第24話

マコトが王城の門を通り大通りへと下る無駄に長い階段が視界に入った。

欠伸をしながら歩いていたマコトは足元を見ていなくて思いっきり足を滑らせ前回転するように階段を滑り落ち始める。


「兄さん何やってるんですか!?」


流石の桜も兄が寝ぼけて階段を数百弾以上ある階段を転げ落ちていく様に両目を見開く。

だが何を勘違いしたのか門を守る騎士は別の意味で両目を見開いた。


「この一瞬で移動するなんて...一体どこに消えたんだ...流石勇者」


たしかに角度的にマコトが一瞬で姿を消したように見えるだろう、実際は転んだのだが。

王城で噂になっている伝説の勇者の帰還と言われていることもありそのような勘違いが発生した。

騎士は妙に感心したように声を漏らすが桜は突っ込むのを忘れ階段を駆け下りていく。

結局マコトは楽でいいわ...とか呟きながら回転を続け中間地点の平坦な場所でユイが慌てて飛び出して抱えて停止、服の埃を払って立ち上がった。


技能の高速移動を使ってまで桜は駆け下りてマコトの隣に立ち迷わずチョップを脳天に叩き落とした。


「バカですかバカなんですよね!?」


「おいおい兄に向かってバカとはなんだ、せめてドジっ子と呼んでくれ」


「全ドジっ子に謝ってください!」


「そうですよマコトさん、洗濯物を汚さないでください」


「ツッコミどころが違いますよ!?」


拭き拭きと甲斐甲斐しくマコトの頬についた泥を拭いているユイに桜はツッコミを入れた。

桜の落ち着いた雰囲気とやらはもう既に北風にさらわれたようだ、ゼーハーゼーハー吐息を吐いて溜息を吐いた。

マコトは昨日悶々と悩んだせいで寝不足で非常識的に地面に座って空を見上げた。

無限に広がるかのような青空には似合わぬ光輪が上空に浮かんでいる。

そこから鉄格子が広がるかのように光の線が王都全体を包んでいるのが見えた。

魔力探知からも莫大な魔力が光輪から感じられその量に溜息しか吐けなかった。


「クソゲーすぎんだろ」


「あの光輪昨日まではありませんでしたよ、夜に突然魔術式が起動して発生しました」


「つまりユイ、あれは神様がどうとかではなく魔術なんだな?」


神とか女神の悪戯であった場合解く方法はない、だが魔術を使われているのならば、と問いかける。


「はい。間違い無く。隠蔽されてますが王都中に設置された魔術陣があの結界を起動しています」


「で、どうしてまだ解いてないんだ?」


ここまで知っているのなら魔術を十八番とするエルフの最強格である彼女が解いていないのは不自然、さくっと解いてお茶の間の笑い話にするはずなのだ。

彼女は申し訳なさそうに口を開いた。


「実はこの魔法陣が厄介で下手な事をすれば起動しかねないんですよ」


「どういうことだ?」


「魔術の定石は知ってますよね?教えましたし。魔法陣の全てに完全自動起動式オートリスポンサーが用意されていたんです。それもとびきり強力なやつで手を出せば有無を言わさず大魔術を起動、手を出さなくても時間で起動、本来なら触媒を用意して無理やり解除するところなんですがあれほど強力なものを解く触媒が王都内にない事も確認しています」


「つまり詰んでるのか?」


「いえ、昨日寝る間も惜しんで魔術の全容を把握したんですが、どうやら魔力を吸い取り空撃を放つ術式らしいんですよ」


「空撃って本当ですか!?


「空撃ってあれか、あの無駄に高威力で防ぎきれない集団起動式か」


対軍破壊魔法と言われるほどの莫大な時間と術式、魔力をかけて行われる非現実的な魔術。

その中でももっとも高威力とされる空撃は年一つほどなら破壊できる術式とされて研究も全て禁忌とされるものだ。

本来そんなものが今も存在してるのかすら怪しいほどのもの。

だが実際に今起動し天空に光輪を描き今か今かと魔力を吸い上げている。


「タイムリミットは?」


「規模にもよりますけど約三日ですね、長いです」


三日、七十二時間今日はもう日が登っていることから六十時間ぐらいと考えればいいだろう。

長いしようで短く、短いようで長い微妙な時間。

マコトは冷静にスマホのスケジューラーに書き込んでいく。

状態と書かれた場所をタップしユイに問いかける。


「切れたか?」


「鎌使って切れますけどそれをやると自動的に光の壁が狭まるようです」


「やったんだな」


ユイは目をそらす。

狭まったということは円が狭まったということだ。

その分生存範囲が狭まったとも言える。


「取り敢えず術式の本体を見つけるぞ、魔術陣があるんだったらメインの魔術式もあるはずだ」


「どういうことですか?」


まだ魔術というのを理解していない桜が問いかけた。


「魔法陣ていうのは一つの魔法陣で起動するのと複数の魔法陣が本体の魔術式をサポートして起こす大魔術の二つがある。魔法ならば確実にあるはずで、それを先に解術してしまえば魔法は起こせない」


