第九回 オリエンテーリング大会(二)
チームメイトのところへ戻ってまもなく、スタートの時がきた。わたしたちは地図とコンパスを携えて林に分け入った。これから先はこの地図とコンパスだけが頼りだ。
レクリエーションの要素が強い大会だからといって、適当にすませるのでは気がすまない。チームメンバーの皆も同じ気持ちであるようだった。
「最初は学園の裏手を東に向かって……」
「それより道、あっちじゃない?」
「いや、ここの等高線がこうだから……」
仲間と真剣に意見を戦わせながら山を存分に歩きまわるのは楽しかった。
先頭を歩く津田くんは、リーダーを引き受けた手前かもしれないけれど、「ついてこれるか?」とチームの皆にたびたび気を遣ってくれるので、ちょっと見直してしまった。
意外だったのは、コースが思ったよりも楽なことだった。もっと藪に入ったり急斜面を登ったりするのかと思えば、山の中には道もつけてあって、歩きやすい。
「コースは全然大したことないって委員会の先輩がたも言っていたわ」
朝霧さんが言う。
「学園の裏山にこんなハイキングコースがあったなんて、知らなかった」
田中さんも意外そうに感想をのべた。
「このへんは生徒がしょっちゅう歩き回ったりしてるぜ。運動部の連中もトレイルランしてるし」
「くわしいんだ、帝」
幼少の頃から津田くんを知っているという朝霧さんは下の名前で呼ぶ間柄のようだ。
ということは、土地勘のある体育会系の部活に有利なのではないだろうか――という疑問はひとまず置いておく。そもそも体力においてもそういう人たちに敵うわけもないのだから。
第一コントロールは難なく予想通りの場所で発見できた。
ならば、わたしたちは基本的な考え方において大きく外れてはいないはずだと自信をあらたにして、次のコントロールを目指す。
わたしには別の気がかりがあった。もちろんそれは『裏競技』のことだ。寮の先輩たちは隠しコントロールはすぐにわかるはずだと言っていたが、それがどんなものかがわからないため、わたしはあちこちを注視していなければならなかった。わたしがあまりにきょろきょろとしているのを見て津田くんが、
「お前がそこまで気合い入れてやるとは、意外だな。はは」
と笑う。本当にデリカシーに欠ける人だ。なんだか馬鹿にされたみたいで少し腹が立ったけれど、こっちが無邪気な子供に腹を立てている大人みたいに感じて、抗議するのをあきらめてしまった。
いくつか目のコントロールにたどり着いたとき、辺りの様子が急変した。さっきまであんなに晴れていたのに、山の中に靄が立ち込め始めてきた。
「おいおい、急にガスってきやがったな」
顔の前の靄を振り払うような仕草をする津田くんだったが、そんなことをしたってどうにもならない。
何かがおかしい――そう思っていると、一陣の風によって運ばれてきた靄にまかれて、チームの皆の背中が視界からかき消えるように見えなくなってしまった。
「えっ!? ちょっと、みんな!? 待って!」
大声で呼びかけるが返事がない。
「どうしよう……」
うろうろ歩き回るのが一番いけないことだとわかっていながら、置いていかれた焦りにそうせざるをえなかった。
皆を探して森の中を一人で進んだ。
幾ら急いでも追いつかず、胸の底から不安がつきあげた。
おそるおそる靄の中を進んでいると、いきなり何か得体の知れない気配が近づいてきて、ガサガサと枝葉を揺らした。
「きゃあっ!」
わたしは驚いて跳ね上がり、その場に蹲った。
突風のように現れたその気配が立ち止まって、
「あら」
と、意外そうな声を上げた。靄に融けて一瞬、四足の獣のように見えたその姿だったが、目を凝らしてよく見れば人の姿だった。
「み、薬袋さん?」
体操服の薬袋小柚子さんは、藤色の作務衣のときとはまた違い、より活発な印象を受ける。
「千代璃さん?」
「ああ、やっぱりここでよかったのね」
「ここで、って?」
