第35話
「ぐぬぬ......抜けねぇ」
マコトは全力を尽くし、素の筋力を生かしめちゃくちゃ引っ張っている。
だがいくら引いてもレイピアはピクリとも動かない。
「はぁ......はぁ......しょうがねぇ、“開花・攻”」
開花の攻撃特化型、体全体のステータスを捨てて腕の攻撃力のみに集中した馬鹿の一つ覚えのような技。
だが今回のような敵を相手にする場合でなければ超強化された筋力を余すことなく使える。
先ほどと違いレイピアはミシミシと音を立てるがやはり動かない。
その間にも段々と魔力が減っていき頭痛が増していく。
息を荒くしながらマコトは開花を解除、地べたに座り込みジッと指輪を見る。
そして何を思ったのか指輪に軽く指を触れて錬成術を唱えるが何故か無効化されて発動しない。
「指輪の方を再構築して外そうと思ったんだがやっぱり無効化エリアになってるな」
「諦めなさいな、貧弱ナメクジさん。きっといつか勇者が抜くわよ」
「さっきから勇者勇者言ってるがこのレイピアはなんだ?明らかに複雑でやばい術式が描かれてる」
通常なら開花を使えば簡単に壊せてしまうほどのレイピアだ、だがマコトがどれだけ力を入れようと壊れもしなければピクリとも動かない。
アイスアはもったいぶったようにふーん、しりたいの?と言って煽るようにクルクルと頭のところで指を回す。
「しょうがないから賢い私が教えてあげます、感謝してください。このレイピアの種類は聖剣、選ばれた人間にしか使えない側から見れば迷惑な武器です。この床は数百年前に異国の遺跡からこの国が剣ごと買い取ったもので今の今まで抜けていません」
「だから勇者って言ったのか。選ばれた人間っていうのは誰かわかるもんか?」
「わかれば苦労しないわよ。この選ばれたっていうのはその個人の運命とか過去に左右する。例えば国を焼かれた王族が数十年家族を失ったり行く先々の街の人間を殺されたりして過酷な運命を強いられたとか、とりあえず聖剣に宿る女神ーー端的に言って存在を聖剣化した女神たちに愛されていなければいけないの」
「その制限とかあるのか?例えば他の聖剣に認められていたら抜けないとか」
「あるわよ、女神っていうのは本来自己中心的な災害のような生き物なのよ......殺気をしまいなさいな、何怒ってるのよ。だから自分を選ぶ人間が他の女神に選ばれてたら拗ねちゃうんですよ無知さん」
その一言に妙に納得したようにマコトは頷いて力んでいた手を緩めた。
簡単に諦めて退いたマコトを訝しげにメイリーは見つめる。
あれだけ大切だと言っていた指輪が目の前にあるのにこんなあっさりと諦めるのか、と。
「貴方の言う満開を使えば抜けないの?無理やり抜くとか試してみれば良いじゃないの」
「......言っとくがな?満開っていうのはある程度の魔力がないと起動できないしそれを維持して掌握するのにも魔力がいる。使えないこともないがメイリー、お前今魔力ほとんど残ってないだろ、そんな状況で使えばお前が死にかねない」
マコトは指輪は大事だが確証のない事に子供に無理させてまでやろうとは思わなかった。
まだ世の中を知らないようなガキンチョを利用してまで自分の目的を果たすべきではない、仮に死なれてもある程度の時間を過ごした人間が自分のせいで死ぬというのは後味が悪いだろう、つまりこれは自分の為でもある、そう言い聞かせてマコトは立ち上がった。
「どこ行くのよ?もう諦めるの?」
「誰が諦めると言ったよ?今から俺の精霊をこの宝物庫の中から探し出して説得してもらう」
「......さっき散々言ってたのに貴方も精霊術師なんじゃない。それにどうしてここにあるってわかるの?」
「気配がするのと勘、懐かしい匂いというか感覚がするから俺が死んだ後ここに担ぎ込まれたんじゃないかと思うんだよ」
「敗北者さん、その精霊とやらは私よりも高位のものなんですか?」
