第32話

事件が無事に終わり、第三者として事件を解決に導いたマコトに爵位が与えられるであろうその日。

謎の爆炎が白色の美しい城から上がる。

黒煙が城を包むように広がっていき、通路全てが煤に包まれるほどの大火災が発生していた。


急遽式典は中止され、参加していた騎士達が対応に追われている頃、隠蔽のフードを被った謎の男がセンスのない狐のお面をつけて迫り来る騎士達をあの手この手で撃退していた。

右側らから熟練された剣技で不審者の首を切り落とさんと城警備の騎士は騎士剣を横薙ぎにふるった。

絶対に当たる、その確信を持った四人による同時攻撃、敵の逃げ道を無くし完全に殺すために積み重ねられ研究され続けた四人部隊の必殺技。

だが気がついた頃には謎の不審者の姿は消えていて四人の騎士の体が地面に落ちた。

完全に気を失った騎士達を尻目に盾を構え魔術の発射準備をしている盾兵に不審者は加速し、突撃する。


赤色の集団起動式が発動、男めがけて全てを焼き尽くすような火炎弾が飛び爆煙がその場を包む。

迫り来る火炎を盾兵が防御スキルで耐え、魔術師は再度術式を組み込む。

本来なら大軍戦のセオリーとされる集団戦法、正面に構える騎士は両目を凝らし敵の生存を確認しようとするがすぐに背後から迫る大量の水に押し流され、通路の奥まで飛ばされた。


騎士達は誰もが思う、この人間は一体何者だと。

突然消えたかと思えば大魔法や拳法術、果てには謎の剣術すら使用し訓練され高レベル、高熟練度に至った王国の盾であり剣である騎士達をいとも簡単になぎ倒していく。

こうして又しても一つの小隊が戦闘不能に追い込まれることとなった。


後に黒の暗殺者とか呼ばれ、本人は中二病という不治の病に精神を侵され泣き叫ぶのはまた別の話。


不審者ーーマコトは隠蔽の加護が付与された黒いコートを翻し屋上へと走る。

あの作戦会議の後、事情を説明し、指輪の場所を聞き、宝物庫へとマコトは駆けていた。

現在王女はさも突然の襲撃者に対応している勇ましい少女と、周りの大臣などには思われていることだろう。

桜を連れて行こうかと考えたが未だ目を覚まさないミハクの事を思い城に残る事とした。

間接的にも今回の事件に自分のせいで巻き込んでしまったと考える桜は彼女を忘れ何処かに行くということができなかった。


と、言う事で何故か魔力の底が見えぬ程協力となった吸血姫、メイリーを子供の姿に変えさせ左腕で抱え眷属契約というのをマコトは承諾、魔力供給が受けれることとなったメイリーは魔力を送り込みつつ、超集中で騎士達の首元にマコトが近づけたところを吸血、特に害はないが気絶するぐらい魔力を吸うーーそしてまたマコトに供給。