「第一コントロール」薬袋さんはきょろきょろと辺りを見渡して、「あっち、かな」と駆けてゆく。俊敏でしなやかな動きはまるで山鹿のようだ。あっという間に木々の間に隠れたかと思うと、またすぐに駆け戻ってきた。
「うーん」
腕を組んでわたしを見る。
「な、何か?」
「まあ、いいか」
薬袋さんはわたしにむかってにっこりほほ笑むと、様子見でもするように頭を揺らしている。
「あの……」
「何?」
「わたし、チームメイトとはぐれてしまって……薬袋さんも?」
「ていうか、これは大丈夫だよ。千代璃さん、先輩がたから聞いていないの?」
「何を?」
薬袋さんの言葉でわたしはいまさら気づいてしまった。何を知らないのかということさえも、おそらくわたしは知らないみたいだ。寮の先輩がたも、ただ素直にものを見なさいとだけしか教えてくれず、裏競技の実際についてレクチャーを受けたわけではなかった。他の寮の選手たちも全員が初参加のはずだが、昨年の出場者や先輩たちから実際の競技に関することをこまかく聞いているのだろう。どうして、わたしだけが何も知らされていないのか。
「まあ、そういうことでもいいのか」薬袋さんは一人だけ納得したように頷いて、「ほらもう一人来た」と藪の向こうを指した。
また一人、誰かの気配が山の斜面を登り、近づいてくる。
「……ハァ、ハァ」
まるでマラソンでもしてきたかのように、肩で息をしている華奢な少年が、最後にハァーと長い息を吐いて、
「二の四、忍野……だ」
と言ってバタッと倒れた。勢いであたりに堆積した枯れ葉が舞った。
「だ、大丈夫ですか?」
寮で話にのぼった幽星寮の『吸血種』の人だろう。二年生だから当然先輩なのだろうが、どう見ても少年にしか見えない。しかもとてもひ弱そうだ。
「ヒー、大丈夫大丈夫。ていうかきみ優しいね。敵同士なのに」
と息も絶え絶え。
最後にもう一人来るのだろう。確か、シャングリ=ラの桜庭なんとかいう人だ。
「はー。桜庭なら来ないよ」
「えっ」
見透かしたように忍野先輩が言う。
「先に行くと言って俺を置いていったんだから。たぶんもう」
と、斜面の上のほうを指で示した。
「そういうことなら」
と、薬袋さんが再び辺りを駆け巡りながら何かを探しまわり始めた。
「あっ」
きっとコントロールを探しているのだ。わたしも慌てて辺りを見回す。はやくコントロールを確認して皆のもとへ戻らなくてはならない。気は急くけれど、倒れこんでいる忍野先輩も放ってはおけない。靄は一層濃くなり、数メートル先の視界もあやふやになってきた。薬袋さんが藪を探って歩き回る音だけがざくざくと聞こえていた。
忍野先輩は倒れ込んだまま動かない。わたしはその場からあまり離れないように辺りを探っていたが、ふと目先に、大きな木があるのを発見した。
「えっ、さっきあそこには何もなかったと思ったけれど……」
近づいていくと、薬袋さんと忍野先輩もいつしか隣にいた。
「これね」
「うん」
木には大人が三人くらい余裕で入れそうなうろがあって、中がどのようになっているのか、暗すぎてよく判らない。一大決心をして近づいていく。ふたりもわたしに並ぶように、動きを同じくする。
気味は悪いが明らかに裏競技の関係のものだとわかっているので、逃げるわけにもいかない。
勇気を出して、うろの中を覗き込んでみた。
すると、突然見えない力で強引に引っ張り寄せられ、うろの中に吸い込まれてしまった。
固く閉ざしていた目を薄く開くと、周囲はやはり森の中だった。ただ、さっきまでわたしがいた学園の裏山の林とは明らかに植生の違う、幻想的な森だった。まるでお伽話かむかし話に出てきそうな古森である。呼吸をする度に、靄の混じった鮮烈な空気が肺を満たす。
「ここは……」
忍野先輩は頭を打ったらしく、「ってててて」と傍らでおでこのあたりを押さえている。
「先輩、大丈夫?」
薬袋さんの問いかけに忍野先輩はひらひらと手を振ってこたえる。
「どこかしら……ここ」
呟くと、
「どこだっていいのよ。コントロールさえ見つかれば」
