第23話

煌びやかな装飾、美しく彩られた大窓から光が王座の間に溢れ王女の美しいドレスを照らす。

年相応である王女の体は起伏がある程度あり未成熟の果実のような魅惑的な雰囲気を醸し出し、万人を魅了するような姿であった。

これが間違いなく王族の一人である彼女の本来の姿であり、王と王子が遠征に出ている際の王城を仕切る一人の最高権力者の立ち振る舞い。

王座に座り眼前に跪くマコトに視線を落とした。


「顔を上げよ」


「...」


沈黙、周りの人間は両目を閉じて静かに王族の言の葉を聞く凛とした姿に疑問を覚えることはなかった。

だからといって顔を上げろと王女殿下が申されておるのに聞かぬとはある一種の拘りと言うか、誇りを感じさせられる。


尚実際はただ眠っているのである!!


「まぁ良いだろう...そのまま聞くが良い勇者よ」


「...」


返事はない、ただ眠っているようだ!!

騎士達は微動だにせず沈黙を守り王女の言葉を聞き入れるその姿に感動を覚えた。


だがただ眠っているのである!!


広い王座の間の中央に敷かれたレッドカーペットの中央に位置するマコトが眠っているという事をわかる人間などいないのだ。


「今王都を謎の結界が閉ざしている、なんとも忌むべき事態だ。犯人が誰だかわからぬ今これを正すことができない。王都の騎士団が動いてはいるのだがとても敵を見つけられず王都の封印結界を解除することができないのだ。そこで勇者である貴方に頼みたいことがある」


「...」


「この犯人を見つけ出し、この封印結界を解除してほしい!!」


「...」


「報酬は出そう、百年前に国に奉仕した伝説の勇者にこのような事を頼むのもどうかと思う。だが今はお前に頼ることしかできない。やってくれるか?」


「...」


王女の問いかけにマコトは沈黙を守って返した

沈黙は是なり、満足そうに王女は頷き安堵したように吐息を吐いた。


「異世界から召喚された勇者と協力すると良い。まだレベルは低いが助けにはなるだろう」


となりに立つ桜に合図するとゆっくりと彼女は歩き出す。

先日桜と王女の二人で話し合った結果この結論に至ったのである。


何故か見ず知らずのふりをするマコトと兄に嫌われているのではないかとビクビクしている二人を一緒に一つの事を解決させる。

そもそも今回の案件は別にマコトと桜が解決する必要性は無いに等しい。

今現在大賢者である二人の男女がこの王都に向けて足を運んでいるとの情報が入った、二人もいれば国をほろぼせるとすら言われるかの大賢者が居れば事態は解決できるはずだ。

よって主な目的は二人の仲直りというか関係性の修復なのだ。


王女は今の今まで周りに特別扱いされて、自身を他人と同等とは考えたこともなかった。

だが桜は自身を友人として接してくれた、そのことが嬉しかった。

決して口には出さないし、言う気もないが彼女なりに友人を気遣っての行動であった。


桜はマコトの隣に立ち彼が立ち上がるのを少々待つが一向に動く気配が無い。


何を勘違いしたのか王女はこほんと咳払いをしてからマコトに一言。


「勇者よ、顔を上げて任に励むが良い!!さぁ行くのだ勇者よ」


人生で言ってみたいセリフNo.2、勇者伝記の国王のセリフを少々照れながらも叫んだ。

そしてその大声にマコトの超小型鼻提灯が破れて眼を覚ます。


ん...?どうして自分はここにいるんだ?


朝起きてから執事に王女が正式な場での面会を所望してるから着替えて云々カンヌン。

面倒になり自身に催眠魔法をぽいっと一発、魔法のセンスのないマコトは間違って命令を聞いてそれにそれ相応の返事をする催眠、ではなくある程度動いて数十秒止まった時に快眠を始める術式にしてしまったのである。