一種の無限魔力機関を築き上げ二人は王城の廊下を駆ける。


最大の懸念である剣の勇者と弓の勇者は王女に頼んで町の警備に向かわせて拳の勇者である東方の老人ーーマコトの師匠には最高級の酒を飲ませ泥酔させることで完封した。


そうして駆けること数十分、宝物庫の入り口があるであろう城の最上部ーー王女の部屋。

その一室、その場所を支えるために作り上げられた城の中央構造物、開花を常時展開しているマコトはしっかりとメイリーを抱え壁に張り付いた。

放たれる小型魔法を避けつつ勢いに乗せて壁を駆け上がる。

走りながらも迫り来る矢を手で直接掴み、爆破の術を付与、無造作に騎士が集中している場所に放り投げ、無駄に煙だけは大量に出る爆発が発生し視界を塞ぐ。


「『錬成』」


王女の部屋の窓、それに触れて青色の光が輝き、窓の形状が変わり強引に開かれる。

素早い動きで部屋に侵入、格好をつけて飛入ろうとマコトは飛ぶが窓の縁に足が引っかかり四回転ぐらいして王女の部屋のドアにぶつかり停止した、哀れである。


「締まらないわね」


「うっせぇ、ロリっ子」


「だから私はもう立派な大人だって......言わなかったかしら?」


「立派な大人なんて世の中に居ねぇよ、不適切な単語だな、まじめに」


パッパッパっと服についた埃を払いマコトは立ち上がる。

メイリーがとっさに防御魔法を展開したからか痛みは無いに等しい。

そして宝物庫の入り口である暖炉ーーではなくニヤニヤしながらベッドの下を覗き込んだ。

そこにはこれ見よがしに本が入りそうな箱がある。

ゲームならばとりますか、とりませんかという選択肢が出るであろうそれをマコトは迷わず取った。


「何をしてるのよ?」


「ベッドの下といえばエロ本って決まってんだよ、あのむっつり王女の性癖を明かしてやる」


まじめな顔でふざけた事を堂々とやるマコトにメイリーはため息を吐いた。

どっちかといえば呆れというよりしょうがない、こいつはこんな感じなんだといった風な物。

マコトはあえて気づかないフリをして箱を開く。


「あぁ......うん、察した」


そっとマコトは勇者伝記と書かれた童話を箱にしまい直し、近くの紙にエロ同人を記憶から複製、コピーし箱の中に数ジャンル入れておいた。

メイリーはその内容を見て顔を真っ赤にしている。

あの誘惑とかなんたらいっていたのはどこにいったのだという話。


「何やってるのよ......」


「エロ同人描いて入れてるだけだが?」


「その意味は何よ?」


「愉悦」


「下衆ね」


「そういうなって、箱を開けたらあらびっくりえっちな本がありましたーーってだけだから」


「問題しかないじゃ無い、もしメイドとかに見られでもしたら」


ハハハとマコトは本当に心の底から愉快そうに笑う。

そこまで考えてやったな、とメイリーは又してもため息を吐いた。


本当にメイドに見つかってコソコソとそういう話をされ顔を真っ赤にするのはまた別の話。


箱をベッドにシュートしたマコトは綺麗に整えられたベッドの枕元に淫夢を見る加護石を差し込んでおく、他意はない、決して他意はないのだ。


こういう事をしてる場合ではないと思い出し、マコトは暖炉の火を消して木炭を蹴り飛ばし隠し通路の中へと入る。

どうやらこの通路が魔術の転送術式を組み込んだ魔術道具とされているようで少し歩くと段々と気温が上がっていく。

数十分ほど歩いただろうか、周りに並べられた魔術光の光を頼りに宝物庫の門へと手を掛ける。


「じゃあ行くか、作戦は覚えてるよな?」


「もちろんよ。必要なものを取ったら早めに逃げるわよ」


「おっけ、じゃあレッツゴー」


マコトの間の抜けた掛け声とともに扉が開かれ、連動した魔術道具が数十発の魔法を宝物庫内から放つ。

素早く放たれた氷塊や火炎弾へと飛び込み、超集中による軌道予測を元に上手くマコトは回避。

そのままの勢いで眼前に見える本来の扉へと駆ける。

距離は数十メートル、後一歩踏み出せば開花による超加速でたどり着くことができる。


だがそんなマコトを阻むように眼前に二体の鎧が落ちる。

両方とも精密に作り上げられ魔導兵、組み込まれた魔力供給機関が作られて数百年経つ今でも稼働を可能としていた。

宝物庫を守るために設置された門番、本来ならば王族のみを通す殺戮マシーン、方や緋色の短い騎士剣、方や翡翠色の片手長剣。

二振りとも歴史上に残るような名剣達、その上過去の英霊達の経験が蓄積された最強の魔導兵。


本来なら、本来なら誰もが苦戦するであろう最大の敵、難関。

聞いた話通りのその威圧感にマコトは笑ってメイリーの手を強く握り一言こう唱える。


「『満開』」


膨大な魔力がマコトの体内から溢れ出しメイリーは若干苦しそうに声を上げる。

かつてはユイが魔力や様々な物を正し、正気を保ってやっと使えたような技。

案の定悪感情がマコトの脳内で溢れ過去の悔恨や怒りを増幅させるがメイリーがそれを肩代わりしなんとか踏みとどまる。

憎いとか、過去の事とかよりも優先すべき事、それを強く思い浮かべマコトは笑った。


「後二分、だいぶ短いが手伝ってくれ」


強く次女、娘の入学式の晴れ舞台のことを考えながらマコトはにこやかにそう呟いた。

