捜査中行方不明

「そこ、濡れてるんで注意して下さい」


 電話会社の作業員に注意されたヤンだったが、足を滑らせ、転倒しかけた。


「何やってんだ?」

 そう言ったフランツも足を滑らせた。


「ここらは古いんでね。雨水が染み込んで苔が生えるんですよ」


 比較的浅い場所を通る地下通路だが、気温が高く。真っ暗な筈なのに苔のような物が所々生えているせいで、嫌でも滑るのだ。


「……電話線の修理の仕事は多いのか?」

 作業員が馴れた様子なので、フランツが質問してみた。

「そうだな、一昨年辺りから毎日、修理の仕事が来るよ。前はネズミが電話線を齧ったとかが多かったが、今は原因がよく判らないのが多いな」


 作業員は地下通路に通った電話線の基幹線から質屋に引っ張られた電話線を見付け、通常通り通電しているか機械で調べ始めた。


「良く判らないって、例えば?」

 問題が無かったのか、作業員は基幹線から質屋の方へ電話線が伸びてるのをライトの光を当てながら辿り始めた。


「現場に来て暫くすると勝手に直ってたりするんだ。正直、今回もそのパターンかも知れないと思ってるよ」


 フランツとヤンは顔を見合わせた。


「下を見てくる」

「了解」


 フランツが地下室へと向かい、ヤンがここに残ることになった。




「モーテルね。判った、2人に現場に向かうように伝えて」

「待った、俺達も行くわ」

 無線でジェシーと伝言を聞いていたが、FBIのウィルソン捜査官もモーテルに向かうと言い始めた。


「それと、FBIの2人も現場に行くって事も付け加えて。以上」

 無線を切ると同時にウィルソン捜査官は自分の車に向かっていた。


「場所判るの?」

「ああ、一通り場所はリストアップしてたんでな」


 そう言いながら、ウィルソン捜査官は自分の手帳を掲げながら車に乗り込んだ。


「用意が良いわね……」


 ギブソン捜査官と車に乗り込み、通りの向こうに車が消えるのを見送っていると、フランツが電話線を通している地下通路に通じるマンホールから出てきた。


「どうしたの?」

「地下室の方を見てくる。ニナ、来てくれ」


 フランツは車のトランクを開け、剣を取り出した。


「ジャックから伝言で、被害者の泊まってたモーテルが見つかったって。ジャック達に向かってもらってるのと、FBIの2人が向かったわ」


「ああ、判った」




「どうしたの?」

 フランツが店に駆け込んだのでニナが質問したが、フランツは店員に1言だけ断ると、地下室へ降りて行った。


「妙だ。作業員に聞いたんだが、ここ数年、やけに電話線が普通になる故障が頻発しているが、現場に来ると勝手に直るそうだ」


 地下室に入ると、フランツは周囲を見渡した。


「……そう言えば、武器は拳銃だけか?」

 ニナが何も手に持ってないので、フランツは気になった。魔法を使う相手が出て来た時に銃だと対応できないと考えたからだ。


「流石に剣を振り回せないからね。まあ、何時もはそこらに有る物を投げつけたりしてるけど」





「あー、居たな」

 モーテルの目の前の通りで、FBIの2人が車に寄っかかりながら、タバコを吸っているのが見え、ジャックは手前で車を止めた。

 