どうやら話は終わってるようだとマコトは経験則から判断冷静に立ち上がり、朧げな意識で出口に向けて歩いていく。

ドアの装飾絶対無駄だよなとか考えながら首を少し上に上げてマコトは歩く。


あれほど素晴らしい体制で歩く人間を見たことがない!と、騎士の間でマコトの評判が跳ね上がったのは言うまでもない。

そんな事を完全に眠っていたマコトが知る由もなかった。


「兄さん、まずどこに行くんですか?」


「兄さんって...あぁ、そっか。もう気づいてんのか」


この反応は間違いなく身バレしている、王族は確か真偽を確かめるための魔道具も持っていたはずだ。

そう察してマコトは誤魔化すのをやめて大きく心の中でため息を吐いた。

四度嘘をついた後ではどう反応をすれば、どう会話をすれば良いかわからない。

元はと言えば自分が嘘をついたのが原因であるし自業自得と言われればそれまでなのだがなんとも会話のしにくさがある。


「なぁ、桜」


「なんですか?」


「ぶっちゃけシリアスで話す?ギャグ路線で話す?」


思いっきりぶっちゃける事にした。


「...兄さんには失望しましたよ」


「こんな逃げ道を使う俺もだいぶ自分に失望してる」


「ていうかギャグ路線って何ですか?ふざけて話せと?」


流石に呆れて、というかなんとも言えないといった感じで桜は問いかけた。

なんせ先日まで悶々と考え続けていた疑問である、それをその当の本人に、ぶっちゃけギャグかシリアスどっちで行く?なんてふざけた質問されればこうなるのも当然である。

これにはきちんとマコトにも考えがあった、普段から考えなしに行動して損してるが今回ばかりはそうもいかないのだ。


「個人的にはどう思ってるかとか拗れる前に話したいと思う」


「拗れる前...ですか?」


「寝る前にすこし考えたんだ時間が解決してくれるって...」


はるか過去を覗くようにマコトは遠い眼をしてそう呟いた。

その横顔は人生の経験則というのを深く語る老人のような姿は何故か哀愁と貫禄が漂っていた。


「で、寝て少し考えたんだが俺時間を開けて何か解決するって思って解決した事なかったわ」


「結局ふざけた方向性で行くんですね」


「だから久しぶりに兄妹水入らずで話そうぜ?」


「良いですけど...良いんですけど昨日私が悩んだのはなんだったんですか!?」


「さぁ?」


「さぁ?じゃないですよ、蹴り飛ばしますよ?」


「さぁやれ、存分にやってくれ!足がちゃんと動くんだな!俺は嬉しいし大歓迎だ!」


肢体が満足に動かせなかった妹が今両手両足を動かし元気に声を出している。

その事実が先に脳内に出てきて自分が一体どれだけ変態発言してるかなどマコトは知らない。

流石にここまで兄がこのような態度を取るとは思わず頬を赤く染めて羞恥とか、怒りとか、様々な感情が入り乱れて一つの結論の元から一つの行動を実行した。


「兄さんのばかー!!」


そう、逃走である。

王城の廊下を小綺麗な執事やメイド達が歩く中桜は全力疾走で逃げた。

勇者でもある彼女にとっての走行速度は異常、ものすごく早いのだ。


そして魔力操作で理論値最高の走行速度を出せるマコトが追いつけない道理などないのだ。

かつてマコトが超高速で斬撃を加えて逃げる魔王軍諜報部隊の兎人を追跡するために作り出した追跡特化状態である開花・走、ネーミングセンスのないマコトが日中夜考えるに考えて作った名前だ。

この世界で最高速とすら呼ばれる猫獣人の速獣と呼ばれる走る事に特化した一部種族を超えた速さを開花・走はできた。


つまりはレベルの低い桜の逃げ足など冗談か何かのようにマコトは笑顔で桜の走る先に一瞬で移動、笑いながら腕を広げる。


圧倒的走行速度で走る桜がぶつかれば間違いなく衝撃によって弾き飛ばされ怪我は免れない。


なので調理室からくすねたライムの実、体内の魔力生成器官を刺激し一定時間だけ魔力を通常を超えて生成する木の実である、それを奥歯で噛んで液体を飲み込むとマコトの体に魔力が溢れ、開花によって消費された魔力が一時的に回復。


迷わず魔力を操り変化、マコトの身体中に魔力の防壁が展開、他全ての能力を削ぎ落とし守りに完全特化させた型である開花・守。


かつて防具の意味を成さない防御力貫通型の槍を持つ幹部と戦った際に身体中が貫かれ瀕死の重傷を負いヤケクソで防御した結果生まれた型である。

機動力および攻撃力を完全に度外視しているために集団戦でしか戦えないようなぼっちに辛い能力である。


尚、驚くべき事にかつて魔王軍幹部と戦うために生み出された生きるための手段が今は妹を追いかけるために使用されていた。

天国か地獄かどっちかで魔王軍幹部のデュラハンと諜報のバイルが泣いているような気がした。


両手を広げたマコトに勢いを殺しきれず桜は飛び込み素早い判断で怪我をさせないようマコトは後ろに少し飛び地面にマコトが叩きつけられる感じで完全に停止した。


「いやー兄ちゃん嬉しいぞー!妹が抱きついてきてくれるなんて」


プルプルと何が起きたか理解はできないが兄がバカみたいなことをしたと理解した桜はなんとも言えない顔でマコトの上に跨りながら力なくポンポンとマコトの腹部を叩いた。


ニヤニヤ笑いが止まらず思わずマコトは吹き出した。


「何笑ってるんですか!!」


「いや、本当にどうでも良い事に悩んでたなって」


「勝手に納得して勝手に頷かないでください!」


「昔は昔で今は今って話だよ」


「一体何が言いたいんですか...?」


もういい、ヤケクソだ。

そういった感じで桜は質問した。


「誰もが未来はーーっていうがその未来の人間にとってそれは今日でしかなくて、言っていたのは変えられない過去、いるのは常に今であってそこに過去も未来も無い」


「怪しい宗教でも入ったんですか?」


「こっちの世界の詩人の言葉だよ、そのかわいそうな目で見るのをやめろ!中二病でもねぇ!」


「で、言いたいのはそれだけですか?」


「あっあと少し報告することがある」


「なんでしょう?」


「あー...驚くなよ?ユイ、出てきてくれ・・・・・・・・


「兄さん等々中二びょ....おっぅ!?」


虚空に話しかける兄にツッコミを入れようとした桜は首元の匂いを嗅がれ数十歩下がった。

誰が言うまでもなく、ヒュッと何処かに鎌をしまったユイさんである。

うーんと少し悩んだ後納得したように手を叩いた。


「匂い的にマコトさんの家族です!つまり妹さんですね?」


どう言う判断方法なのかとか、どこから現れたのかとか、様々なツッコミが吹き荒れるがそれよりも一番の問題は美人の女性が兄を名前で親しげに呼ぶ事。

明らかにべったりしてる、見るからにべったりしている。

後ろから思いっきり抱きしめている。

あわあわと魚のように口を開いたり閉じたり、マコトは恥ずかしそうに頬を掻いてから呟く。


「嫁と...娘が出来ました」


「よ....む...?へあっと...」


こうして桜は意識の手綱を迷わず手放したのであった。

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