第33話

遂に念願の宝物庫の中へと侵入を果たしたマコト達は静かに絶望に突っ伏していた。

宝物庫、そうそれは王家が代々残してきた財宝の金銀が眠る誰もが望む黄金郷。

辺りを見回せば金のアクセサリーやら訳の分からない魔道具が大量に転がされており、どれを取っても価値の高いものであることには変わりない。

王家は数百年続いており市民から巻き上げた税金や他国からの侵略戦争の報復に滅ぼした国の財宝なども大量に溜められている。

曰く、宝物庫は王城ほどの大きさがあると。

曰く、宝物庫は永遠の幸せの地獄だと。

曰く、ひとりたりとも宝物庫の物を把握していないと。


そんな曰く付きの宝物庫内で、それもありふれた指輪を見つける?

オリジナルだ、確かにオリジナルだが自分の剣や壊れた廃材から抽出したいい部分だけを使って作ったようなツギハギ品、デザインには拘ったがそれでも大きさはマコトの薬指にジャストフィットする大きさだ。

要するに大きくない。

そして宝物庫には数々のアクセサリー、つまりは似たような物がごまんと転がっている。

全てを察したメイリーは向日葵のような明るい笑顔でマコトに笑いかける。


「ーー頑張ってね!」


「探す気ゼロかよ......」


「ばっかじゃないの!?宝物庫の中から指輪探すなんて無理よ、無理」


「ふっ、馬鹿め、俺が知らないとでも思ったか?こんなこともあろうかと『願いのコンパス』をミウからパクってーー」


マコトのポケットから取り出された魔道具、美しい装飾の施された魔道具ーーだったであろう物は今は無残にも魔力の負荷がかかりすぎたのと衝撃によって壊れていた。

特殊な願望機の灰を内包し持ち主の望むものを指す特殊な魔道具、相場で数百万は越えるレベルの代物。

冗談抜きで青い顔をしながらマコトは弁償と探し方を考える。

そして一周回ってマコトはにっこりと笑った。


「詰んだ」


「はい?」


「詰んだ」


「いやちょっとここまできてーー」


「詰んだってんだろ!?あーもう弁償代高っ......もういっそ宝物庫から物パクるか......?いやダメだ、俺は親だし子供が真似しないように模範的行動をすべき」


そう、今はマコトは親なのだ、決して子供に


『お父さんは泥棒さんなの?』


とか言われたら余裕で死ねる、その確信がある。

他人から盗んだ物、つまり盗品を使うのは抵抗がある。

ただ盗賊は別、マコトにとって盗賊はお小遣い源となりつつある。


と、言う話は置いといてマコトは自身への落胆と絶望に地面に突っ伏していた。


「あなたね、ちょっと無計画すぎない?」


そのドヤ顔にマコトはジト目を向ける。


「うっせぇ、スライムにエロい事されてたロリ吸血鬼に言われたくねぇよちくしょう」


「エロい事なんてされてないから!あの子だって......とりあえずそう言う風に言わないで」


「わかったよ、で、そう言ったからには何かあるんだろ?もったいぶってないで早よ出せ、早よ出せエーエスエーピー」


どうせあるんなら早よよこせと言わんばかりのマコトの態度にメイリーは迷わずマコトの脛を蹴った。

痛がるマコトに本当に冷たい目を向けてからメイリーは胸元のネックレスに何か詠唱を呟く。

するとネックレスに設置された宝石が緋色に発光しだしメイリーの眼前に煙が溢れる。

数秒ほど経っただろうか、煙が晴れ、先ほどまで宝石だったはずの石は赤い髪の小さな少女へと変わっていた。

服装は肌の露出のかけらもないようなドレスに虹色の四枚羽、美しいその姿に誰もが見惚れるだろう。


「お前精霊術師だったのか?」


「違うわよ、これは譲り受けたものだから正式には仮精霊術師の魔道剣士よ」


「属性多くね?オールラウンダーって場合のよっては弱いぞ?」


まだ魔道剣士ならわかる、武器を使って魔法でバフをかけたりかなり戦闘力が高い。

