追跡開始
ゲイリーは通りをゆっくりと走るジャックの車の助手席に座っていた。
「捜すって言ってもなあ」
通りを眺めながら文句を言い始めたゲイリーにジャックもボヤいた。
「しょうがないだろ、FBIにも言われたんだ」
既に事件はFBIが指揮を執り、例の捜査官2人と犬耳男が立てた作戦で動いていた。所轄の刑事は
「こんなの“お前を捜してるぞ!”って犯人達に言ってるもんだろ」
交差点に差し掛かり、左右を見ると別の通りを見て回っているパトカーやFBIが乗ってる黒塗りのキャデラックが見えた。
「あの犬耳男の指示らしい」
『居るか?』
『いや、見えないな』
無線機から現場の警官たちの無駄話が聞こえてきた。
フランツとジェシーは少し離れた通りでFBIが用意したバンに乗っていた。
「で、検知器に反応は?」
助手席に居たウィルソン捜査官が振り返りながらフランツに尋ねた。
「未だ無いな」
フランツが持っているのは砂時計のような魔力検知器だった。先程、フランツが実演したが、周囲で魔法が使われると、ガラス瓶の中を漂っている砂が、魔法が使われた方へと引き寄せられる品物だった。
「一応、俺達も居るが本当にいいのか?」
バンの後部には、フランツとジェシーの他に、短機関銃を持ち防弾チョッキを着込んだFBIの特殊部隊とギブソン捜査官も同乗していた。
「ああ、死人が増えるだけだ。援護だけしてくれ」
そう言ったフランツは細身の剣を背負い、短剣を腰に差していた。
「例の魔法か……、本当に銃弾が効かないのか?」
「一応、全く効かない訳では無いが、3人以上で乱射した方が良い」
昨日の警官2人を相手に、狼男が銃弾を避けた事から、狼男は銃弾を“見る”事が出来るとフランツは判断した。向こうの世界ではフランツを含め手練れの剣術使いや一部の魔法使いは飛んでくる銃弾程度なら目で追え、人によっては手で掴んだり、剣で叩き落したりできる者が居た。
「向こうの世界で、例の容疑者に10メートルの距離から銃で撃ったが、アイツに避けられた。だから、避け切れない数を撃ち込むんだ」
変身前の状態でも、遺跡で銃を撃った時に避けられたので、他の特殊部隊の隊員にも注意を促した。
「反応した!」
フランツが手にしている検知器の砂が西の方に動いた。検知器と方位磁石を見比べ、フランツは方位を読み取った。
「西だ、西に向かってくれ」
「了解」
バンが急発進したが、ギブソン捜査官が地図を広げ、今居る場所と、検知機が示した方向を地図に書き込んだ。
「そこら中、警察だらけです」
アパートの外の様子を見に行ってた家主のハスラーは、家に戻るとジーベル少佐に状況を話し始めた。
「付近の通りは警察車両が巡回し、警官が通行人に職務質問をしています。少佐が落とした拳銃を取りに行った私の部下も戻りません。……移動しますか?」
狼男化した時に破れた衣服は粗方回収していたが、拳銃と銃剣をあの路地に落としていた。潜入任務をしている家主の部下に取りに行かせたが、1時間以上連絡がない所を見ると、捕まった可能性が高かった。
「銃声も聞こえたからな……」
ジーベルは外の様子を窓から窺った。
「他に出入り口は有るか?」
「地下室に抜け穴を用意してあります。そこから地下鉄に行けます。そこから、マンハッタンの隠れ家に移動しましょう」
「反応が消えたな」
検知器の砂は再び、ガラス瓶の真ん中を漂い始めた。
「止めろ!」
「了解」
バンが止められ、ギブソン捜査官はペンを片手に地図を広げていた。
「最後はどっちを指してた?」
「西南西だ」
地図にさっきまで居た場所と、今居る場所で検知した方位に向け線を2本引いた。
「……殆ど変化はないな」
少し距離が離れているのか、方位は振れず。建物を絞り込めるほどではないが。
「このブロックだな」
大方のブロックは絞り込めた。
「母ヤギから子ヤギへ。狼はミッチャー・ストリートの318から330が存在するブロックに居る。言い付けどおり家の鍵を開けないように」
ウィルソン捜査官は、駄洒落の意味も込めて、7匹の子ヤギ風に現場の捜査官や警官に向け無線で指示を出した。