ヒョイっと飛んでアイスアが問いかける。
彼女自身自身が大精霊であるという自覚はある、だからこそ自分よりも強い精霊がマコトと契約しているというのが信じられず思わずそう問いかけた。
過去を懐かしむように、マコトはおどけた笑いを浮かべる。
「高位も何も精霊と言っても女神だからな、お前とは比べられんよ」
「女神?冗談ですよね?そんなものと契約できるはずがないじゃないですか。もしかしてさっき聖剣が抜けなかったから血迷ってるんですかね?抜けないのが普通です」
「お前なぁ、信用なさすぎだろ。俺が水汲みに行かされた時に出会った女神と俺はたしかに契約したんだ、最後はーーまぁ言わなくて良いな。とりあえずそれさえ見つけられれば良いんだが......」
自身を呼ぶような声に耳を傾けながらマコトは着々と歩を進めていく。
先ほどまで指輪をあっちかこっちかと探していたのと違って確信めいた何かの元に動いてるようにメイリーとアイスアには見えた。
メイリーはゆっくりと勇者伝記を思い返すが主人公であるシンジーー本当はマコトらしいのだが、彼が剣を受け取った時を除き女神は出てこない。
ましてや契約する話などなかった。
ここまで来て自分は本当に何も誠のことを知らないとメイリーは感じ衝動的にマコトの裾を掴む。
「その、その女神様とやらの場所まで遠い?」
「歩いて数時間ってとこだな、どうした?」
確かな位置情報をつかんでいるマコトは適当に計算して言った。
時間はあるらしい、今は二人きりであのユイという女性もいない。
ならばーー
「あの、もし良かったらこっちの世界に来た時の話を聞かせてくれない?勇者伝記がどれだけおかしいのか知りたいわ」
「あのな、ガキンチョ、いやメイリー。聞いても楽しい話なんて欠片も無いし寧ろ気分が落ちるようなものばっかだぞ?」
「それでも、それでも私は貴方の過去が知りたいのよ」
「拒否だ、なんで今更あんなことを思い出さなければいけないんだって話」
思い出すだけで身体中の傷がぶり返す様だ。
脳の中で溢れ出してくる負の感情に区切りをつけて一時的に思考を止め歩き続ける。
だが一歩を踏み出そうとしたところで眼前にアイスアが飛び込みマコトは歩を止める。
「ナルシストさん、私も知りたいです。ご主人も聞きたがってると思うのでね」
「言い方を考えろよ、俺は中二病でもなければ過去を語りたい様な老害でもイキリ野郎でも無い、だからあんまり言いたく無い」
過去の自分語りをして同情を得ようとする趣味はマコトにない、
生きてるのは今であって過去ではない、やってくるのは未来であって過去はもうすぎたこと変えることはできない。
ならば後悔を思い出さずマコトはこの先生きていきたかった。
珍しく真面目な態度で対応するマコトに納得した様にメイリーは若干俯きながらも口を開く。
「そうよね、嫌がってるのに強要するのも良くないわよね」
無理やり作り笑いを生み出してメイリーはマコトに微笑む。
なんとも哀愁漂う姿に昔見たことのある人にそっくりなこともあってマコトは深い溜息を吐いた。
長い銀髪に真紅の瞳、見ているだけで吸い込まれそうな気がしてくる。
マコトは無理やり大人ぶっている様に見えたメイリーの頭をガシガシと撫でて(嫌がられた)から少し思い悩んでから口を開いた。
「楽しい話じゃないけど良いか?」
「話してくれるの?」
「時間潰しにはちょうど良いだろ、よくよく思えば俺コミュ障だし、昔話ぐらいが場を持たせるのにちょうど良い。今更聞きたくないとか受けつかないからな」
面倒な理由付けをしてからマコトはこちらの世界に来た最初の日から思い返し始めた。
静かにその言葉を聞く様にメイリーとアイスアの二人は静かに沈黙を守っている。
マコトは宙に魔力で円を描きゆっくりと喋り始めた。
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