第43話

耳を疑うような一言にミウは両目をパチクリさせてんん?と聞き違いかと考えた。

だがそんな甘い考えを否定するかのようなマコトの真剣な顔となにも言わず静かに静寂を保つユイの顔があった。

ツーっと一粒の涙が頬を伝い床に落ちた。






少女にとって百年とは長いようで短い時間であった。

女神としてこの世界に生まれ、誰かに信仰されて存在を保つ有耶無耶な生命。

生きているかと聞かれれば神のみぞ知る、感情もなく延々と生き続けていた。

花の女神という何時忘れられ存在が消えてしまうかもしれないような彼女にも生き甲斐はあった。

深いつながりのある花々を通して人々の生活や森の木々、生物などを見て生きていた。

生まれてからだらだらと人の一生を眺めて過ごす彼女にも夢が出来た。


自分・・を頼って欲しいと。


花々を頼り生活を良くしようとする人間は幾らでもいる、例えばプロポーズや感情を伝える状況で最も使われてる方法といっても過言ではない。

花を頼っても私は頼られたことはない、その事に何かを感じて花を改良し自分の体を作り出した。

無論、服は着た、見ていた人々は全て着ていたしそれが普通だと思っての行動だった。

街に出て王都を歩くとさまざまな冒険者や商人たちが目に入り心の中に何か新しい物が湧き上がるのを感じた。

ダラダラと歩いて見て回っていると良い匂いに釣られて宿屋の中に入ろうとすると一人の人間が店から叩き出されるのが見えた。

黒髪の青年で彼は慣れた動作で立ち上がってボロボロの服を引きずりながら歩いて行くのを見てミウは嬉々としてーー無論そんな感情も理解していなかったが彼女は笑顔で飛びついた。


「誰だよお前」


死んだ魚の目、とても良く見慣れたそれに少女は頬を緩ませる。

花に独り言を呟いていた男たちは全員そんな目をしていた。

つまりこの男は自分を頼るはずだ。


「私はあなたを助けてあげるわ」


「家に帰れガキンチョ、じゃあな」


即答、その上態々手をシッシと振って男は歩いて行った。

ぷーっと少女は頬を膨らませて男の背中を追う。


「待って、私はあなたを助けたいの!」


「詐欺なら帰れ、金は無い、欲しいんだったら宿屋に居る屑男に強請れば幾らでも出すはずだぞ」


「そうじゃ無いの、私はあなたを助けたいの!お金はいらないわ!」


「とっとと消えろ、詐欺くさいんだよ。親に言われたのか知らんが勇者一行に媚び売りたいなら宿屋に消えろ」


どうしてここまで嫌われてるのか、きっとツンツンしてるのだろう。

そう判断して少女は足早に歩いて行く男の背に言葉を掛ける。


「媚び売るとか考えるあなたは捻くれてるのね!」


「黙れガキンチョ、家に帰って飴玉でも食ってろ」


「強い言葉を使う人は嫌いって女の人は言うみたいよ!」


この情報も


「余計なお世話だよ、あんなクソ野郎どもに嫌われるのなら本望だよ」


「嫌われたいの?」


「あぁ、大っ嫌いだし嫌われたいな。あいつらなんか全員死ねば良い」


むむと少女は眉間に皺を寄せる。

死ねば良いとは穏便な響きでは無い、たった一言が気になり少女は男を追う。

良い加減鬱陶しいと思ったのか男は早走りで逃げて行くが少女も少女で小柄な体を上手く使って人混みを切り抜けて男を追う。

なかなかに速いが女神が生み出した最良の体は成人男性ほどの速力を生み出し裏路地へと逃げる男の背に飛びついた。

だが読まれていたのか男は上手く体捌きで避けて全力で駆けていく。


なぜここまで逃げるのか、少女は納得できず全速力で追っていく。

王都の裏街を使った鬼ごっこがその時始まったのであった。


最初に痺れを切らしたのは少女の方だ。

素早く胸元から、というか思いっきり皮膚を千切って男の進行方向に向けて投げつける。


「やっちゃえローズちゃん!!」


千切られたはずの肌は一瞬で変色し緑色になるとすぐに薔薇の芽が生えぐんぐんと伸びていき美しい赤い薔薇の花が咲く。

狭い裏路地だ、棘だらけの薔薇の茎が進行方向を完全に塞いで仕舞えば退路は消える。

少女はにっこりとやってやったと笑い速足で男に追いつく。


「逃げないでね!」


「はぁ......」


男は深い溜息を吐いてぐんぐんと伸び続ける薔薇の木の前で胡座をかいて座り込んだ。

どうしてこんな状況になっているのか男には理解できなかったが今現在自分が追い詰められているということだけは理解して完全に諦めたのだ。


「ねぇねぇ、私に頼って!」


「だからお前は誰だよ......殺すならとっとと殺せよ、もう疲れたんだよ」


ゴロリと転がり男は本当に気怠そうにそう言った。

少女はその一言に本当に困惑し首をかしげる。

だいたい花に独り言をする人間は死にたく無いとか色々な事を言っていたはずなのに何故この男は死んでも良いとか言っているのだろうか。

それが少女の好奇心ーー無論彼女はその感情に気づいてはいないがワクワクとしながら男に近づいていく。


「死んでも良いっていうなら貴方はもう私のものね!」


「はぁ?」


「だって自分で死んでも良いっていうなら勿体無いから私がもらうわ!」


「いやお前は何をやりたいんだよ......」


完全に怪しい少女に男は思わず苦笑を零す。

冷静になり男は少女をじっくりと観察する。

水色の空のような髪に海のように深い青色の双眼、体型から年齢はおそらく十歳に行ってるか行かないか。

体の発育は年相応で完全なるぺったんこであった。

男は冷静に観察はしたものの本当にどうでもよくなり両目を閉じた。

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