第22話

酷な話というのは誰にでも人生一度は訪れる。

望んでいなかろうが望まなかろうが誰にでも理不尽に訪れる抵抗できない不条理によって心身が削れ壊れていく。

何をどうしようが、誰がどうしようが変わらないし、人が悲しもうが恨もうが、結局の所最後には誰かの損と、誰かの得で終わる。


いつ誰がそれを許容しなければいけないと決めたという話である。


少女はそれを許容できず、疑問を持ち続けた。

自身の父親は何故居ないのか。

何故母が父の遺品を見て涙を溜めなければいけないのだろうか。

何故、何故何故ーー


どうして家はこんなにも寂しくて、笑っているけど笑っていない母親がいて、耳を馬鹿にする人がいて、父親が、他の家族には絶対にいるはずの父親が家にいないのだろうか?


自立して数十年たち理解したのはエルフだからと差別する人間もいれば過去の英雄の仲間だからと興味本位で近づいてくる人間もいて、誰一人として私を一人の人間としてみる人間は居なかったのである。

そうして少女の百年は簡単に過ぎ、いつの日からか家族というのを求めて歩き始めていた。

母親がいて父親がいる、そうして家族全員が食卓を囲み笑って仕事仲間がどうとか、学校がどうとか、そんな小さくて素晴らしい幸せ。


少女は隠蔽のフードを目深く被り、母親がよく歌った曲を鼻歌まじりに陽気に歌う。

王都の裏路地に似つかわしくない白銀のローブに身を包み燻んだ黒色の髪の毛を揺らしながら笑う。

そんな少女を哀れむように金髪の老人は両目を細める。


「アイ、本当に良いのか?」


「エリック?今更後悔してるのかい?」


くるっと周り不敵に笑いながら少女は呟いた。

童女のような微笑みは万人を振り向かせる魅力があるがそれよりも濁りきった両眼は本来の翡翠石のような輝きは無く吸い込まれそうな威圧感があった。

やれややれと行った様子でエリックと呼ばれた男は戯けたように笑う。


「ーーそんなわけないだろう?」


「そうだよね、僕が間違ってるはずがないもんね。君が僕に協力してくれて助かったよ」


「当たり前だろう?同胞でもありエルフの王家の血筋、協力するべきだろう?」


「そこは持って敬意を持って呼んでくれないかな?」


それが王族に対する口調か、と。


「はいはい、お嬢様はご機嫌が麗しいご様子でしがない用心棒の私は大変嬉しい限りです」


あまりにもわざとらしい口調に少女は不満そうに唇を尖らせて石畳の濃い灰色の上を歩く遊びを始めた。


「気持ち悪い」


「そりゃあ悪うござんした」


一つに小瓶を懐に隠しエリックは少女の後ろをついて行く。

小瓶の中身は彼女らの計画を効率よく進めるための一つのコマであり仲間でもある。

スライム状の液体が未知の世界を疑うように体を動かし、恐れをなしたのかエリックの赤いコートの色に変色した。


少女は確かに感じる気配に笑いながら心の底から嬉しそうに頬を赤く染めた。


「お父さんに早く会いたいなぁ...」


大通りへと二入は静かに歩き出した。

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