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「さて、状況は最悪だけど、何か策はあるかしら?」
リビングに集合し、進行役を買って出たのは双葉であった。体育座りで落ち込んでいる浩介の姿は極力視界に入れないようにしているのが見ていて分かる。明らかに構ってオーラを出しているので気にしないようにしているのだろう。
現状は、それどころではないのだ。
「部屋から。出しますか?」
「鍵は内側に着いているわ。さっき試したけど、鍵は掛かっている。出す場合は、扉をぶち破る必要があるから保留にするべきよ」
持ち家であるならば、まだ考慮の余地があるのだろうが、生憎マンションである。強引なやり方で浩介の両親に迷惑がかかるのは避けるべきだろう。
本当に危険な状態なのかを確認出来ないのが不安材料ではあるけれど、今は手元に配られているカードだけで対処していくべきだ。
「浩介はどうなの?」
「おいおい。有村……」
明らかに地雷としか思えない浩介へと踏み込んでいく。
ハイライトの消えた瞳を有村へと向け……
「ひぅ」
さらに縮こまってしまう。
先程のことが余程心に刺さっているのだろう。余計な刺激をしたら殻に篭るのも無理もない。
構って欲しそうにはしていたが、ちゃんと人選はした方が良かったのかもしれないな。
「浩介が本当に使えない」
「原因は私たちのはずよ。しばらくの再起不能なんて想定内でしょう?」
「そう、だけど……」
想定内ならばもう少し手加減してやってくれよ。もうすぐキノコが生えるんじゃないかってほど落ち込むまで追い詰めるなよ。
「でも、浩介くんならすぐに復活するだろうって目算があったからですよね?」
「当たり前よ。傷つけたくてやったわけじゃないわ。私たちは悪くない」
「いやいや。もっと反省はしろよ!」
開き直るな。
助けられなかった俺にも非はあるのだろうけど、直接手を下した方があっけんからんとしているのはどうかと思うぞ!
「なら、私の白兎はどんな方法で紀伊さんを引っ張り出すのかしら?」
「それは……」
特に思い付いている訳ではない。
ピッキングしようにも鍵穴はなく。なにか餌を用意したところで釣れるような人ではないことは今までの付き合いで分かっている。
なら、どうすればいいのか?
その問いに対する答えが思い付かない。
だが、別に方法を一つに固定する必要はないはずだ。
「なあ、紀伊さんをなんで外に出そうとしてるんだ?」
「そうね。情報が必要だから。今の状態を見るべきだからの二点が理由よ。それがどうしたの?」
「なら、二手に分かれる方が効率的じゃないか?」
部屋から出すのに、全員が揃っている必要なんてないのだ。状態を確認するだけならば一人待っているだけでも十分だ。
「確かにそうかもしれないわね。目の前にだけ固執しすぎていたわ」
「どういうことですか?」
「情報を持っているのは紀伊さんだけじゃないってことだ。浩介」
「助けて、助けてくれよぉ。兎ちゃん」
「浩介が変なの。どうしよう」
「有村ストップ!!!!!」
有村がなにも言わないなと思っていたら、浩介に寄り添っていた。壁に身を預けていたせいで身動きの取れなくなっている浩介は必死に手を伸ばしているが、有村はそれをペシペシと叩き落としている。双葉たちとの話に夢中になっていたせいで虫の息で助けを求める声が届いていなかった。
「由里。少し離れなさいな」
「でも、女の子に近づかれた方が男子は元気になるって」
「トラウマを植え付けた女子が相手なら効果は逆転するわよ。一旦距離を置きましょう」
「むぅ」
しぶしぶ離れる有村。
這いずるように俺に抱きついてくる浩介に暑苦しいとか言って引き剥せるほど薄情にはなれずによしよしと頭を撫でる。
今から浩介の力が必要になるはずなのにこんなんで大丈夫なのだろうか?
酷く心配になるが、頑張ってもらうしかない。元々持ち込んだのは浩介なんだしな!
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