第2話 可愛いは作れる!? 異世界召喚!

 神様曰く。

 私達の住んでいた日本、それも地球とは一切合切が異なる中世西洋風の世界は《メラツィア》という名前らしい。


 召喚される場所は全員同じで、東西南北と四つに区切られている領域の東部、《イーストプリュム》と呼ばれる領域内にある、三国家の内の一つに現界するとか。


 他の国家もあるみたいだけれど、詳しい歴史は向こうに着いてから学んでね☆ と言われてしまって、あまり情報は引き出せなかった。


 地図や写真……というよりかは、ホログラフ映像を見せてもらった限り、陸続きではなく、巨大な島が点在しているようで、北西側に位置する《ソルティル王国》と、東側に座する、ソルティル王国より一回り大きな大陸。そんな二大陸の中間地点に国名のない中央大陸が存在し、その南側に他の三大陸よりも幾分かサイズの小さい陸がある。


 どれも海を挟まなければ往来は難しい様に思えるけれど、きっと船舶に力を入れていたり、大きな橋を架けてたりするんだろうな、と推測できた。


 そして、神様の言っていた『手続き』と呼ばれるもの。それは種族の選定や、ロールプレイングゲームでいう職業システム――クラスの決定だった。


 種族選定時に於ける日本人特有の身体的特徴や名前を特別にもう一度決定できるというもので、所謂キャラメイクに等しい。

 それはもう、読んで字のごとく『可愛いは作れる』のである。あ、でも性転換はダメみたい。なんでも『アダイヴ』あたりが許可しないとかなんとか。


 誰もが新たな自分に生まれ変わる事ができると知り、周囲が不思議な光に包まれて新たな姿となってゆく中、私はひとつ疑問を感じていた。


「んー? キミは種族選定しないのかい?」


 小学生の授業参観のとき、「親御さんと一緒に考えてみてください」と言われた親のような感覚で、後ろで手を組んで私へ歩み寄り、手元にあった浮遊する光の板を見つめていた私を覗き込むように見てくる。

 私は好機だと思って、ぽつり、と彼へ尋ねてみた。


「種族やクラスがある、っていうことは……魔物、もしくはモンスターの存在がある、ということですよね?」

「お」


 神様は驚いたようにその瞳を大きく見開き、私を見ると、すぐに笑顔になる。どうやら真実のようだ。


「みなさーん! クラス選定の前に僕からひとつ、伝えなきゃいけないことがありまーす! これから向かう世界、《メラツィア》にはモンスターが存在します☆ クラスはなんでもいいやーとか、適当に考えないように気を付けてねー!」


 そして彼は盛大に手を振りながら説明を付け足すと、一仕事終えたような満足顔で額の脂汗を拭いとり、私はジト目で彼を軽く睨みつけた。


「……ひょっとして忘れてました?」

「テヘペロ~☆」

「いやいやいや、それ言わなかったら大変なことになってましたよ絶対……!」


 言ってよかった……。私は顔を青ざめさせ心の底からそう思う、神様は軽く舌を出してウィンクするのみ。いやホント、事前準備は念入りにした方がいいと考えられる自分のゲーマー脳に感謝するばかりですよ……。

 でも、モンスターの類はいるんだ……。城壁とかで街を囲ったり、モンスター避けの道具があればいいんだけど。


 聞けば、人の身長を基準に魔物、魔獣、モンスターと区分されているようで、人の背よりも低いものはスライムなどの魔物、それを越すものを魔獣、規格外な力や大きさを持つものをモンスターと呼称しているらしい。


 人里の周辺には原則的に魔物の類は住み着かないようで、いたとしても魔物レベルのものばかり。魔獣やモンスターなどは自分の生息域があり、普段は人里に気概を与えないという。自分の巣などを突かれない限りはお互いに不干渉みたい。


 次に種族。これは主に六種族あるとか。

 一つは私達と同じ人間の《人族》、魔物やモンスターの総称である《魔族》。RPGあるあるの《エルフ》や《ドワーフ》、ケモミミ族の総称である《獣人族》や、滅多に姿を現さない《竜人族》などが居るという。