そう言う職業として存在している事がその有用性を証明している。

実質この世界での職業なんて女神の泉とか、神殿などでわざわざ設定しなくてはいけない。

異世界から勇者を召喚すると言うのはこちらの世界のありふれた人間ではなくこの世界での異物として存在証明する事でいい職業を強制的に引こうというものだ。


それを説明された時マコトは思わずガチャかよ......と呟いたのは言うまでもない。

しかもその上自分の職業は生徒、笑えない、特に特殊な能力もなく技能は模範一つだけ、その上クソ技能だし使う条件が難しすぎた。

と、様々なこともあっていい職業を複数所持しているメイリーが若干嫉ましくもあって嫌味を言った。


「それあなたが言う?模範とか言うオールラウンダー専用みたいな技能使っといてそんなこと言う?」


なるほど、何も言い返せない。

ぐぬぬとマコトは歯噛みしながらも言い返す。


「いつ知ったんだって話、お前俺のストーカーかよ、ロリっこストーカー吸血鬼兼、精霊使い兼魔道剣士って」


マコトは赤い精霊のジト目を無視しながらもあぁん?とメイリーに威圧的な態度をとるがはっと彼女は笑う。


「勇者伝記に決まってるでしょ?」


「はいはい、個人情報のクソもない。まぁいいや、その精霊っ子で何するんだ?」


赤い精霊ーーおそらく火属性、見た目での独断と偏見だがマコトは判断し疲れ切って死んだ魚の両目で見る。

先ほどから超絶冷たいジト目をマコトは頂戴している。

はぁ......と深い深いため息を吐いて精霊はマコトの眼前へと飛翔する。

露骨に嫌な態度を取られるのは慣れているのでマコトはなんとも思わないが何故かメイリーが頭を抱えていた。


「私は偉大なるウミ様の眷属、アイスアです。ダメでロクでもないクズでドケチで自称間抜けだけどやる時はやる腑抜けさん」


「オーケー、喧嘩売ってるのわかった、表にでやがれこのロリっ子!!」


「あら、子供に煽られて怒るのね、短気さん、指輪探しはしないのね」


「ムカつく、めっちゃムカつく」


「ハゲて仕舞えばいいのにね馬鹿めさん」


「やめなさいアイスア、流石に酷いわよ、ロクでもないって言うのは否定しないけど」


おいロリっ子どもめ......とマコトが睨みを効かせるなかメイリーが一言注意する。

さすが仮にも主なのか......とマコトが感心するが当のアイスアは鼻で笑って悪そうな笑みを浮かべ軽く何かを詠唱するとフニャァァァァァとメイリーは間抜けな叫び声をあげてゴロゴロと地面を転がった。

反射で超集中を使ったマコトは見ていたが精霊が容赦なく氷魔法で鼻の奥を突いたようだ、悪魔的である。


「あら、間抜けな仮ご主人の分際で私に命令するのね。ゴミ屑さん、人にものを頼む時はなんていうのかしら?」


「おいガキンチョ、目上の人間に物を頼む時はなんて言うんだったか?」


「別にいいのよ、力を貸さなくて。せいぜい貴方は二十年やそこらしか生きてないだろうけど私は今年で百を超える大精霊よ」


「俺はしょっちゅう若く見られるんだがな、実は百歳超えてるんだわ」


百年は無為に過ごしたしそれを年齢を言っていいのかは不明だが張り合いたいから張り合うのだ。


「人類悪さん、私の力を借りたいんだったら周りの女性関係を治しなさい」


「おい誰がビーストだ。それに俺どっかのクソハーレムやろうと違って女性関係は健全だぞ?そもそもモテないし」


「はぁ......朴念仁、死ぬといいわ」


「口悪すぎだろ。俺はユイが唯一の嫁でハーレムには興味があんまり、少ししか無い!!」


「あるのね、ゴミ屑さん。理由は?」


「ハーレムは男の夢だろ馬鹿馬鹿しい。だが俺の意見を言わせて貰えば俺は複数人の女性と夫婦としての関係をできるとは思わない、ただでさえユイと過ごすのも見解の相違があったりたまに喧嘩したりしてるのにそれが複数人に増えたら俺は過労死する」