薬袋さんがぶっきらぼうに言う。織耶さんの前ではわりとかっちりと折り目正しい印象があったけれど、どうやらこちらの性格のほうが素のようだ。
「あそこに誰かいる」
忍野先輩が示す先に、誰かが座っていた。テーブルがあり、その上にはクロスが敷かれており、お茶のセットが設えられている。
「やあやあ、君たち、遅かったね」
足を組んで椅子にかけたその人物が反り返って、顔をこちらに向けた。長い髪をうしろで束ねた、色素の薄い貴公子然とした男子だった。体操服でなければまるでどこかの外国の貴族の子息と勘違いしたかもしれない。手にはティーカップを持っている。
「桜庭……これはお前が?」
忍野先輩がテーブルのお茶セットを指しながら聞く。
桜庭先輩は優雅にカップを傾けながら、
「まさか。最初からあったに決まってるだろ。君たちもそんなところにつっ立っていないで、どうだい。けっこういけるよ」
テーブルには確かにちょうど人数分のカップが伏せられていた。
わたしたちは目を見合わせた。
いまは競技中だ。こんなところで得体の知れないお茶会などしている場合ではない。
口を閉ざしていると、桜庭先輩は意外そうな顔をして、
「見ろよ、この奇妙なシチュエーションをさ。こういうものには、関わらなきゃ物事が進まないだろ。ほらほら、座って座って」
と勧めてくる。言われてみれば一理あるような気がして、それでも躊躇っていると、
「私、頂くわ」薬袋さんが覚悟を決めたように着席した。
「じゃ、僕も」と忍野先輩も従うので、わたしもしぶしぶ着席した。
「僕が思うにね」桜庭先輩はしたり顔で、「敵同士、いがみ合っていないで、しばし仲良く歓談しろということだよこれは」と、大仰に両手を広げてテーブル全体を示す。
「はあ……」
べつにいがみ合っているつもりなんて、わたしにはないのだが。
「どうぞ」
薬袋さんがいつの間にか三つのティーカップにお茶を注いで、わたしと忍野先輩にくれた。
「あ、ありがとうございます」
「では、みんなの健闘を祈って、乾杯」
桜庭先輩がそんなことを唐突に言って、カップを掲げる。
「い、いただきます」
織耶さんの忠告があったせいかもしれない。わたしはシャングリ=ラの寮生である桜庭先輩という人がどうしても信用できなかった。一見穏やかに笑っていながら、何か含みがあるような気がして仕方なかった。
それに正直、こんなところで時間を潰している暇はないと気が気でなかった。それについては薬袋さんが先ほど言った『大丈夫』という言葉を信じるしかない。ならば、やはり寮の代表選手としてここで他寮の選手皆と同じことをしないわけにはいかないのだろう。
心を決めてお茶を口に含むと、やや酸味のある暖かい香りが広がった。
緊張していただけに、ほっとする香りに、予想以上に気が抜けたのは否めない。
それと同時に、何か頭の底がぐらついてきたような……。
気持ちが悪かった。頭の中で何か得体の知れない生き物が蠢いているかのようにぐらんぐらんと揺れていた。夢の底で囁いているのは誰だろう。いや、囁いているのではなかった。耳に覆いを掛けられて、その向こうから微かに漏れてくるような、二つの声。
――まったく……何が仲良く、だっつーの。
――イヒヒ。うまくいきましたな。
――僕はコントロールを探す。お前はすぐに消えろ。
――はい、はい。そういたしますとも。ですが……お約束のものがまだ……。
――全部終わった後でいいだろうが。
――信用はしておりますよ。信用は。ただ、信用のおける相手にも念のためということはございますよ。それにこれはお約束ですからな。
――いちいちがめついことだな。ほらよ。
――これはこれは、ありがとうございます。
――いいから早く行け。
――へえへえ。ヒッヒ。
――ちっ、薄汚い化け物めが。
吐き捨てるような台詞のあと、朽葉を踏みしだく音が、遠ざかっていった。
