身元判明
「コッチはFBIのいつもの2人と遭遇したわ。何でも半年前にニュージャージーで強盗を起こした男が、ここの質屋でも強盗事件を起こしてたから、それの調査ですって」
ジェシーは通りに設けられた公衆電話で警察署に残っているゲイリーに状況を説明していた。
『強盗ね。今回の事件と関係有るかな?』
「さあ?なんとも言えないわね」
『ん!?ああ、待ってくれ』
電話の向こうでジャックとゲイリーが話し合っている声が聞こえてきた。
『鑑識が被害者の財布の中に燃え残ってた免許証の番号を読み取ることに成功したそうだ。今、ジャックが番号をニュージャージーから取り寄せてきてくれた。被害者はニュージャージー在住のジェイコブ・サザーランド。36歳白人男性。厳ついスキンヘッド男だ。前科は脅迫に窃盗、誘拐未遂で逮捕歴も有るそうだ』
「まって、スキンヘッドって話だけど……。スペル教えて」
『ああ、“J”……』
まさか、被害者と例の強盗事件の犯人が同一人物の可能性が出てきたので、ジェシーはFBIに話を聞くために名前のスペルを確認し始めた。
「どう思う?」
妙な雰囲気だった地下室から通りに出るとニナが開口一番質問してきた。
「深すぎるな、アレだと地下鉄や下水道より下になる。他所から誰かが地下室を掘ったのかもな。もっとも、地下室自体が妙だ、少なくとも19世紀以前の建物だ」
「フーーはーー……。単純に古いだけじゃないの?」
深呼吸をしたヤンが何気なくそう言ったが、フランツは首を傾げた。
「だとしてもおかしい。ブルックリンは19世紀になってから都市化が始まったんだ。あの地下室はそれより古い。オランダ人の街が有った時代の建物だとすると、あんな地下室を掘る必要が判らん。ここら辺一帯、全部農村だったんだ、地上に土地が空いているのに何で地下室を掘る必要があるか?」
辺りを見渡してからニナが何か思いついたようだ。
「教会後とか考えられない?地下墓地とか?」
「……いや、無いだろ。オランダ人はキリスト教徒だから地上に墓を作る。向こうの世界のみたいに荼毘に付して、地下墓地に置く事はしない。土葬で済ませるんだ」
「ねえ!被害者の身元が判ったわ!」
3人に気付いたニナとギブソン捜査官が歩いてきた。
「免許証の番号が判ったんですって」
「誰だ?」
フランツの問に、ギブソン捜査官はさっきの写真を取り出した。
「このハゲだ」
「コイツが?」
改めて、フランツは写真を取り、男を注意深く眺めた。
「ニュージャージーで活動してる政治団体の構成員だ。ニュージャージーでの強盗もアフリカ系やアジア系の店ばかり狙ってった。恐らくここの店も店員がアフリカ系だから狙われたんだろうな」
「政治団体?」
フランツが尋ねたが、この男が事件に関わりが有ると判ったので、ギブソン捜査官が男の素性を説明し始めた。
「そうだ。最近、この手の団体に入る奴が多いがコイツはその中でも過激派で、手当たり次第に商店の襲撃をやってた奴だ」
ジェシーが顔をしかめた。
「政治団体を名乗っている割に、破壊行為しかしてないの?」
「ああ、選挙に出ても勝てないのが判ってるから暴れるだけだ」
ジェシーは溜め息を吐き、「呆れた」と言葉を漏らした。
「なあ、お取り込み中悪いけど、ちょっと良いかい?」
離れた所に居た、ウィルソン捜査官が急に顔を出した。
「そのツルッパゲが変な燃え方をして焼死したって話だけど、魔法かどうか判らないのかな?」
フランツの方を見ながらウィルソン捜査官がそう言ったが、そんな簡単な話じゃなかった。
「生憎、俺は魔法が苦手でね。使ったかどうかまでは判らん」
「え、そうなの?」
目に見えて残念そうに肩を落としたウィルソン捜査官だったが、フランツにもどうしようが無い事が有るのだ。
一応、魔法は使える方では有るが、コレはフランツがコッチの世界で知っている自然科学の再現……。水が欲しい時は空気中の水を結露させ、電気を浴びせたければ鉄製の物を帯電させるなどしていた。
一方で、火魔法の方は途端に魔法の難易度が跳ね上がり、フランツが使える火魔法は、精々指先から出した魔力を着火させライター代わりにするのがやっとだった。