「そこはユイさんを愛してるから、とか言ってみなさいよ」


「バカか?そんなの言わずとも既にわかってる話だろ、一時期周りの人間が醜い動物にしか見えなくなってもユイは人として、自分をマコトと言う一人の人間と接してくれたユイが嫌いなわけないし百年経っても会いたくて家に帰るような人間が良めが嫌いなわけないだろ?喧嘩もするし、間違える時もあるがそれだって家族としての一つの部分だと思ってる」


ユイ至上主義を掲げるマコトは恥ずかしげもなくそう言い切った。

流石に本人同士で頑張らせるしかないと判断したアイスアは深ーく深ーく自分の主人と、いつまでたっても自分の正体を見破れないマコトに溜息を吐き小さく言葉を呟く。


「......常にそうやって真面目だったら格好いいんですよマコトさん」


「言いづらいんだが俺暗殺者のスキル持ってるから何言ってるか筒抜けだぞ?残念ながら俺は難聴系主人公じゃないんで敢えて言わせてもらった」


「死ねばいいんじゃないんですかね?」


「死ね死ね言ってると自分に返ってくるぞ、年長者からのありがたい言葉だ」


かつてクラスメイトや自分を非難することしか脳のない市民どもへ死ね死ね言い続けたマコトは結局魔王戦で死亡したし言霊というのを少しは信じている彼のせめてもの忠告だった。

だがアイスアは羞恥に顔を赤く染めてメイリーの近くに逃げるように飛んだ。


「ダメな仮主人、早く起きなさい、いつまで寝てるんですか。昨日悶々と夜城まで羽ばたいてゴミ屑さんのベッドに忍び込んだはいいけど緊張で眠れなかったのはわかりますがここで寝ないでください」


「誰が原因でこうなってると思ってるのか私聞きたいんだけどなぁ?」


「さぁ?因果律を弄った女神とかのせいじゃないですかね?」


「そうやって人のせいにするのやめなさいよ本当。無駄話が多かったけれど早く指輪を回収したいわ、見つけて頂戴」


「私に命令するの?仮ご主人のくせに?」


未だに非協力的な態度を崩さないアイスアにイラっときたメイリーがネックレスを掲げ魔力を流す。

精霊、その主人には強制命令権が存在し、最大一日五回まで強制的に命令を従わせることができる。

メイリーはそのを命令権を一つ消費し命令を実行する。


「『命令オーダー』指輪を見つけ出しなさいアイスア」


術式が実行されると同時にネックレスから雷のような光が飛翔し必死に避けようとするアイスに命中した。

ものすごく不満そうに拒否しようとしているのかアイスアは暴れるが足掻くたびに拘束力がアイスアの着込んだ服を破いていく。

命令を破った場合の処置であり最終的に全裸になる。

精霊にだって羞恥心はある、本来精霊と言うのは強い後悔を抱いて死亡した年若い少女や少年が自身が命を落としたことを認められずに生まれるものである。

アイスアのように百年も生きていれば普通の女性のように羞恥だって感じるし特にジロジロと遠慮なく舐め回すような視線を向けるマコトがいればなおさらだ。


「変態ですね、既婚者とは思えないようなゴミですね」


「敢えて言おう、男はいくら年を取ろうと衰えないのさ、特に下半身はな」


「流石に引くわよ、あなたをちょっと見直したと思ったらすぐにそう言うことを言うんだからなんとも言えないわね」


「おっ?俺を見直したのか、今更かー君ー、俺のような偉大な人間を見直すなんて厚かましいが今回ばかりは許してやろう」


うざい、それが二人の総意で間違いなかった。

イライラしながらもマコトを無視し憐もない姿でフラフラとアイスアは飛んでいく。

怠そうに飛ぶ精霊のチラリと見えそうで見えないミニスカの中の桃源郷を追ってマコトは歩き出した。

先ほどもメイリーの微妙に丈の長いスカートの中から見えた色気のない布にマコトは深く落胆したのを覚えている。

そもそもガキンチョの下着を見るのもどうかと自分自身をクソみたいに思うがそれでもきちんとした下着の必要性をマコトは強く感じた。

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