「アパートとパン屋、それと倉庫が在ったな」
フランツは記憶を頼りに通りの状況を思い出した。
「向かうかい?」
ウィルソン捜査官が質問した。
「ああ、頼む」
「あら、ハスラーさん。今からお出かけですか?」
1階に降りる途中で、ジーベルとハスラーは買い物帰りの大家と出くわしていた。
「ええ、叔父が訪ねてきたので昼食を食べに」
大家に顔を見られたジーベルは笑顔で会釈をした。中折れ帽とコートで尻尾と耳を隠しているが、それでは不十分なので、魔法で普通の耳が生えてるように大家の目を誤魔化した。
「あらそうだったの。だったら、注意したほうが良いわ。事件が有ったのか、警察の人が一杯居るから。間違えられないようにね」
「お気遣いありがとうございます。ああ、持ちますよ」
「あら、ありがとう」
大家が大きな紙袋を2つ持っているので、ハスラーとジーベルは代わりに紙袋を抱えた。
「警察と言ってましたが、地下鉄まで居ましたか?」
「いいえ、そこまで遠くには居なかったわ。ただ、段々この辺に集まってきてたわね」
大家の老婦人を彼女の部屋まで送り、扉が閉じられると2人は大股で廊下を歩き出した。
「警察が集まっているとはな」
「急ぎましょう」
階段の裏に在る扉をハスラーは合鍵で開けた。
「あの大家とは普段から懇意にしているのか?」
「ええ、良い人ですよ」
鍵を開けると掃除道具が収納してある用具庫になっていた。
「このロッカーの下に穴を開けておいたんで、す、よ……」
ハスラーがロッカーを引っ張ると、人が一人なんとか通れる大きさの穴がコンクリート製の床に空いていた。
「行きましょう」
「此処だな!」
ジーベルが姿を偽るのに魔法を使ったので、検知機に反応が有り、フランツを乗せたバンがアパートの前に駆け付けた。
すぐに、トレンチコートと野球帽で耳と尻尾を隠したフランツがバンから降り、遅れてFBIの特殊部隊とジェシー達が降りた。
(後ろから着いてこい)
フランツはハンドサインを出し、ジェシーが頷いた。
「何て?」
意味を読み取れなかったウィルソン捜査官が聞いてきた。
「後から着いてこいですって」
フランツはアパートのドアを開け、中に入っていった。
(上の方だったな)
砂が上を向いていたので、2階以上に狼男が居ることが予想できた。
フランツは上の階に上がると、人の出入りが有ったか痕跡を探した。
(ドロ汚れ……外の地面は雪で濡れていたから在って当たり前。絨毯の凹みも、絨毯自体がくたびれて居るから参考にならん)
「警部!」
ジェシーの叫び声が階下から聞こえてきた。
「反応が有った!下よ!」
地下に降りたジーベルは指先に光を出し、周囲を照らしながら前へ進んでいた。
「この先が地下鉄です。どうかしました?」
地下鉄に通じる木製の扉を開けようとしたハスラーは来た道を振り返っているジーベルに気付いた。
「誰か追い掛けて来たぞ」
用具庫のドアが開いた音がした時は空耳だと思ったが、誰かが地下通路に降り、歩く音が聞こえた。
「急ぐぞ」
2人は地下鉄が通るトンネルに入り駅の方へと走り始めた。
「この先は!?」
地下に飛び降りたフランツは上に向かって叫んだ。
「待って!てか、そこ何!?」
フランツが降りた空間は真っ暗で何が有るのか、さっぱり判らなかった。
「カビ臭いが……」
フランツは懐から懐中電灯を取り出した。
「隣の倉庫から伸びる地下通路だ!何処に繋がっているか判るか!?」
倉庫会社のロゴが入った木箱の残骸が転がっているので、そこから繋がっているのは判った。
「待って……。地下鉄に繋がってるそうよ!検知器は地下鉄の方を指し続けてるわ!」
フランツはジェシーが指さした方を照らし、そちらへと走った。
「私達も地下鉄に向かいましょう」
通路に降りようにも、3メートル以上の高さが有るので、ジェシー達は大人しく地下鉄駅から入る事にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます