第38話
「だが待て、どうやって指輪を抜くかだ」
女神ーー過去に自分を拾って命を救ってくれた優しい花の女神様に一刻も早く会いたい気持ちがマコトにあった。
だがそれよりも本来の目的である指輪をどうするかだ。
誰のものかわからないが聖剣が指輪を取られぬよう地面に突き刺さられているのだ。
選ばれた人間にしか使えない、その概念を利用した荒技の一つだとマコトは少し感心をして性格の悪さに唾を吐いた。
「能無しさん、地面を破壊すればいいじゃないですか」
「いや、あんだけ加護術式が組まれてたら無理だろ」
「貴方の使ってる満開とやらは試したんですか?聖剣が抜けなくてもあんな地面ぐらいなら壊せるでしょ?」
「簡単に言ってくれるけどな、メイリーはもう魔力ないしかといって身代わり石も切れてる、満開を使おうにも元になる魔力がもうないんだ」
満開というのは謂わば身体中の魔力を暴走させて身体能力を爆発的にあげる荒技である。
物質ではない魔力を操作するというのは魔術を使うとはひと味もふた味も違って死に物狂いで覚えなければいけないほどのものだ。
身体中を流れる魔力を外に流す際に敢えて暴走に近い状態にまで活性化させた上で体の表面で停滞させる、それによって体外へと放出された魔力に力を与え体を強化する、よって体の中の魔力が一定量ないと使えない上に安全に使用できるのが五分までなのだ。
適当に歩いて元の場所に戻ったマコトは術式が嫌という程刻まれた床を見て思案する。
(確かに満開で破壊できるかもしれねぇな)
「それにですね、花の女神であるうちのご主人が勝ち組さんにかけた概念魔法は幸せ、つまり人生を幸あるものにするという破格のものですから御都合主義的に貴方に最終的に都合のいいことが起きますよ
「御都合主義って俺tueeee系主人公じゃあるまいしな......」
「確かに今回の一件も貴方が私に協力したから指輪を見つけたり女神の正体を知れたり、その上さらに色々な幸福なことが起きてるわね、そんな概念魔法があるならどうして花の女神は他人に使わないのよ?苦しんでる人間に使えばある程度の効果は期待できるでしょ?」
誰にも理解されず、ただひたすら自分の種族の命運をかけて世界に翻弄されて年相応のことをできていなかったメイリーだからこその一言だ。
幸せにできる、そんな魔法があるなら女神は何故使わないのか。
答えは分かってはいたがメイリーは聞かずにはいられなかった。
「こんな概念魔法一回使っておしまいですよ。この人生ヌルゲー予備軍(クズ)さんが魔王を倒した時に聖剣に成っていたミウはありとあらゆる方法で延命を図りました、その時に全魔力をとして概念魔法を使ったんですよ」
「まさかそれが俺がまだ生きてる理由なのか?」
常識的に考えて数千回死んでさら二百年後に蘇る、そんな話あり得ない。
アイスアは疲れたのかメイリーの美しい白銀の髪を纏める編み込みに腰掛けてため息を吐いた。
どこか呆れてるようで、どこか納得したような。
物知り顔でアイスアはクルクルとメイリーの髪をいじり始める。
「そもそも反転させた花の女神が武装化した聖剣がこの世界の特異点だったんですよ。怨念に飲まれた一人の少年と龍の魂が合わさって聖なる存在である聖剣が完全に汚染されるなんて聞いたことありません。今生きてるのも概念魔法のおかげ、感謝すべきです」
「あぁ、わかった。というか汚染しちまったのはシンジが絶対ーー」
「悪いのは前世霊女神の共通認識です。ナルシストくんがイキって森を破壊するたびに龍や女神、精霊ハブちぎれてましたし、それを必死に直して良いものに変えようと努力する信条さんを見て人類対女神たちなんていうばかみたいな戦争が起きずに住んだんですよ」
「いや、確かに俺やっちゃいました?で森林吹き飛ばすのは俺も害悪だと思うがそんなやばい事態になってたのか?」
「生物の女神を筆頭に死の女神から生の女神、あとついでに憤怒の龍までが人類滅ぼそうぜ?っていってましたよ」
「シャレにならなねぇじゃねぇか!?」
「知らなかったなら良いんですが貴方も一応世界を救ってるんですよ全く別の場所で別の方向で」
「なんか嬉しいような嬉しくないような。だってそれシンジがいなければ俺の評価だけが上がってたろ」
「どっちにしろ自然破壊を続ける人間に怒りを孕んだ女神や七匹の災龍達が暴れるのは時間の問題、寧ろバカさんが死んだ事で新しく生まれ散ってしまった花の女神とその眷属である小さな少年に免じて女神や龍一切人類に不干渉を貫いてますからね。顔を出してあげてくださいよ、災龍のラースドラゴンなんてアホくそさんに教わったショウギとやらの駒を毎日眺めて永遠の時を過ごそうとしてるんです」
誰もこれも懐かしい名前、昔に半殺しにされかけた相手もいた。
それでも百年経っても変わらずに周りの人がいることが嬉しくてマコトは思わず笑みをこぼす。
一人ぼっちで百年後いきていたらとても耐えられていなかったとすら思う。
ユイがいて、アイがいて、エリックがいて、そして自分を助けてくれて聖剣に成ってまで守ってくれた女神もいる。
誰もかれもが今も生きている、自分を覚えていてくれて帰りをふざけたり驚きながらも最後には結局笑って迎えてくれる。
その事実が何故かとても嬉しくてしょうがなくてマコトは静かに目元を拭った。
とはいえ、
「なぁ、花の女神ーーまぁ女神様で良いか、どうしてあいつは俺に正体を教えてくれなかったんだ?」
「それは山よりも高く谷よりも深い事情があるんですよ無能さん」
「俺はその理由の知りたさで死にそうなんですが」
「本人に聞いてくださいよ、腑抜けなご主人がダメ人間さんとお話するチャンスをあげる私偉い!」
偉いえらーいとアイスアは自分を褒め称えながら先ほどから沈黙を守るメイリーの耳元に近づく。
「あのスライムーー何かの中であの子供と溶け合って同化してましたが、結局どうせ心の中の気持ちにぐらい気づいてるんでしょう?」
突然話を振られて慌ててメイリーはアイスアを鷲掴みにし(ギャフンッと声をあげた)マコトから数歩下がる。
そして慌てた様子で手の中のアイスアに説明する。
「私のこの感情はなんというか父親とかに憧れるっていう感じなのよ!決して異性とかそんなんじゃないわ!」
「今はそれで良いですよ、腑抜けは仮ご主人でしたか。うちのご主人を焚きつけたらきっと暴走して信条さんぐらいだったら落ちると思いますよ。いくら妻思い出も決して嫌いではない、寧ろ好感度が高く心の底から信用してる女性に告白されたらーーわかりますよね?」
「何が言いたいかわかるけど、そう簡単に私は動かないわよ。とっとと諦めなさい!」
フーッと猫のように威嚇しメイリーは年相応の少女のように睨みつけた。
三度の飯よりも人間関係の修羅場が大好物のアイスアは脳をフル回転させ次の一言を考え出す。
何故か感じる違和感に賭けてアイスアは態とらしく頭をあけて口を開いた。
「後悔しますよ......そうですよね、エルフの元王女」
「よく私の気配がわかりましたね、駄精霊の分際で。」
「僕に一体何をするつもりなんだい......酔う、吐きそう」
嬉々としてそこに現れたのは二人の女性であった。
方や真っ白な汚れのない新雪のような髪を持つ美少女に黒髪の誰かさんによく似た子供だった。
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