転移者達

消えた男

 病院の廊下をスーツ姿の男が2人、ゆっくりと歩いていた。


「アイツの様子はどうだ?」

 階段やエレベーターから少し離れた角部屋の病室前に仁王立ちしている別のスーツ姿の男2人組に声を掛けると、ゆっくりと中の様子を窺った。


「まだ、寝てるよ」

 既に昼過ぎだが、病室の中に居る男はベッドの上に仰向けになり目を閉じていた。


「くっつくのか?」

「医者の話だと五分五分だとよ」

「もう3日は経つだろ?それなのに五分五分なのか?」

「それが、意識が昏倒してな。どうも様子がおかしいらしい」


 4人は中で寝る男の右手の事を話していた。

 病室の男は3日前にフランツに手首を切り落とされた男だった。


 逮捕後に病院で手首を縫い合わされた影響で、未だに取り調べは始まっていないが、FBIの捜査官が交代で見張りをしていた。


「意識が昏倒ね。他に何か有ったか?」

「此処でじゃないが、ウィルソンとギブソンは今日一日所用で居ないから面倒は起こさない方が良いな」

「なる程な。判った」


 引き継ぎを終え、交代に来た2人に見張りを任せ今まで見張りをしていた2人がエレベーターの方に2,3歩進んだ時だった。


 背後から、鈍い衝撃音が聞こえた。


「おい!」


 帰ろうとしていた2人が慌てて振り返ると、交代に来た2人が銃を抜き病室に入っていくのが見えた。


「どうした!?」

 遅れて銃を抜き中を見ると、窓ガラスが割れカーテンが外に吸い出され、はためいていた。


「あの野郎、窓を突き破ったぞ!」

 この部屋は9階に位置していた。先に入った捜査官の一人が、恐る恐る窓から顔を出し、犯人の姿を確認したのだが。


「居ないぞ……」


 階下の大通り上に倒れている人の姿はなく、落ちてきたアクリルガラスの破片に驚いた野次馬達が病室の方を見上げていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る