元コミュ障JKのハーフエルフはクラスメイト達と異世界にやってきました。
神椎幸音
序章 誰が為に鐘は鳴る?~For Whom the bell rings~
第1話 チャラ神様、登場
――中二病。
それは中学二年生の思春期に見られる、背伸びをしがちな時分に対して自虐するための言葉。
思春期にありがちな自己愛に満ちた空想や思考などを揶揄したネットスラングであり、「病」という表現を含むものの、実際に治療の必要とされる医学的な意味での病気や精神疾患とは無関係である。
……ウィキ〇ディアさん参照。
私は「中二病」という言葉の発案者に異議を申し立てる。
いつまで経っても右の眼帯取らないからって、みんな指差して「中二病」呼ばわりするのはやめていただきたい。というか、やめてくださいお願いします。
中には「大丈夫、誰もが通った道だから」といって肩に手を置く男子生徒も。慰めの言葉は要らないのでそういう扱いはやめて頂きたいのですが……。
そして、好きな子相手に面白がってスカートめくりする男子じゃあるまいし、擦れ違いざまに眼帯取ろうとしないでください。
中身が、中身が見えてしまいます。
……といっても、目しかないのだけれども。
「はぁ~……」
朝のホームルームを終え、授業前にお手洗いへ行っておこうと思った私こと
典型的な日本人とはかけ離れた容姿を持っているせいでよく外国人と勘違いされるけれど、これでもれっきとした日本人なんです。ええ、日本人ですとも。納豆大好き、梅干し大好き。あ、最近納豆にチューブのきざみ青じそを混ぜるのがマイブームです。美味しいよ?
色素の薄い白肌、腰まで延びた白髪。パッと見て日本人と判るポイントが殆どありませんが、日本人の平均的な身長と左目はしっかり黒です。個人的にこれが一番ポイント高いと思う。
で、どうして右目だけ眼帯で隠しているのかというと、万年ものもらいを発症しているわけではないです。虹彩異色症という俗にいうオッドアイのため、結構怖がられることが多かったので隠しているだけなんです。
色合いも独特でブルーベリー色……といえば親近感が沸くと思うのですが、正直言って群青と表現した方がしっくりくると思う。
それより聞いてくださいよぉ……。教室からわずか十数メートルのトイレに来るまでの間に、眼帯取られそうになったのが六回もありました。ほんと勘弁してください……。右目に泣きぼくろもあるので見られるのが恥ずかしいんですよ……。
転入したてで友達作りも下手そうなオーラが出てるからって、からかい交じりにコミュニケーション取られても困ります。確かにそこで会話が生まれれば嬉しいけれど、挙動不審になってしまうのでもっと自然に声をかけてくださいお願いですから。
前の高校でもよくからかわれたりしましたが、あそこほど酷くなければいいなぁと思います。……結局、自分の行動次第なんですけどね。
「……よしっ」
鏡の前で精一杯、二週間目に入った新しい高校での学校生活を頑張るべく奮起して、次の授業の準備をするために教室へ戻る。
もちろん、大手を振って教室に入りなんてしたら絶対眼帯を取られそうになるので、なるべく気配を消して。
自分の席が教室後ろのスライド扉から入ってすぐの席の為、割とすんなり入れます。
そそくさと席に戻って次の数学の教科書を出して準備完了。ふぅっと息を吐くと、ちょうどスポーツ刈りにした中年男性の先生が入室してくる。
あの先生、始業のチャイムより早くやってくることで有名らしく、チャイムが鳴るまでは生徒達とコミュニケーションをとってくれる、割と人気な先生らしい。名前は……なんだっけ? 青山先生だったかな?
先生のことを一人一人苗字をつけて呼ぶでもなく、「先生」という総称で呼んでいるので学校あるあるなのだけれど、転入した者としては出来るだけ名前は覚えておきたいな。
やがて始業のチャイムが鳴り、青山先生の立つ教壇の目の前にある席だった男子生徒の頭を笑い交じりにくしゃくしゃと撫でまわしたあと、「号令ー」と言ってその日の日直さんへと授業開始の号令を指示しました。
起立・礼を行って授業が開始される。正直この高校に入って二週間。なんとか勉強の方では追いつけたけれど、田舎と都会では本当に進む速度が尋常じゃない。田舎では一度の授業で教科書は五ページほど進むけれど、こっちでは八ページとか多ければ十ページは超える。ふぇぇ……都会怖いよぅ……。
でも青山先生も授業のペースが速かった時などは課題を出さずに希望者だけで昼休みなどに勉強会を開いてくれる先生であり、時折体育館で生徒達とバスケやバレーをしたりと本当に人付き合いのいい先生だと思う。
「風銀ー、ついてきてるかー?」
「あっ……は、はいっ! なんとか……」
色々と考えていると青山先生に呼ばれてしまった。言葉尻をしぼんだ返答に先生も苦笑いを浮かべている。あぁぁ……はっずかしい……。
顔が熱くなりながらぺちぺちと頬を叩いて授業に集中しようと、両目を閉じて深呼吸しながら肩の力を抜いた。
そんなときだった。
「おっ? ――おいっ!? なんだこれ!?」
「真っ暗じゃん! 先生電気点けてよー!」
閉じた目の外でクラスメイト達がざわつきだし、はっとして目を開けばあたりは真っ暗に。
真夜中や暗室の中とは違う、本当に光源のない空間に、一人椅子に座ったまま放り出されたような感覚。
どこが上で、どこが下なのか。上下左右、様々な方向感覚や身体の均衡が失われる。なんだろう、この感覚。……あ、昔テレビで見た『タイム〇ョック!』とか言って縦横無尽に椅子に座った人が回転するあれに近いかも。乗った事はないけれど。