「何だい、あんたらは?」
呼び掛けられ、フランツが振り返ると短いアフロヘアーのアフリカ系の中年男性が買い物袋片手に立っていた。
「俺の店に何か用か?」
質屋を指差して、男性がそんな事を言うのでフランツが訝しんでいると、店員が出てきた。
「兄貴!何処行ってたんだ!?色々揉め事が有ったんだよ。隣の肉屋の前に止めてたパトカーに火が着いた男が降ってきたし、強盗事件の犯人をそこのFBIが調べてくれたりとか」
「何か写ってた?」
「なーんも」
ジャックは防犯カメラの映像を見てるゲイリーに話し掛けたが、気怠そうに椅子に寄り掛かり、タバコを吹かしながらビデオを見直していた。
「後どんぐらい?」
「まだ、90分ってところだ」
普通に撮るとVHSテープは120分しか録画出来ないため、防犯カメラは3秒に1コマだけ録画し、1週間分の映像を録画できるようにしていた。
映像が夜中になれば早送りしても良いようなものだが、意外と真夜中に人通りが多く、オマケに元々がコマ送りの映像のため、注意深く見ていないと誰が通り過ぎたのか判らなくなるので厄介だった。
「そっちは?免許証以外に何か出たか?」
「ポッケに車の鍵とモーテルの鍵が見付かったそうだ。ブルックリン地区内のモーテルだそうだ」
そう言いながら、ジャックは自分のデスクの電話で内線電話を掛け、指揮所を呼び出した。
「ああ、ニック俺だ、ジャックだ。ジェシー刑事に伝言を頼む」
『待ってくれ……良いぞ要件は?』
「被害者の持ち物から車の鍵とモーテルの鍵が見付かった。サンセットパーク近くのライムソーダモーテルだ。俺達が向かうかそれともそっちの誰かが向かうか指示を頼む。……以上だ」
『指示を頼むと……他には何か有るか?』
「今の所それだけだ。よろしく頼む」
『任せろ』
ジャックが受話器を置くなりゲイリーが声を掛けてきた。
「指示を待たないでモーテルに行っても良いんじゃないか?」
「駄目だ、ボスはジェシーなんだ。独断専行で動くのは無しだ無し」
バーク警部は伝言を残して先に現場に行くのを良しとしていたが、ジェシーは慎重だった。
万が一何か有っても良いように、意思の統一を図るタイプだったので、ジャックはジェシーのやり方に合わせたのだ。
「店を弟に任せて、アナタは買い物をしていたと」
戻って来た男が店主だったので、ジェシーが聴き取りを始めていた。
「ああ、冷蔵庫が空になりそうだったからな。あー、どっか見る所が有るなら案内するけど」
弟さんと違い腰が低い店主は、店の中を案内しようとした。
「いえ、大丈夫です。もう中は見ました」
「それよりも、地下室の事を良いですかね?」
フランツが割って入る形で、質問した。
「地下室。一度、弟と入ったきり入った事は無いですけど、何か有るんですか?」
「ええ、気になることが。あの地下室の下に何か在りますかね?」
突然、変な質問をされ、店主は目を左右に泳がした。
「さあ、去年から店を始めましたが。不動産屋からは何も聞いてませんよ。……何か?」
「地下室の床に電話線が沈み込んでましてね。電話線の幹線にしては深いので気になったんですよ」
店主は首を傾げながら地面を見つめた。
「下へ?まさか、去年私達が地下室を見た時は、電話線は在りませんでしたよ?電気と一緒で1階の床下から引き込んでますよ?」
「え?」
傍らで聞いていたニナが思わず声を出した。
「それは確かですか?」
フランツが聞き返した所に、電話会社のバンが店の前に来た。
「ええ、弟は頓着ありませんけど。引っ越した時に確認してます」
店主が言ったことを聞きつつ、フランツはバンから降りる電話会社の作業員を眺めていた。
「どう思う?」
どっかの誰かが電話線に細工している可能性が出てきたので、ニナがフランツに耳打ちした。
「これからそれを調べるぞ」
フランツはヤンに合図し、2人で電話会社の作業員の所へと向かった。
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