 なんだ、ハグ〇ッドみたいな巨人はいないのか、と思っていたらどうやら《獣人族》に含まれているらしい。ウソでしょ……ケモミミハ〇リッド……アリかも。


「さて。キミはどの種族にするのかなー?」

「……こんな見た目ですし」


 私はいよいよ種族選定の項目で《ハーフエルフ》を選択すると、頭部や表情の画面が出てきて猫耳から狐耳、狸の耳まで多種多様な耳のデザインが出てきて目を白黒させる。


 ……なるほど。ハーフというだけあって、他種族との特徴も引き継ぐわけですか。


 辺りを見れば上半身が毛むくじゃらになり、身長をかなり伸ばした狼男や、スカートの裾を思い切り持ち上げるほどの狐の尻尾を生やした女の子もいる。

 人によって楽しみ方は様々。けど私としてはあまり身形を変えるつもりはないので、せめてもと思い耳の形をエルフ特有のやや尖った耳にすることにした。


 もちろん容姿に自信がある、というわけでは断じてないけれど、可愛くてニューゲームはゲームの中だけで間に合っていた。


「うんうんっ♪ すこーしだけ尖ったお耳がとってもキュート☆」

「あ、ありがとうございます……」


 神様の言葉に私は少しばかり顔を熱くしながら、画面の切り替わった光の板に再度触れた。


 次にクラス選定。オンラインゲームでよくあるビルドシステムが導入されているらしく、王道の剣や槍などを扱う《ソードマン》、魔法を使って戦う《ウィザード》を抑えた四種類のクラスが用意されている。

 他にも弓や弩――ボウガンを使用する《レンジャー》や物理で殴って回復する《クレリック》も存在する。フォロー系では恐らくクレリックになるのでは? と思ったけれど、魔法的支援を行うなら《ウィザード》の方が間違いなく正攻法だろうか。


 レベルアップをすることで、各クラスに設定された上位クラスを取得してゆくといった具合。一次クラスの《ソードマン》などは《クラスワン》と呼称され、六次クラスまで存在するという。


 レベルの概念にも触れておかないといけないかな。

 異世界召喚者の私達はレベル1からのスタート。最高レベルは区切りの良い百。ということは、《クラスⅢ》は凡そ五十手前といった具合だと思う。つまりそれ以上はバケモノだということ。ひえぇ恐ろしや。

 まぁ、敵に張り付いて攻撃する胆力もないし、どうせならこれまでの経験を活かした行動をしていきたい。


「ウィザード……。なるほどねぇ」


 神様は唸る様に私を見つめた後、これで一通りの作業を終えた事を知らせる『お疲れ様でした』という光の板が明滅して、巻物の様にくるくると回転しながら、螺旋状に浮遊して天井に消えてゆく。……ポケ〇ン交換みたい。誰と交換するんだろう。


 ようやくいち段落ついたところで、私は息を吐くと、隣にいた神様はみんなへと声を張っていた。


 結局、最後まで隣に居てもらっちゃったなぁ……。助かりはしたけれど、他のみんなも色々と聞きたいことがあったんじゃないかな……?


「最後にっ! 今回召喚されるにあたって、みんなへ“特典”を渡したいと思いまーす! 武器や防具、アイテムから乗り物まで! 好きなものを一つ、思い浮かべてくださーい! あっ、ちなみに『ぼくの考えた最強の武器』とかはナシね! 思念体までは実体化できないから!」

「特典……」


 何が良いだろう。男子生徒の一部が「エクスカリバァー!!」とか「バイク!」とか叫んでいるけれど、本当にああいうものでいいのかな……。


 どうせなら家族の写真とか、そういうものの方が心の支えになっていいと思うのだけれど……。

 まあ、私にはあまり縁のないものなのかもしれない。


「あの……」

「ん~? どうしたの、リアちゃん?」

「……私のやっていたゲームのアイテムなんかは、実現できますか?」

「それは電子体だから大丈夫だよ☆ ゲームのアイコンでデザインされたりするやつだよねっ?」

「あ、はい……それです」

「ならオッケー☆」


 神様はウィンクしながら指で輪を作ってオーケーサインを出すと、私は心の中で念じる。


 それは、ゲーマーだった私だからこそお願いできる“特典”なのかもしれない。

 色々なゲームをしてきた。ローカルゲームは新作が出れば買わなければならないというデメリットがあったけれど、オンラインゲームならバージョンが変わってもアップデートするだけで追加の御金(課金以外)を払う必要もないのだから。


 そんな私の様子を見た神様のクスッという笑いと共に、彼は再び声を張った。


「それではみなさん、新世界をどうぞお楽しみあれ! 実りある生活を――いってらっしゃい!!」


 こうして私、風銀理愛ことリア・スノウフレークは新世界メラツィアへと旅立つのだった。

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