はっと気がついて身を起こす。そこはさきほどの場所で、わたしはテーブルに伏していた。隣にはまだ薬袋さんが眠ったままでいる。わたしは手を伸ばして「薬袋さん、起きて」と彼女の身体を揺さぶった。体がひどく重たくて、腕を動かすのも億劫だった。
「ん……」
薬袋さんが顔を上げて、目をしばたく。やがて正気を取り戻したように、ぶるぶると首を振った。
「頭……痛い」
「薬袋さん、大丈夫?」
「ううう……だいじょばない……かも……」
やっとのことで意識がはたらくようになって、薬袋さん、忍野先輩、わたしの三人は今まで気を失うように眠っていたのだということを知った。
「あいつ……私たちに何か飲ませたの?」
薬袋さんが恨めしそうに言う。わたしもそれに間違いがないと考えた。
「ねえ先輩起きてくださいよ」
正気づいた薬袋さんが這うようにして向かいの席に突っ伏している忍野先輩を揺さぶり起こす。
「ううう……うぉえっ……」
意識を取り戻した忍野先輩が、嗚咽を漏らすような、ため息のようなうめき声をあげて身を起こした。
「ここは? うわ、頭がくらくらするー」
「大丈夫ですか?」
「あ、あありがと……なんとかね。桜庭のやつ、ひでえことしやがる」
「先輩もあの桜庭って人が私たちに何かしたんだと思います?」
薬袋さんが聞くと、
「それしかないだろ!」
忍野先輩は憤慨して、手のひらでバンバンとテーブルを強く叩いた。忍野先輩はさらに言葉を荒げて、「これは問題にしてやるぞ!」と息をまいている。薬袋さんはわたしを見て困ったように首をすくめたが、この頼りなげな人に果たしてどこまで強硬なことができるのかと疑問視しているようにも見えた。
わたしは夢の中で聞いたと思われる会話を思い返していた。あの声は、桜庭先輩と何者かが実際にした会話だったのかもしれないと思った。ただ、皆にそれを事実として告げるにはいささか朦朧として、頼りない記憶であったことは確かだ。
話し合うまでもなかったけれど、わたしたちは、桜庭先輩がさきほどのお茶の中に眠り薬を仕込みわたしたちに飲ませたのだという結論で一致した。
「でも不思議だわ。桜庭はどうしてこんなことをしたのかしら?」
薬袋さんはついにあの先輩を呼び捨てにすることに決めたようだ。
「わたしたちに差をつけて、先へ行くためではないの?」
わたしが自分の考えを述べると薬袋さんは首を横に振って、
「意味がないのよ。あなた何も知らないみたいだから教えてあげるけど、この裏競技って、寮の代表選手全員が揃わないとコントロールが出てこないことになっているのよ」
「そ、そうなの?」
「そうよ。だからあいつだって私たちがここへ到着するのを待っていたのよ。それに私たちを出し抜いていち早くコントロールを見つけたとしても、一番に見つける意味だってないのよ。次のコントロールだってそのはず」
「時間を稼いでわたしたちにまた何かする準備をしている、ということは?」
「その線はあるな」と忍野先輩。
「でも、二度目はないと思いますけど」
薬袋さんは否定した。確かにわたしたちは警戒を深めている。もう同じ手は通用しないだろう。
「あとは私たちに精神的な苦痛をかける――つまり嫌がらせとか。あるいは怖がらせて棄権を誘うとか」
そう言ってわたしの方へちらりと視線を投げかける。こんなことでわたしは棄権なんかしないのに。
「あはは。薬袋さんて言ったっけ。君も案外考えることがブラックだね」
「あら先輩。先輩だって怒ってたじゃないですか」
「まあそうだけど……」
「だとすれば薬袋さん、わたしたちは桜庭先輩がいなければここのコントロールを確認できないということになりはしないの?」
「いいえ。それは大丈夫。いったん出現したコントロールは消えないから」
「それならばこの近くにあるはずね」
「うん。やっと体も動くようになってきたし、まずはそれを探しましょう」
コントロールはすぐに見つかった。もっとも発見したのはわたしで、ふたりはまったく気がついていなかった。わたしたちが伏していたテーブルから十メートルほど離れた場所に一見判らないような結界が施されていたのだ。
