5
放課後になり、行動開始となった。
状況を詳しく知るために向かうのは紀伊さんが居る浩介の自宅である。
俺たちの住んでいる場所の近くにあるマンションに住むため、そのまま帰宅するような感覚だ。
浩介から聞く話だけでは、悪いのは彼氏と言うことになってしまうが、もしかしたら、紀伊さんが何かをやらかして喧嘩しているだけの可能性もある。
喧嘩して別れる話になったなら、あまり刺激せず元気になってもらう方法を考える必要があるので難易度は上がる。
「紀伊さん。大丈夫かしらね」
「あら、双葉らしくないこと言うわね」
「私だって女よ? 振られた痛みは分かるわ。ねぇ私の白兎」
「俺は男だから分からないな」
必死に視線を反らす。
何らかの挑発をするような物言いなのですっとぼけることにしたのだ。下手なことを口にすれば、隣で上目遣いに睨んでいるアリスから非難が上がりかねない。
「いやー兎ちゃんはモテモテだな」
「そのにやけ面にグーパンチ入れてもいいか?」
自分の周辺を気にせず、俺がモテモテで羨ましいと言う笑みを浮かべる浩介に小さな怒りが沸いてくる。
早く有村とくっついてくれればいいのにな。
当の有村は、やれやれとため息を吐いているのでそっちから動くつもりはないようだ。
浩介。早く気づいてやれよ。
「ほら、そろそろ着くから降りる準備なさい」
双葉の合図と同時にバスは降りるべきバス停に停車する。
ぞろぞろと順番に降り、まっすぐに俊樹の自宅へと向かった。
「両親は仕事だよな?」
「ああ。九時までは絶対に帰ってこねぇよ。だからさ。空気が重くて重くて。自分の家なのに帰りたくねぇんだよ」
「自室に閉じ籠ってるのよね?」
「そうだぜ。でも、気配だけで殺気が飛んでくるんだよ。幻聴すら聞こえて震えが止まらねぇ」
いつも言われていることが脳内リプレイされているのだろう。
余計なことを口にして浩介の浩介が何度無くなりかけたことか。紀伊さんは地獄耳のスキルを保有しているのではと錯覚するほどに悪口に敏感だからな。
「もがないで。オレの息子をもがないで!!」
「叫ばないの! 恥ずかしいでしょ」
「声をかけるよりも距離を置くべきよ。二百メートル離れていれば他人で押し通せるわ」
「そうね」
女性陣は揃って距離を置いた。
ツッコミ役を連れていくのは止めて欲しい。俺一人では浩介を制御するなんて出来ないんだから。
「大丈夫だよな! オレの息子は元気だよな!」
「ズボンに血は着いてないから元気だろうよ。そもそも、こんな往来で息子を連発してたら、ガチの息子だと思われるぞ。学生結婚してるんじゃないかって噂を立てたいのか?」
「オレは真剣なんだよ!! 結婚しても子供が出来ない体になったらどうしよう」
「有村に謝ればいいんじゃないのか?」
「そうだな! とりあえず謝るぜ!」
暴走特急状態の浩介は頭では考えずに反射で行動しているようだった。
宣言通りに謝って平手打ちを受けている。
あれは痛そうだ。
「あれ。オレ……あれ?」
「ああ。ようやく止まったのか。大丈夫か
?」
「兎ちゃん。オレ、顔、痛い。泣きそう」
「頬が腫れてるな。漫画みたいな紅葉がついてるぞ」
地面に転がる浩介を無視してさっさと歩いていく女性陣。
家を知っているから迷いはない。
でも、この状態の浩介を放置するのは止めてほしかった。凄く面倒くさいじゃないか。
「兎ちゃん。兎ちゃん」
「兎ちゃん言うな。ほら、早く帰るぞ」
「ううっうううう」
肩を貸せば、そこで泣き初めてしまった。
そんな浩介を引きずりながら目的地へと向かう。
変な噂が立ったら困るけど、凄い視線を集めてるんだよな。
はぁ諦めるしかないか。
紀伊さんに会う前に帰りたくなってしまった。帰るわけにはいかないし、浩介を転がしておくわけにもいかないので先を急ごう。
あれ、目の前が潤んでる。なんでだろう……
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