6

「遅いわよ。二人とも」


部屋の前で待つ双葉がため息を吐いている。鍵を持っているのが浩介だから待っていて当然だと分かるが、待つくらいならば浩介を引き取りに来てほしかった。

晒し者にされた気分で連れて来たのにそんな態度だとまた泣くぞ!!


「うぐっ。今、開けるよ」


手が震えているせいでガチャガチャと鍵を幾度も突き刺しては失敗する。

顔面蒼白で、明らかに危険な状況ではあるのに、誰もそのことについて口にすることはない。

女性陣に関しては早く開けろとプレッシャーすら与えている節がある。

こんな中で行動していたら胃に穴が開きそうだ。


「あっ開いた」

「失礼するわね」

「おじゃまします」


鍵が開くのと同時に中へと入っていく。俺と浩介を置いて……


「って待てよ」

「入っていくのがオレの部屋!?」


玄関で靴を揃えてぞろぞろと向かうのは浩介の部屋である。リビングではない。


「いや、ちょっと待ってくれよ!!」


すでに入っているにも関わらず止めようとしている。

部屋を片付ける暇すら与えるつもりはないようだ。

これが俺の部屋でなかったことに密かな安堵を抱いていた。

まぁ、俺の部屋なんて双葉もアリスも勝手に入るから危険物を放置なんて出来やしないし、掃除もこまめにしないと勝手片付けられる。

ある意味は危険度はこっちの方が高い。

勘弁して欲しい……


それを口にしたところで止めてくれる二人ではないので白旗を上げてやりたいようにやらせるしかない。

すでに無条件降伏状態である。


「あらあら。面白いものがベッドにあるわね」

「ゴミが多いですね。掃除した方がいいでしょうか?」

「浩介のバカ」

「止めろよ!!!!!!」


机の上からベッドの下。本棚の整理までやり始めてくすくすと笑う女性陣に対して必死に中止を求めている。

しかし、言葉で止まるほど優しくはない。様子を一瞥してから笑みを強め、さらに何かないかを探し始める。

ベッドの上には如何わしいタイプの雑誌やゲーム。漫画が鎮座し、浩介の性癖を白日の元へと晒している。


「これ、一八禁なのによく買えたわね。あら、幼なじみがメインね。あらあら。誰かさんにそっくりだわ。ふふふ」

「もう。ベッドの下にたくさんティッシュが。ゴミ箱があるのですからそちらに捨てるべきですよ。ホウキ勝手に借りてます」

「あれ、これ……もしかして、あたしの?」

「お願いだから。もう勘弁してくれよ!!!!」

「マジで勘弁してやれ! つうか、有村は一体何を見つけたんだよ!?」


背を向けているせいで何を手にしているのか分からないが、そろそろ浩介が限界であろう。

本来の目的は紀伊さんなのに、体力がマイナスに突入しかねない。


「仕方ないわね。私の白兎の頼みなら。聞くしかないわ」

「掃除。まだまだかかりますよ?」

「あれ、こっちも……」

「はい。全員出て居間に集合!!」


とりあえず強制退去だ。

浩介がベッドの前で号泣してる。明らかにやりすぎである。

今日だけで浩介の水分が無くなる可能性すら出てきた。

恐ろしい。家宅捜査がマジで恐ろしい。俺も気を付けないとな。


「想定はしていたけど、かなり危険ね」

「双葉……?」


部屋を出て、じっと見つめるのは紀伊さんの部屋だ。物音一つしないその部屋へと通じる扉は、固く閉ざされている。

そして、その扉とさっきの行動が繋がった。


「そう、か。紀伊さんなら……」


ベッドの上で宝物を抱き締めながら泣き続ける浩介を見逃すはずがない。

こんなに騒いでいるのに反応の一つもしないはずがない。


「分かったのなら、リビングで作戦会議よ。想定の数倍は悪い方向に向かっていると仮定していたほうがいいわね 」

「そう、だな……」


不安が胸の中に募っていく。

浩介の依頼をちゃんとこなせるのか……暗雲が、立ち込み始めていた。


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