ショート✳︎ショート

ある日ある時、酒場にて


 ジャパリパークでは、人類と共に暮らす新たな種族でありながらも、現状その能力や生態については、未だ多くの謎に包まれているフレンズという存在、そして、それを生み出す、ジャパリパークにのみ存在が認められる、サンドスターという物資について、日夜、研究が行われている。


 フレンズとサンドスターに関する研究を行うのは、研究本部の役目である。しかし、最も重要なのは、フレンズに最も近いところで、毎日フレンズの姿を見ている、特育課飼育員の生の声だ。この事から、研究本部は月に一度、飼育員達から、フレンズに関する観察レポートを募集する日を設けている。このレポートの提出は義務ではない。しかし、飼育員は、この時にレポートを提出すると、出した分だけ、その手数料として、研究協力費という、基本給とは別枠の賃金を受け取ることができるという、美味しい仕組みになっている。この研究協力費欲しさと、キャリア形成に有利という点から、積極的にレポート作成に取り組む飼育員は、数多く存在するのだった。そして、その為に、空き時間や、担当フレンズがいない期間でも、飼育員達は積極的に保護区内に出入りしては、フレンズに関する新たな情報を掴む為に、フレンズ達と接しながら、見回りをするのである。



 ジャパリパークの都市部にある、とある居酒屋。ここは、カゲロウの先輩飼育員である辰巳が贔屓にしている店で、新人時代から今に至るまで、カゲロウは度々、辰巳とこの店に来ては酒を飲み交わしていた。

お互いにある程度酒が回った頃、辰巳が、カゲロウにとある話を切り出してきた。


「お前が和ちゃんと極楽鳥たちと旅行に行ってた時にな、セントラルの方にいる同期と久々に会って飲んだんだ。その時ちょっと、そいつから気になる話を聞いてさ。ちょっとお前の意見も聞きたいから聞いてくれるか?」


仕事に関する話を公共の場でする事は、コンプライアンスの面で好ましいことではない。しかし、二人がいた席は、店の奥の座敷席で、平日半ばということもあってか店内の客の数も多くなく、二人の席の周りにはまだ誰も来ていなかった。カゲロウはそれを確認して、身を少し乗り出し、声を潜めながら訊いた。


「どんな話なんです?」


カゲロウの声に合わせて、辰巳も声を潜めながら話し始めた。


「そいつ、今は担当がいなくてさ。ここ最近は保護区の中を見回ってる事がほとんどらしいんだが、なんだか、挙動不審な、妙なフレンズを見たんだと」

「挙動不審?」

「何かを探し回ってると言うか、妙に周囲を警戒してると言うか、そんな感じだったらしい。気になって声をかけようとしたら、その途端、その場から走っていなくなっちまったらしいんだが、その時の動きがまた妙だったらしくてな」

「何です?」

「フレンズってのは、飛べない奴は大体俺らと同じように二足歩行をするもんだろ?ところがそいつは、四足歩行で走り去ったんだそうだ。妙だと思わないか?」

「まぁ確かに妙っちゃ妙っすけど、アレじゃないっすか?単に生まれたばっかのフレンズとか」

「その理屈だったらお前が担当してる極楽鳥だってもっとこう、鳥っぽい動きしたりしてるだろ」

「あ、確かに。あんまり鳥っぽい事してるの見た事ねえかも」

「だろ?だから妙だって話だ。耳とか尻尾の形を見た感じネコ科の何かのフレンズなのは間違いねえってそいつは言ってたが、あともう一つ、なんか違和感あった事があったらしい。でも忘れちまったんだと」

「はぁ、ネコ科のフレンズが四足歩行ねぇ。チーターだってフレンズなら二足歩行で走るし、狩りごっこやる時だって二足歩行やってるしなぁ」

「なぁ、お前、今研究本部からの依頼で極楽鳥の担当してて、研究本部と繋がってんだろ?なんか調べられたりしねえの?」

「残念ですけどそいつぁできない相談ですねえ。確かに俺は研究本部に出向してる扱いですけど、やってることっつったら、アイツらの観察日記をデータに打ち込んで提出して、時々ミーティングに行って口頭で近況報告してるだけなんで。あっちの方でやってる研究のデータとかを覗く権限は一切、俺にはありません」

「なんだぁ、つまんねーの」


辰巳はそう言うと、少し残念そうにしながら、残っていた日本酒をぐいっと飲み干した。それから、二人はまた、他愛もない話を、酒を飲みながら交わしたのだった。




 その夜から少し経った頃。

一人の若いパーク職員が、人知れず、パークから突然姿を消した。

そして、その、噂になった奇妙なフレンズの姿も、それからは誰も見ていない。



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