「待たせたか?」

「いや、管理人から鍵を借りたばっかさ」


 ジャックの車の後ろにバンが止まり、鑑識も降りてきた。


「104号室だそうだ。あの車はレッカーするか?」

 ギブソン捜査官が指差した先に、黒い日本車が止められていた。

 郊外型のモーテルと違い、通りに入ってすぐに駐車スペースが有り、オマケに2階建てだったが、宿泊客が多いのか12箇所在る駐車場の内10箇所に車が泊まっていた。


「ああ、念の為持ってくよ。……そっちは何か持ってく物は無いのか?」

 ジャックが尋ねたが、ギブソン捜査官は両手を広げた。


「いや、大丈夫だ。そっちの事件を優先してくれ」


 お互い揉めないように、証拠品はどっちが集めるか打ち合わせしつつモーテルの部屋に向かっていたが、不意に104号室から男が顔を出した。


 灰色の作業服に作業帽を被っていたので、モーテルの従業員だと思ったが、捜査員たちを見ると大急ぎで部屋に籠もった。


「ん?おい!」

 怪しかったので、ゲイリーとギブソン捜査官が駆け寄り、ドアを開けようとしたが、内側から鍵を掛けられた。


「何だ、くそ……」

「駄目だ、チェーンロックだ」

 ギブソン捜査官が預かった合鍵で鍵を開けたが、内側からチェーンを掛けられていた。


「野郎ぉ!」

「っちょ、マジか!」

 中の様子をギブソン捜査官が覗くと、中に引っ込んだ男が部屋の中心で何か瓶を開けたので、銃を抜きチェーンに銃口を向けた。



「うわ、やったよ」

 ギブソン捜査官が2発発砲し、中に入るのをジャックとウィルソン捜査官は目の当たりにし、2人も慌てて部屋に入ろうと走り出した。


「てめぇ!」

 瓶の中身を周囲に撒き、男がライターを手にしたので、ギブソン捜査官は慌てて飛び着いた。


「させねぇぞ、ごらぁ!」

 倒れた男は上に乗るギブソン捜査官を振り払おうと暴れ始めた。

手錠ワッパを掛けるぞ!」


 ギブソン捜査官が押さえつけ、遅れて部屋に入ったゲイリーが男に後ろ手で手錠を掛けようとしたが、男はなおも激しく暴れた。

 ライターを蹴り飛ばし。ギブソン捜査官が男の左手を両手で掴み、何とか後ろ手に持って来れたので、ゲイリーが手錠を掛けた。


「良いぞ!」

 次にギブソン捜査官が男の右手を掴んだが、男の人差し指の先から火が出ていた。

「なっ!?」



「おい、大丈夫か!?」

 ジャックが部屋に入ると、誰も居なかった。


「何だ!?おい、ゲイリー!」

「ビリー!何処だ!?」

 ウィルソン捜査官もギブソン捜査官の名前を呼んだが返事がなく、2人は部屋を隅々まで探したが、窓も内側から施錠されており、部屋から出た痕跡は一切無かった。



「ん?」

「何かしら?」


 地下室に居るフランツとニナは部屋が音を出して揺れだしたので、周りを見渡した。


「地震かしら?」

 ニナの居た異世界では、年に何度か地震が起こっていたので馴れていたが、それにしては揺れが一定だったので、おかしい事にすぐに気付いた。


「地下鉄じゃないか?」


 質屋の目の前を地下鉄のトンネルが通っているので、フランツはそれを疑ったが。


「いや、違うな。長いぞ!」

 収まるどころか、揺れが激しくなってきたので、フランツ達は外に出ようと、廊下を目指したがその場に転がってしまった。


「うお!」

「ひや〜」




「ゲイリーとギブソン捜査官がきえた!?それ、どういう事よ?」


 地下の騒ぎを他所に、ジェシーは警察無線でジャックからの報告を聞き返していた。


『そのままの意味だよ。怪しい男がモーテルの部屋に逃げ込んだから、2人が部屋に突入したんだ。急いで俺とウィルソン捜査官も部屋に入ったけど、3人共消えてた。窓も全部見たけど、全部内側から施錠されてるんだ』


「そんな……」


「何?何か有ったの?」


 ヤンが地下通路に通じるマンホールから顔を出した。


「モーテルからゲイリーとウィルソン捜査官が消えたって!フランツを喚んで来て!」

「ほい来た!」


 無駄に、颯爽とマンホールから飛び出ヤンは、質屋に入ると、地下に通じる階段を降り始めたが。


「ん?……なんだコレ?」

 地下深くまで伸びていた古い石造りの階段は、木製の階段に変わり、長さも半分未満になっていた。


 何が起きたのか判らないが、ヤンは拳銃を抜き、慎重に地下に降りた。


「フランツ?ニナ?|Jesteś其処に居 tu?るのか?


 声を掛けても返事がない。かと言って、このまま待っている訳にもいかないので、ヤンは地下の廊下を進み、突き当りのドアを開けた。


「……」

 石造りのだだっ広いだけの部屋だったはずが、鉄製の棚が並ぶありきたりな地下室に変わっていたので、ヤンは驚愕した。


「まさか……、地下まるごと変わったのか?」





「収まったな」

 揺れが収まり、床を転がっていたフランツとニナはゆっくりと立ち上がり、周囲の様子を窺い始めた。


「何だったのかしら?」

「さあな。取り敢えず上に出よう。地震だとしたら大騒ぎになってるはずだ」


 状況が判らないので、急いで上に出ようとフランツはドアノブに触れたが、すぐに異変に気付いた。


「どうしたの?」

「妙だ、温かいぞ」

 まだ3月だが地下は暖房が入っていなかったので、部屋に入る時はドアノブを触り嫌な思いをしたが、打って変わって暖かくなっていた。


(銃を)


 ニナに手で合図し、フランツはゆっくりと扉を開けた。



(何だ?)


 扉に対して階段まで真っ直ぐ直進の廊下が在るだけだったはずが、正面に別の扉が在った。


(移動したのか?)

 左右を見ると、今まで無かった廊下が伸びており、フランツは自分達が部屋ごと移動した事に気付いた。

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