「面倒ですね」


「面倒だな」


「本当に仲がいいですね...」


若干羨むように桜は呟いた。

マコトは素早くスマホにまずやることという事を書く。

そして素早いタイプで魔術によって動くスマホにこう書き込んだ。


『結界を解術する』


スマホをポケットに仕舞いマコトは立ち上がる。

本体の魔術式を改良するか変更、もしくは絶縁する事で魔術の作動を阻止する。

それに最悪ユイに抱えてもらって壁の外まで強制的に切って出ればいい。

二人ぐらいなら別に問題ではーー


ここまできて忘れてたことが一つ脳裏に浮かんだ。


「あっ!?そうだメイリーどこ行った?ユイ、最後まで一緒にいたはずだよな?」


「あらあらうふふ...」


マコトから全力で目を逸らしてユイはウフフと温厚そうに笑う。


「放ったらかしたんだな」


「で、兄さんまずどこに行くんですか?」


「メイリーとっ捕まえて情報を吐かせる。十中八九何か知ってるはずだ...でも先に魔術陣の確認だ」


あそこまで入念な調査をしといてこの王都に事前に用意された魔法陣に気づかない筈がない。

つまり知ってて放置した可能性がある。

鼻から信頼してなかったマコトは頭を掻く。


「じゃあ行くか...よろしく」


素早い動きでマコトはユイの背中に覆いかぶさるように乗っかった。

流石にその動作に桜はジト目を向ける。


「兄さんいくら仲が良いからって突然抱きつかれたら鬱陶しいとか思われますよ?」


「ほれ、とっととユイに掴まれ、じゃなきゃ置いてかれるか落ちるぞ?」


「えっどう言うこと...?」


「あぁもう遅い、早よ」


丸太か何かを持つようにマコトは右手で桜の腹部に手を回して抱きかかえる。

突然の事態に両目を丸くするが突然空中に現れた鎌にも困惑した。

ユイは笑顔で鎌を何もない空中に向けて振り下ろし、倒れこむように飛び込んだ。






何もないはずの裏路地に三人の男女が落ちた。

ヒョイっとユイは華麗に着地し、マコトは身体能力を生かし着地しようとし湿った地面に足を滑らせ転び、抱えられていた桜はマコトをクッションにして立ち上がった。

イテテとマコトは頭を掻きながらも辺りを見回して状況を確認、特に何の問題もない吐き気以外は。


「本当酔うな、これ」


何も切れない鎌で空間を切って押し出される圧力を利用、狙った地点を切って吐き出されるという無茶も無茶なめちゃくちゃな転移法だ。

物質を切れない鎌の使い道が頭がおかしいとマコトは思う。

これでも術式を組んで道を組めるから出来ることで自分がやっても地面にめり込むか空中に飛び出るか、最悪空間に閉じ込められるとすら思う。


立ち上がり三人は裏路地を数分歩き、何もないただの壁に足を向け一歩踏み出す。

瞬間ユイの姿が消え空間が波紋を立てて揺れる。

魔術的な隠蔽、その典型的な状況だ。

ビクビクとチキンしている桜の手を取って二人は壁に踏み出した。


隠蔽されたであろう裏路地は突き当りのようで誰一人来ないであろう一本道であった。

暗く少し生臭い只の裏路地、だがその奥に見えるは緋色の魔法陣。

マコトはかつて患っていた悲しい病を思い出し別の意味で胃を痛めた。


「マコトさん、これが魔術陣です」


「うっげ趣味悪いな、左右対称で六角形なのがまたはじめてのまほうじんって感じがして胃が痛い」


「六角形なのは理由があるっていいましたよね?」


「だけど致命的にダサいんだよ...まぁテンプレで使いやすいっていうのはわかるんだよ」


最も安定してる形として初級魔術で使われるような術式ではほぼ全てで使われているのだ。

一度その話を置いといて外部端末であろうこの魔術陣に手を触れマコトは鑑定士の技能:観察を生徒の技能で模範、魔術陣の解読に掛かった。

ほぼ無意識に使っていない左手をユイに向けて差し出し、阿吽の呼吸でユイがその手を掴み魔力を送り込む。

ただでさえ魔力容量が低いマコトにとって身代わり石があってやっと戦えるのに、こうやって解析などの長時間魔力を使用する作業は向いていない。

足りない魔力をユイがカバーし他のクラスメイトの能力全てを模範できるマコトが全技能を使い解析を続ける。

ユイが既に解読をある程度終えているため今やっているのは本体の術式の座標を大雑把に魔力の流れから割り出しているのだ。

魔力が向いている方向を調べ強さを考えて上手く本体術式を探し出す作業。

いくら介入出来ずとも眺めて観察をすることはできる、本体術式を破壊すればいくら発動しても発射の砲台がないようなもの、撃てなければそれは無意味である。

超集中を始めたマコトはただひたすら流れる情報を掴み取り必要な情報を見る。

普段のおちゃらけたふざけた態度は消え失せ集中に全神経を使う一人の人間がいた。


その光景をただ見続けることしかできない桜は近くの地面に座り込み二人を眺めることとした。

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