夫ですか?」

「ははは、年は取りたくないものですなぁ。まぁ午後の授業に支障がない程度に、適当にやらせてもらってますよ」


 九時を回った頃、金髪紅眼の美女が図書館前に現れる。

 彼女の名前はルビア・カーバンクル先生。エルフ族特有の長い耳を持ち、白いワイシャツに黒いジーンズといった格好で、襟元には黒いネクタイを通し、金をあしらった黒い外套コートを肩に羽織っていた。

 そんな先生がアオヤマ先生と挨拶を交わすと、中で床掃除をしていた私へと手を振ってくれる。私は一緒に床掃除をしてくれていたクロさんとカトレアに断りを入れてから彼女の許へ、口元のマスクを外して駆け寄る。


「おはようございます、ルビア先生」

「おはようスノウフレーク。いつもすまないな……。私も手伝いたい所ではあるんだが……」

「魔法科の授業もあるんですし仕方ないですよ。むしろこうして気に掛けて頂いているだけでも嬉しいです」


 眉間に皺を寄せて憂鬱気に口元を緩めた先生へ、小さく微笑を浮かべながらフォローを行う。

 実際に魔法科という授業は初等部から始まっていて、要は地球で言う科学や生物の授業に値している。アオヤマ先生の工学科は技術や情報処理といった具合で、各教科の中にも授業内容が複合されたものが存在している。

 それにルビア先生と言えばこの学園の中でも指折りの実力者であり、戦闘経験の豊富な《クラスⅢ》にまで至っている。それは騎士団の分隊長クラスの人材を教師として抱えているということと同義であり、先生は初等部から高等部までの授業や講義の一切を引き受けているのだ。


 何より、先生の授業は面白く分かりやすい。各学年に合わせて説明を掘り下げて、魔法という存在を暗記科目としてではなく、理解させるように授業を行ってくれていることから生徒からの信頼も厚い。

 そんな先生が管理人の責任者になってくれているんだと思うと、見習いの私としても胸が熱くなるほどモチベーションが上がるというもの。


「でも、私一人じゃ解決できないこともあると思うので……何かあった時には相談させてくださいね、先生?」

「(……はぁぁ……っ。尊い……!!)」

「ルビア先生!? どっ、どうされたんですか!?」


 目尻に涙を浮かべながら口元を抑えて悶えだしたルビア先生の身を案ずる。何か口走っていたように感じたけど……。気のせい?

 アオヤマ先生はルビア先生の後ろで苦笑いを浮かべていて、襟足に手をやっていた。


「……いや、少々若さに当てられてしまってな……」

「よほどお疲れなんですね……。すぐにお席の準備します」

「いや気にするな。今日は君達に通知を持ってきたんだよ」

「通知……ですか?」

「そうだ。先日のガイダンスで定期試験の事は聞いているな?」

「はい。二か月毎に行われる試験で、高等部は各見習い先の業務レポートの提出、戦闘による実技訓練が交互に行われると伺っていますが……」

「その通り。今回君達彷徨人の来訪によって、試験の日程を先延ばしにしようという話も教師陣の中であがったんだがな。残念ながら長期休暇を含めて実現が難しくなったんだ」

「そうだったんですか……。あっ、拝見します」

「ああ」


 ルビア先生からスッと差し出された羊皮紙には、次の定期試験の日程やその内容が記載されていた。

 試験日はおよそ二週間後の六月中旬。今回はレポートの提出などではなく実技試験だという。

 内容は学園地下に存在する多種多様なギミックが存在するダンジョンの攻略。難易度はAからDまで存在する中のDランクが付けられている。


 ランク付けについて尋ねてみると、学年の平均レベルに沿った形で設定されているらしい。要はレベル1でも走破することが可能な難易度ということ。

 出現する魔族のランクは魔物、基本的にレベルは2から3のそれがダンジョン内に跋扈し、彷徨人は在学生徒と2名ずつの4人パーティーで行動するみたいだ。羊皮紙の下には学年と四人用の枠が載っている。


 けれど、ただ走破するだけでは意味がない。一部の教師が使役する召喚獣を同行させ、各パーティーそれぞれの行動をスタートエリアから見て採点を行うらしい。これは恐らく生徒達が危険だと判断した場合にフォローを行う為の救済措置だと思う。

 そして、ゴールエリア直前にある広いエリアにて、難易度が少しだけ高い魔物が配置される。つまりはボスエリアだ。4人パーティーでは対処できない為、ダンジョンの構造を弄って、ボスエリアの前には合流ゾーンが設けられるという。

 事前に支給されるアイテムは回復ポーション八本、非常時に撤退用として使用する煙玉と閃光玉の三種類。後者の二つは一つずつ配られるようだけれど、多用はできないみたい。


 個人的に引っかかるのが先生が使役する召喚獣。恐らく高いレベルが設定されていると思うのだけれど、この存在が手を出した所で減点になるのは目に見えて理解できた。

 でも。高レベルであり尚且つ有効勢力であるということは、“監視と救助の為”と言われたらそこまでだけれど……それだけじゃない様な……。


「戦闘に関して不安があるのなら、いつでも相談に来てくれ。私で良ければ付き合おう。その書類は君達三人で共有してくれ。あと、パーティーの申請については試験の一週間前に提出。教師であれば誰に提出しても構わないぞ。でも、名前だけは書き忘れるな?」

「はい、分かりました」

「話は以上だ。ほら、仲間が呼んでいるぞ? 行ってやるといい」

「……ありがとうございますっ」


 先生は優し気に微笑んだあと、館内に居たクロさん達を見て私を諭す。

 私は二人へ一礼して再びマスクを身に着けて戻っていくと、後ろでは「いつもああなのですか」「ええ、まぁ」と二人の会話が聞こえてくる。

 一体なんの話だろう? と思っていると、床掃除を続けてくれていた二人は窓を開いていよいよ埃を出す作業へ移っていた。


 なんとか大きい物は外に押し出すことが出来たので、次は床や棚の清掃。その後は休憩室という名の準備室と書庫の清掃が残っている。

 幸い準備室や書庫には移動を必要とするものはなかったから、あとは本格的に掃除をするだけだ。

 入口からすぐの両脇に書庫と準備室があり、進めば準備室と隣接した形で右手にカウンターがある。

 その奥は二階建ての吹き抜けになった本棚が一面に広がっている。生憎と読書スペースもないので、一階の広いスペースを活用したいところ。

 徐々に見えてきた図書館の内装に、私の胸は期待で高鳴るのだった。

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