Pride of fighter

新高弥三郎

第一話 ヴォルフ

 普段ならば眩しいと思い気にしてしまう太陽。

 速度域グリーン。失速の危険性は無い、それだけを確認し操縦桿を引く、天地逆さになってゴツゴツとした岩肌を持つ山脈とそこから南側にかけて平らな地面と雄大な森が見える。ポツポツといる機体と一緒に


 「クソッタレが、勝てるのかね、状況的に」


思わずそうぼやいてしまう。味方の機数はたった3機、離陸した時点では15機の三個小隊規模もいたのに現在は私と僚機含めても5機しかいない。今の状況に苛立ちすら思えてしまう

 機体性能も自分達の練度も不足していない筈だ。国土防衛の最前線に身を置く私達がたった2機の軽量戦闘機に翻弄されるとは

 考えるだけでも歯を食い縛ってしまう私の耳に雑音混じりの声が聞こえてくる


 《ヴォルフ3!隊長とヤンさんが孤立しています!》

 「分かっているヴォルフ5!奴らの上はとってある、急降下をしかけるから付いてこい!」


 僚機の言葉は少女も理解していた。2機の『敵』戦闘機が2機1組で飛行する1組と1機の連携を崩しながら確実に少女の隊の隊長がいる方に近づいている。少女は背面飛行している機体を地面に突き刺さる角度で重力の力も借りつつ速度を上げる。軽戦闘機に加速がしやすい翼のお陰で機体は地面に吸い込まれるように加速していき、鋭い鼻先を『敵』に向ける。急降下で加速した機体は音速を越えた証のソニックブームを起こし、目標の死角である斜め後ろ上方から一気に距離をつめる。


 しかし目標は少隊長達の後方を取った、だがロックには2秒かかる。2秒あればどうにか喰らいつける。追い付けばあとは一瞬だ、機銃弾とミサイルを奴に叩きこむ。

 奴を攻撃範囲に捉えるべくフットペダルを踏む足を軽く緩めて速度を調整する。照準器のレティクルが奴の姿を捉えていく

 ─後少し、後少しだ─

 私は自分に言い聞かせながら正面を見つめ続ける。少隊長の僚機であるヴォルフ2、ヤンさんが機体を軽く傾ける

 少隊長が『撃墜』され機首をゆっくりと翻す

 ─終わりだ!─

 私は引き金にかけていた指を引こうとしたがある声によって妨げられた


 《ヴォルフ5、撃墜判定。離脱しろ》

 《なっ......いつの間に!?」

 「何だと!?」


 男の声を聞いて少女は正面を見続けていた顔を後ろに向ける。後ろには僚機のヴォルフ5がおり、その更に後方には僚機を失ったヴォルフ4に喰いついていた筈の『敵』がいた

 少女とヴォルフ5の高速を生かした敵の頭上からの急降下による奇襲すらも見破られていた。少女は、ならば目の前のこいつだけでも、と思い正面に向き直したがそこに追っていた目標は忽然と姿を消していた。

 そしてかわりにロックオンアラートが鳴り響いた


 《敵から目を離すとそうなる。》

 「いつの間に!?」

 《ヴォルフ3、撃墜。演習各機、現時点で演習は終了とする。帰投せよ、講評は17:40に行う》


 私の耳に入ってくる無情な電子音。今回の『演習』では2秒以上ロックされれば『撃墜』判定となる。ルールに従えば私も戦死したという事になる

 クソッ!、私は腹立ち紛れにそう叫ぶ。無論こうして本来は何も意味無いが少しは楽になる。冷静に分析すれば奴は私が後方に気をとられている間にオーバーシュートを誘発して後方に付いたのだろう。

 ここまでくるとあの時の隙ですら演技である可能性を捨てきれなくなる。しかしそれでも真実は私が負けたということだろう


 《さすがは教導隊だ、コテンパンにやられちまったなぁ。さて皆、講評が怖い所だが降りるとしようか》

 「......了解」

 演習の結果は1対15のほぼ惨敗だ。隊長は簡単には言うが怖いどころでは済まされないだろう


 夕日に照らされた所属基地の滑走路の上空で少女、クラッリッサ・フォン・ビスマルクは少しでも重い気分をかき消すために機体を旋回させる

 

時は西暦1986年9月11日、サルデーニャ大陸北東部に位置するヴァイザッハ共和国のザーツ空軍基地に15機の鋼鉄の鳥が降り立つ



 

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