第36話
「勇者伝記だとただ異世界の少年少女としか書かれてないからか色々な考察が溢れてる」
例えば異世界ーー所謂勇者たちが住んでいた世界は地獄の様な場所だとか。
煉獄の災悪の世界とか、魔獣魔物が溢れかえる地獄の様な場所で訓練された特殊な兵士達だから特殊なステータスで特殊な職業、周りに比べて圧倒的な力を持ってるとか。
だからこそ突然異世界に召喚されても笑いあって世直しを落ち着いた様子でやるとか。
またまたある学者はこういう考察を述べている。
例えば彼ら勇者達は天界から召喚された神々の使徒とか。
だからこそ彼らは悪の象徴である魔王を倒せる、だとか。
畑から取れたとかはたまた神々の涙とか、後は有名な説では魔王の生まれ変わりとか。
どんなに説を唱えようと誰一人として勇者の過去を知らない。
今を生きてるのは今の人間であって誰もが未来には希望があるとか、明日は世界は平和になるとか言うが結局あるのは今で過去も未来も関係ない。
世界は淡々と回ってくし、人が転ぼうが死のうが止まることは無い。
結局の話当の勇者はゲーム気分で世界をかき回して自然破壊を繰り返す為に問題しかない。
結果として魔王を倒すので英雄記として残されるが悲劇として残る。
どんなに説を唱えようとそれら全ては今考えられるだけ平和という事実だけが残る。
だが実際は最も簡単な話である。
マコトは軽く咳払いしてから話し始める。
「勇者って祭り上げられてるが実際はなんの変哲も無いただのガキどもなんだよ」
「ガキって......伝説の勇者を若気の至りあるあるの子供って言ってるの?」
「言ってるじゃねぇか、俺なんか召喚されてすぐ口の中噛んで夢だったら冷めてくれってめちゃくちゃ焦ったな、泣いて喚いた」
「でも勇者伝記だと勇者達は全員落ち着いていたとか書いてなかったかしら?」
勇者伝記ーー誰もが一度は聞いた事のある童本。
全ての章にそれぞれの勇者達の話が書かれており涙あり葛藤ありでドキドキしながら読むものだ。
だがーー
「あれ全部脚色された全く別物のストーリーだから違うのは当たり前だ。世に出るのは結果、その過程なんか誰も考えない、そこを作家達が聞いて回って想像力を使ってストーリーを作り上げてるんだ。その勇者達が落ち着いていたっていうのもその創作の結果の一つだな」
「と、言う事はみんな落ち着いてなかったの?」
「数人落ち着いてた奴はいたがそれ以外は取り乱して泣き叫ぶは現実逃避するわの地獄絵図だ」
「そんな話聞きたくなかったわ......」
「聞いたのはお前だ、それじゃあ俺らが召喚された時のことから話し始めるか。あれは確かめちゃくちゃ暑い日だった」
ーーーー
狭い教室内に馬鹿騒ぎする生徒達の声が響く。
朝の時間ではとても見慣れた光景であり誰一人として最後の日だとは思っていなかった。
マコトはいつも通り机に突っ伏して睡眠を始める。
ただでさえ暑い日なのに日光が当たる席とか拷問であると、マコトは思う。
ダラダラとしているマコトの肩を叩き大柄な男が話しかける。
「マコト、新しいアニメ見たか?」
「熱いしお前なんで平然としてんだよ......本当にクソだるい」
「朝からだるいだるい言ってるお前を見てる方がだるいな、で、結局ショタ戦記見たか?」
先日放送されたアニメの話を
第一話が放送されてソーシャルネットシステムでも人気を博している人気アニメの一つである。
主人公は元社会人のリーマンなのだがクビにした部下に背中を押され見事に線路に落下、電車に轢かれて異世界転生するのだ。
ショタに転生した主人公は自身の立場を変えようと軍隊に入隊し下衆く世界を牛耳っていくのだ。
ダラダラ見ていたマコトは思い出しながらあーっと間の抜けた声を上げる。
「ショタ戦記?見たがどうした?」
「感想を聞いてんだよ、主人公やばくね?」
「サイコパス乙」
「わかるがなぁ......でも面白くね?」
「最高、めちゃくちゃ面白かった」
「その割に機嫌悪いな、どうした?」
「どうしたも何も俺テレビ見れないの知ってるだろ?病院で妹の部屋で見たんだよ、内容が内容だったから途中で消したけど」
病室で今日も眠る妹の前で流石に人がぶっ飛んだり肉塊に変わるのはどうかと思い面白かったが消したのだ。
それのせいと直ぐにバイトを突っ込みまくったせいで怠くて眠くてマコトは睡眠を始めようとしていた。
ポンポンとオオダイはマコトの背を叩く。
「もし何かあったら言えよ、手伝ってやるから」
「はいはい、頼る気は無いがありがたいな」
「そこは頼れよ......」
「うちの恩着せがましく言ってくるババアがトラウマでな、できるなら頼りたく無い」
意地が悪く性格も最悪の叔母の姿を思い浮かべマコトは悪態をついた。
事あるごとに嫌味を言い妹を殺してしまえとか、早く諦めちまえと繰り返す。
ギャンブルをよくやってる様で日頃から金を使い込んでマコトを脅迫に近い形で脅して金を奪おうとするのだ。
大体医師や看護婦が手助けをしてくれて助かってるのでかなり恩を感じてる。
だがそれらの事があってとてもじゃないが周りの人間に頼るのがトラウマになっていた。
「まぁ頑張るから、鬼教師が来る前に席につけよ」
「はいはい、じゃあ寝るなよ、文句は言わんが無理すんな」
「善処する......スー」
爆睡、圧倒的爆睡である。
流石に呆れた様にオオダイはため息を吐いて席に戻った。
マコトは寝たふりをしながら今後のことを考える。
バイトを続けて医療費を賄うとして高校をいつ辞めるか。
今期の分は支払いが終わっているのでそれ以降は金がかかってしょうがない、それを取り消して高校を辞めて学校にいる間の時間をバイトに回せば収入も増えるだろう。
年齢を詐称してはいるがいつバレるかわからない、その時も考えておかなければ。
「それにしても暑過ぎるな......」
マコトは天を仰ぎとても強く照らしつけてくれる日光に両目を閉じる。
日頃の疲れからか一瞬で睡眠に入れて随分落ち着く。
机が一種のベッドか枕の様なもので誠にとっての一種の快眠グッズとかしていた。
だがーーマコトが惰眠をむさぼる時、教室内に悲鳴が響く。
その異変にマコトが両目を開くと翡翠色の極光が部屋を満たしていた。
後に教室一つ分の生徒達の失踪事件として世間を騒がせる大事件が今日その日発生したのだった。
「って感じだな」
「えっゴミ屑さん、ちょっとそこで終わらせるんですか!?」
物語の最初の部分しか言っていないマコトに思わずアイスアは文句を言う。
なんだかんだ言って興味があるのだ。
「今思い返したら黒歴史すぎて言いたくねぇ......それにもう見えるしな」
マコトは眼前に見える棺へと目を向けてそう呟いた。
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