「これは……桜庭がやったのか?」と忍野先輩。
わたしたちがコントロールを発見するのを遅らせるために結界を張ったのでは、と言いたいらしい。
「やっぱり時間稼ぎ……ですか?」わたしは聞いた。
「だから無意味なんですって千代璃さん。コントロール圏内は時間の流れが違うんだから。あなたも少し前に仲間とはぐれたでしょう? ここから出たらすぐにそこに戻れるはずよ。ほとんど時間は経っていないはずだから」
「えっ、そうだったの……」
忍野先輩も黙って頷いている。
「本当になにも聞いてなかったのね」
結界の中には古びたイーゼルが一つ、ぽつんと置かれていた。イーゼルにはカンヴァスが乗っていて、そこに何か文字のようなものが書いてあった。
「L……かな? アルファベットの」
忍野先輩が首を傾げつつ言った。
「Hだと思います」
「千代璃さん!」
わたしの言葉を薬袋さんが物凄い剣幕で制して、
「何で答え言っちゃうのよ? て言うか先輩、誘導尋問、わざとでしょ!」
「あ、いやー」と先輩は頭を掻いた。「だって全然わかんないんだもん」
わたしが首を傾げていると、
「もう、馬鹿! これが裏競技の課題なんじゃないの。あなたのおかげで私にもこの文字が『H』にしか見えなくなっているわ」
「あっ!」
わたしは寮の食堂で佐橋先輩たちに試されたときのことを思い出した。競技に必要な『見抜く力』というのはこのイーゼルに書かれたあやふやな文字を正しく見抜く力のことだったのだ。そうだと気がついたがもう遅い。
「まあ、今回はいろいろ教えてあげた見返りとして有り難くご好意に甘えるとするわ」
わたしたちがさきほどこの古森に出現したあたりに戻ると、はたしてそこにはまたうろのある木があって、中に入ると再び元の山の中へと戻ることができた。
そこには桜庭先輩が待っていて、
「やあ、ご苦労ご苦労。お帰りなさい」
わざとらしく手をパチパチと叩いてわたしたちを出迎えた。
「お前、何か変なもの飲ませたろう……」
忍野先輩が一応凄んだような、唸っているような声で桜庭先輩を責めた。
「安心しろ。エルフがよく好んで摂取するただの花の蜜だよ。けれど少々リラックス効果があってね、入眠薬としてもしばしば使われるものさ。いい気分だったろ?」
「あんた最低よ」
薬袋さんも険しい声で糺弾する。
「何を言っている。競っているんだ。他を出し抜いて当然だろ。というか引っかかる方に緊張感が足りないんだよ。ライバルを容易く信頼するなというこれは警鐘さ」
「それだけのために、私たちにわざわざ眠り薬を飲ませたというの?」
「そのとおりだよ。それとも競技への参加を放棄して、みんなで仲良く謎解きごっこでもするかい? この先も僕はこういうスタンスで行くからな。せいぜい注意しておけよ」
と冷徹に言い残して藪を下り、去って行った。
「わたしたちも行きましょう」
わたしがそう言うと、薬袋さんが、
「ちょっと待って。どうして一緒に行動する前提なの。私だって一人で行くわよ。ただ……」
「ただ?」
「最初は黙っていれば楽勝と思っていたんだけど、あなたを見ているとなんか正々堂々と勝ちたい気がしてきた。この先はライバルだからね」
「望むところです」
わたしも今度は薬袋さんの目を真っ直ぐ見つめて言い返した。
藪を下っていくと、すぐに霧が晴れた。同時に視界の先に数名のジャージ姿を見つけて近づくと、それはわたしのチームのメンバーだった。
安堵の気持ちがこみ上げた。
「待って!」
皆のところへ駆け寄る。
津田くんが、
「あ、いたいた。どこへ行ってたんだよ? あまり離れたら駄目だぜ」
と何事も無かったかのように言うので、
「ご、ごめんなさい」
わたしは素直に謝って、再び仲間に加わることができたのだった。
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