第21話

与えられた自室で桜と王女は紅茶を啜りながらひと時の休息を得ていた。

お茶菓子を紅茶に浸けてムシャムシャと貪る桜はふと零す。


「兄さんって馬鹿ですよね」


彼女からすれば数ヶ月ぶりに再会した家族、その兄貴を馬鹿にしていた。

静かに上品に紅茶を啜っていた王女はカップを置いた。


「しょうがないでしょ...というか本当にまだ生きていたなんて。百年前の大英雄よ?夢見たい」


少しうっとりしたように半ば夢のような事態に少女は夢見心地で呟いた。

枕元で日夜囁かれるような英雄記の主人公ーーその人物に会えたのだ。

この国の恩人であり世界の救世主、全人類に安定をもたらした英雄。

すべての国の等しい認識であり彼が行った救われた人間も多く戦後の外交では大分友好的な態度で戦後処理が行われたらしい。

文字通り物語の主人公である人間に出会うなど人生で二度はないだろう。


「聞きたいことが山ほどありますがその前に本当に生きてて良かったです」


「お兄さんでしたっけ?貴女なんで嘘をついてるってわかった時に抱きついたり、感動の再会をしなかったの?」


「馬鹿ですか?王女も馬鹿ですか?兄だっていうのは声一つで分かりましたが四度も嘘をつかれたんです。何か事情があってしかるべきで面倒臭いことを考えてるに違いありません」


嘘が色で可視化できるようになる魔道具であるネックレスを外し桜は残念そうに、少し寂しそうに呟いた。

何故兄が自分を避けるのか、やはり自分は嫌われていたのか、やはり自分が兄にとっては荷物でしかなかったのか。

自分が生きているのは一重に兄の努力である、だがそれが死ぬ程働いて苦しんでまで行っていたことだって知っている。

家族だから仕方なくそうやっていたのかもしれない、自分はただお荷物で兄の学校生活を潰すような事をしていたのかもしれない。

それらの事もあってとても桜は問い詰める事が出来なかった。


「本当に馬鹿なのは私かもしれませんね」


「?幼女趣味の疑いはあれど馬鹿ではないわ」


堂々とロリコンでしょ?と言われるが桜は呆れたように溜息を吐いて紅茶を啜った。

気づいてはいないが高い経験値を含んだ大樹の葉から作られた紅茶である。

飲むだけでレベルが上がる優れものだ。


「これだからぼっちは...人間の心っていうのは複雑なんですよ」


「難しいですね、私には理解できませんよ」


「もっと人の心っていうのをわかった方がこの先やってけますよ」


「善処しますよ」


「やらないんですねわかります」


そうして静かに隣室で眠るシンジョウマコトの姿を思い浮かべ二人は別々の方向の考えを進めた。

桜は兄が自分をどう思っているか、どう考えているかで困惑し、理解できずに悶々と考えを連ねた。

王女はこの城の一部屋で眠るのが伝説の勇者ということに憧れを抱きある妄想がふと脳内に現れた。

未だ精神的に幼いが成熟したように喋る彼女にとって考えることは一つ。

勇者伝記の二次創作として描かれた童話の一つの話。


普段なら王女をさらうのは龍の役目、古今東西ではそのイメージが定着してるが現実とはかけ離れていて実感があまり湧かない。


だがその二次創作の童話は王女を勇者が攫うのだ。

大賢者が描いたその物語はとても美しく儚い物語だった。


幼い頃に大賢者に貰った宝物である童話本を開き王女は少し読んだ後妄想を脳内から振り払って静かに童話本を置いた。


これはあくまで創作物であり現実ではない、そう再確認し来るであろう大賢者の為の準備を始めた。







「あー眠い、これだから戦闘は嫌なんだよ...体の節々が痛いし筋肉痛がひどい」


王城の天井・・を重力に逆らい地に頭を向けて歩きながらマコトは静かに呟いた。

本来の目的である指輪を取り返す為の作戦を決行したのだ。

数日前に吸血鬼を利用し王城へと侵入する予定だったのだが弓の勇者のお陰で結果的に侵入できた上に大分楽に宝物庫へと迎える。


正直マコトはもっと危険でヤバイと思っていたのだが結局の所拍子抜けだった。

エリックが言うほど危険でもなければ命の危険性は感じない。

勇者だって昔と比べれば弱すぎて話にならない。


結論から言えば今マコトは慢心していた。

慢心ダメ絶対、このルールを破った際に起こるのは一つ、その事を忘れたマコトに待っているのはなんであろうがろくなことではないのだ。


職業:開拓者の技能である地図を模範、脳内に浮かび上がる城の大雑把な地図から場所を予想しマコトは歩を進める。


今までで一番慎重といっても過言ではないぐらいの警戒心を常に抱きながら気配探知魔法すら使っての行動だった。


歩く事数十分、王城の宝物庫の入り口がある王女の寝室の入り口まで到達した。


職業:忍者の技能である聞き耳を模範、少女二人の姦しい話し声を聞いてマコトは溜息を吐いた。

二人だろうと人がいるだけで侵入の難易度が結構変わってくる。


物理的な破壊なら可能だがそのような事をすればバレかねないしかといって錬成術や魔法も壁に対しては完全無効化されてしまう。

この城は一種の魔道具、完全に魔術と技能が通じない絶壁となっているのだ。

一度マコトは遮音を使い掘り進むことも考えたがどちらにしろ部屋の中からしか宝物庫に侵入できない。


城の最上部に近い王女の部屋は一見、いや普通にかなりの大きさのある国庫、宝物庫があるとは誰一人として考えない。

だがここは魔術と剣の世界であってたまに常識が通じない世界であるのだ。

それを示すように王女の部屋の暖炉の奥にはこの世界のどこかにある宝物庫への転移魔術が組まれているのだ。


何か騒ぎを起こす事を考えるがそれは選択肢に入らないだろーーう?


ちょっと待てとマコトは心の中でツッコミを入れる。

今この城、もしくは王都のどこかに候補者のダビンがいるらしい。

それをあぶりだす手段は少なく本体の居場所はとてもじゃないが予測できない。


この城の人間はほぼ全て傀儡となっていないと言うのがマコトの見解だ。

侵食型の進行が見られれば国は容赦なく犯人探しを始める。

そうなればいくらバレにくいと言っても見つけ出すことは可能、なのでそんなリスクを背負ってまでやるはずがない。

市民のかなりの数が傀儡となっているのは調査済み、ガクブル震えて市民を見ていたマコトは技能を使い違和感を探し回っていた。

その際にわかったのが傀儡化されてる人間はゾンビと変わらないと言うことだ。


つまり侵食型の本体は人として動いてる誰かとなる。

あの吸血鬼が違和感のある傀儡化された人間であってその本体ではない。


騒ぎを起こせば少なからずダビンとやらは行動せざるを得なくなる。


「(考えろ!!考えるんだ!!)」


どうにかして最適解があるはずなのだ。

なんとか、何か決定的な事をできれば侵食型の本体を潰せるかもしれないのだ。


一先ずマコトは小走りで自室へと戻って行った。

致命的に自分の計画性の無さと知識の無さを理解し誰かの助けの必要性を理解した。


こうしてマコトの城での一日目が終了した。




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