徐々にきーん、という静かな空間に居た時に感じる耳鳴りがして、私は思わず目をつむってしまう。あまりの奇怪な現象に動揺しているのもあるけれど、これからどうなるのかなども予測するのも難しい。
とりあえず気を落ち着かせるために深呼吸を繰り返していると、まるでフルーツバ〇ケットなどで音楽が止まったあと、勢いよく着席した後のように唐突に均衡が定まり、思わず「えっ?」と声をあげた途端、床が光を放つ。
周囲には私と同じように椅子に座ったまま騒ぎ続けているクラスメイトの顔ぶれがあり、一人ではないことに安堵の息を吐く。
そして好奇心に駆られたクラスメイト達はおもむろに席から立ち上がり、円状に広がっている光る床の上で飛び跳ねたり、壁を探そうとぎりぎりの所まで歩み寄ったりしていた。
「なんだここ……?」
「そっち壁あるー? なんか落ちそうじゃねー?」
「あっは、なにそれ、マ!? ウケるんですけど!!」
「みんな落ち着け! とりあえず自分の席に座るんだ!」
青山先生の声かけによって、辺りを見回っていた生徒達が席に戻ってゆく。
足元の素材は……なんというか、窓にも使われている強化ガラスのような。つるつるとしたガラス状の素材が使われているようで、手触りもいい。
とてもではないけれど、学校の木製の床とは一切異なったそれに私はより一層不安を覚えた。
「風銀、へーき?」
「う、うん……。深山さんは平気そう、だね?」
「そりゃ流石にビックリもしたけど、今はとにかく動かないとーってね」
私の前の席だった小麦色に肌を焼いた金髪ギャル、
編入当初からよく声を掛けてくれるいい人ではあるのだけれど、その容姿からちょっと敬遠しかけている存在なのだ。
実際姉御肌で、クラスメイトからも慕われている深山さん。やっぱり行動派なんだなぁと感じていると、突如として空から光の粒が私達へ降りかかる。
「雪……?」
私の呟きを聞き取った深山さんはおもむろに手を掲げて、降ってきたそれを手に取り顔の前に近づけると……ぱっと科学の実験で試験管の上に近づけたマッチの火が弾けたように、一瞬だけ強く光ったあと弾けた。
「……じゃあ、なさそうねぇ」
彼女の掌にあった光の粒は辺りにきらきらと更に小さい光をちりばめながら消えてゆき、深山さんは目を細めながら訝し気に小さな光を見つめている。
そして、“彼”は唐突に現れた。
空――もしくは、天井から。
真っ暗な天井から星の様に降っている光を身に纏い、まるでアニメなどでよく見る会場の周辺を円状に回りながら舞台へ着地してゆくような演出で。
白金色の髪に、白い肌。耳には銀のピアスがつけられ、エメラルドの様な綺麗な瞳をした男性は、真っ白なトレンチコートの中にワイシャツと白のスラックスを穿いて現れる。
その光を振り払いながらウィンクしながら彼は言うのだ。
「やぁみんな! 僕の不思議なサプライズはどうだった? 驚いてくれたかなっ!?」
「誰だお前ー!?」
「なんなんですか、あなたは!」
「なんだ誰だと聞かれたら、答えてやるのが世の情け――」
「待ってそれすっごいメタい! しかも爆発オチが定番な悪役が言うようなセリフ!」
まさかのクラス全員からツッコミを受ける男性。彼はかなりテンションを上げながら笑って応えている。
……なんというか、総じてチャラい。個人的に苦手なタイプ。ナンパとかしそうな軽快なオーラを放っていた。
げんなりしながら私はその男性を見つめていると、彼はようやく答えてくれるようでふっと目を伏せて笑いながら前髪を掻きあげる。同時に光が散ってゆく。そのキラキラ演出やめて。私には眩しすぎる。
「みんなもよく知る、昔から天地創造だとかアダムとイヴだとか、ラグナロクとか色々やってくれちゃってる『神様』だよ☆」
一瞬でクラス中の空気が冷めた。なにこいつ変なこと言ってくれちゃってんの、みたいな雰囲気が漂い出す。
……まぁ、彼が本当に神様だったとしたら、ましてや私達の世界ではありもしないファンタジックな魔法やらなにやらでここまで移動させるのも可能なのだろう。
この奇怪な異常現象を引き起こした人物が目の前にいる金髪の男性であるなら、信じる他ないと思う。
誰もが私と同じような結論に達したようで、一人、癖の強い髪をしたクラスメイトが手を挙げて尋ねた。
「そんで、どうしてその神様が俺達をこんなところに連れ込むんだよ?」
「よーっく聞いてくれたねそこの黒髪の君! 伊達にアイロンとかワックスもつけてないだけあるね!」
「うっせ皮膚が弱いんだよ」
がりがりと面倒臭そうに頭を掻いた男子生徒に神様はうんうんと頷いたあと、ぱちっと手を叩く。
すると暗闇で狭まっていた視界が一気に
技巧的な柱が幾本も立ち並び、ドーム状の天井は長方形型。そこにはステンドガラスの天窓が付けられており、狭苦しさを感じさせない、開放感たっぷりの空間だった。
あまりに幻想的な光景にクラスメイト達から歓声が沸き起こり、神様はそれを手で制して鎮める。
「君達はとある事情……あっ、まぁ話せないんだけど! 異世界に召喚されることになりました~☆ そのために然るべき手続きをしなければなりませんっ! ので、僕が出てきたわけでーす! これでオケ?」
笑顔を振りまきながら両腕を広げて言う神様に、全員が茫然とした。
青山先生なんて口をあんぐり開けて微動だにしていない。
でも、本当に簡潔で分かりやすいくらいの説明だった。
……そして思う。クラスの一部の男子生徒が口にして歓喜する。
異世界転生来た、と。
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