たしかに過去は恨んでも恨みきれないほどの事をされて今もそれは色濃く残っている。

だがそんなことよりもーーそんなことよりも目に入れても痛くないぐらいの可愛い愛娘の事を考えマコトは両脚を最大限強化する。


直ぐに魔導兵達は返しの剣を構えつつ盾を構え、耐えるような体制へと変えた。

防御からの加護を付けた剣による切り返し、それを狙った動き。


地を舗装する煉瓦造りの地面の煉瓦の隙間に足の指を挟み込みマコトは駆け出す。

開花・走の完全なる上位互換、その加速を生かしマコトは思い切りーー


逃げた。


「えぇぇぇっぇぇぇぇえ!?」


「ばっきゃろ、あんなに強いとか聞いてないし、勝てるかもしれないけどクソだるいじゃんやだよもう」


「あの覚悟とか言ってたのはどうするのよ!?結構恨み辛みが流れ込んできて痛いんだけど!!」


「あーもうこうなったらアレやるか、アレやるしかないやろ」


「やっと本気をーー」


「戦略的撤退!!」


「それは逃げるって世の中ではいうのよ!」


「そうなんでしょうね、あなたの中では」


「イラっとするわその言い方!?」


「しょうがねぇな、ちょっと頑張るわ」


ふさっとわかりやすく格好をつけてマコトは胸ポケットから石ころを取り出し迫り来る鎧兵達に投げつける。

カランコロンとギャグのような音が出て鎧兵達はあっヤバイって感じで止まる。

シーンっと沈黙が包み気まずい雰囲気が二人と二体の鎧の間に流れる。


「やっべ、起動して投げるの忘れてたわ」


テヘペロッとマコトはあざとく舌を出す。

すぐに状況を察したのか鎧兵達は怒り狂ったかのようにマコト達に向けて駆け出す。


「何やってるんですか!?真面目にやってください!」


「えっと、アレだ、そうだこれだ!!」


マコトは次に靴底に仕組んだナイフをーーだがもしも金を仕込んでいたためナイフと一緒に金貨がこぼれ落ちる。

慌てて素早く金貨を拾い上げてマコトはほっと溜息を吐く。

だがマコトが撃とうとしていた貫通の加護が付与されたナイフは斜め上のどこかの煉瓦を強制貫通しどこかへと飛んでいき鎧兵達に掠りもしていない。


「くっそ、こいつ強い!」


「貴方が間抜けなのよ!!」


「バカ言うんじゃない、俺が間抜けだったら全人類が間抜けだ!」


「全人類に土下座しなさいよ!?」


キッとマコトは地を蹴り方向転換、鎧兵に向けて飛び出す。

エリックに教えられて便利だと思ったマコトがベルトに隠していたナイフ(3年使ってなかった)を取り出して鎧に向けて投げつける。

爆裂魔法を仕込んだ完全なる一撃必殺用魔術道具。

他国では一本数千万で取引されるほどの兵器、どこからか持ってきたエリックがマコトに貸したものだ。


刹那ーーナイフがただ単に鎧の頭を吹っ飛ばして通路の奥へと飛んで行った。

そして沈黙、本来なら爆発が発生するはずの魔道具が一切作動していなかった。


「あっもしかして刻まれてた魔法陣がずっと使わずに動かしてたせいで磨り減って消えてたのかも」


「どうしてそこまでバカなのよ!?」


「くっそ、次だ次。見てろよ、俺の必殺技を使わせてもらおう」


ここまでくるとメイリーは今回もダメだなと苦笑いを浮かべる。

だがそんな期待を裏切るようにマコトは堂々とベルトを引っこ抜いた。

無論ズボンがずり落ちてマコトのパンツが丸見えだ。


「この露出魔!」


「黙って見とけ!局部集中強化!」


満開で発生した全魔力を腕とベルトに乗せてまるで鞭のようにマコトは構える。

あっやっぱり今回大丈夫かな?とメイリーが思い安心したように吐息を吐く。

軽い勢いでマコトは鎧兵に向けて飛び出しベルトを振り回した。


まるで鞭のようにマコトの安物のベルトが空を切り裂き鎧へと飛んでいく。

短剣を持つ方の鎧が剣を構え鞭に対応しようとするが又しても斜め上に鞭が飛び、今度はなんだと目がないがジト目を向ける。


マコトは一切の冗談抜きにずり落ちたズボンに足を取られて転んでいた。

本末転倒である。


もはや哀れむように鎧兵達は止まってくれている。


「くっそ、なんで俺ばっかり......もういいやめんどい、吹っ飛べ『解放』」


ずっこけてマコトの手から抜けて飛んだベルトが鎧兵の足元で翡翠色に輝き視界を埋め尽くすほどの魔力爆発を起こした。

満開時に生み出される大量の魔力をほとんど乗っけたベルト、それの魔力が暴走し大爆発を起こしたのだ。

防御力などすべて換算しないような無差別攻撃により鎧兵二体は完全に消滅しきった。


「マコト貴方案外やればできるんじゃないの!」


「ふっ......これが勇者、ってやべ、急げ」


「え?」


魔力爆発による影響か老朽化が進んでいた煉瓦達が悲鳴をあげて崩壊を始める。

ここは密室、逃げ道はない、崩壊すれば間違いなく命を落とすこと請け合い。

力強くメイリーを抱いて宝物庫の入り口である門へと残りの魔力で飛び出す。

ほんの崩壊の数秒前、ギリギリのタイミングで門へとマコトは滑り込んだ。


後に宝物庫への入り口が崩壊していたことで国が迷惑するのは別の話である。

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