双葉 3
食事を終えて一緒のテントに入り、眠りにつく。
アリスだけがテントを抜け出して行動することもなく。静かな夜が更けていった。
アリスは、特におかしな行動をしなかった。不自然なくらいにおかしな行動をしなさったのだ。
会話が通じる。しかし、行動はあまり変わらない。
NPCではないのだろうが、自分の意思で行動しているようにも見えなかった。
ここがアリスの世界であるならば、それはおかしいことだ。
「ねぇアリス」
「なぁに。お姉ちゃん?」
「昨日。私が木の枝を集めている間何していたのかしら?」
「この辺りにずっと居たよ?」
片付けの手を止めず、抑揚をつけながらも淡々と答えている。
意識はあるようだが、双葉のように自由ではなさそうだ。
「さて、そろそろ帰るよ」
片付けを終え、荷物を車に詰め込むと帰宅することが告げられた。
順番は変わらない。
何かあったときのためにアリスの隣に座ろうと画策して幾度か言葉を交わしていたが、二人とも会話にはならず、最終的には先に座られて渋々と白兎の隣に腰を下ろしていた。
車が出発すると、寝ないように力を入れながら外の景色を眺めている。
代わり行く木々の景色。緩やかな振動が心地よかったのか。発車して数分もしないうちに寝息を立てていた。
恐らく、昨日アリスを捜索することで体力を多く消費してしまったことが原因だろう。夜もアリスの動向を探るためにほとんど眠れなかったに違いない。
その疲れが噴出し、体は休息を求めてしまった。
双葉に釣られるように白兎。アリスと寝息を立てていく。
こうなればもうどうしようもなかった。所定の位置に着くまで寝続けることになるだろう。
(となると、後はそのままかな?)
寝ているのに景色が変わらない不思議はあるが、ここら辺は帽子屋が補填しているのだろうと推測する。
いつ体に宿ったのかは不明だが、この時点で帽子屋の力があることは間違いない。使わないのではなく忘れているのだと考えているけれど、双葉には双葉で考えがあるのだろうから、そのことはこれから先を見て考えることにしよう。
その後は、まるっきり同じだった。
ワンダーランドに巻き込まれ、アリスが行方不明になったから捜索し、ジャバウォックが現れてみんなを食らう。
双葉が掴まり、口の中に放り込まれたら世界は暗転して終了となった。
「これで、一つ目は終わりか」
『おっかえりなさーい。いや~どうでしたどうでした? 双葉の勇姿。楽しい時間を過ごせましたか?』
「楽しくは無いが、色々考えることは出来たよ」
『そうですか~そうですか~でしたら、一旦帽子屋さんの記憶を覗きます? 覗いちゃいます? 何も新情報無くてオススメですよ~』
「残り二回しかないのに、無いもの薦めるな!!」
帽子屋は相変わらずの物言いだ。
まるで、俺に記憶を見せたがらないようにも見える。
『薦めますよ~だって、双葉が可哀想じゃないですか~』
「まさに今、俺の記憶もその双葉に覗かれているわけだが、その事に関してはどう思う?」
『ドキドキワクワクが止まりませんよ!! いやー向こうは向こうで楽しんでそうですね~羨ましい。うきゃきゃ』
笑い声まで馬鹿にしているように感じる。
自分勝手な帽子屋は放っておいて次の映像を選択する。
仮定を補強できるような情報を手に入れてくれていると嬉しいのだが……まあ、無ければ無いで考えよう。
双葉の頑張りをしっかりと見届けなくては。
「行ってくる」
『ぶーぶー。帽子屋さんの大活躍を見ないなんて失礼千万ですよ~いいですよ。いいですよ~っだ。こっちはこっちで勝手にしますよ!』
拗ねたようなことを言いながら闇に消えていく。
一体何がしたいのか分からない。そんなに自分の記憶を見せたいのだろうか?
「考えても仕方ないか」
首を横に振り、映像へと入っていく。帽子屋のことは後でいいだろう。優先して知るべきはこっちのはずだから。
(場所は同じ、か)
目の前で、パチリと目を開いた双葉。頭を押さえながら木にもたれ掛かる。
「また、食べられたのね」
重いため息を溢し、手を見つめる。
「今の時間にアリスを見つけてどうにかしないといけないってことかしら?」
前回の情報を思い返しているのか、指を曲げて何かを数えるようにしている。
幾度か繰り返すと、木から離れて走り出した。
「どうしようにも、まずはアリスよ。お父さんたちの側に居たのであれば……その周辺を探すべきね」
途中で白兎とすれ違うがガン無視する。決められた行動しかしないのであれば最初から話しかける必要がないと判断したのだろう。
「アリスを見てないかしら?」
おじさんたちに突撃し、唐突に問いかけるが、二人は顔を見合わせた後に首を横に傾げる。
「さっきまで、そこに居た気がするけど、今は居ないな」
「ええ。そうね」
「はぁ」
使えない。そう言いたげに息を吐いてから周辺を捜索する。
おじさんたちは何かを言っているようだったが、木の枝と言う単語が聞こえるので枝集めの進捗を聞こうとしているようだ。現状関係が無いために、双葉は無視して水場に向かう。
そこら辺に居る人に前回と同じようにアリスを見なかったか問いかけて回るが、めぼしい成果はない。
五人ほど聞いたところで、水場から離れて次の場所へと向かう。
周辺を何ヵ所か巡り、成果を上げられないまま再びご飯の時間になりおじさんたちの所に戻る。
そこにはやはりアリスが居て、白兎と楽しそうに話していた。
間に合わなかった。そう感じ取ったのか、やけ食いを始める双葉。
いつもは少し抑えていたのか、焼かれる物をドンドン胃の中に納めていく。
食事を終えると、少し辺りを散策してからテントに入り就寝。
得られた情報は、この辺りにはアリスは居ない。あるいは、見つからないと言うことだけだった。
アリスが何をしているのか分からない状況に変化はない。
(これは、困ったな)
ふて腐れている様子の双葉を見て選択の機会が生まれた。
次に見る過去をどうするか、だ。
帽子屋のオススメは変化のない同じ記憶であるが、それを見たところで何も得られるものはないと当人が言っている。
ならば、双葉の次を見るべきなのだろうが……この時点で心が折れているように感じるので、何もしないで終わるかもしれない。
どうするべきか……
「はぁ寝れないわ」
テントから外に出る双葉。それを追いかけて外に出れば、満天の星空が出迎える。
テントから少し離れて寝っ転がると星空をジーっと見つめていた。
「また、アリスに負けるのね」
敗北が確定し、ループすることが決定した世界。一体何回ループ出来るのかなんて分からないのに、そんなことを考えてなんていない。
敗けは敗けだと、すでに諦めているようだ。
(双葉……)
それが、悔しかった。
こんな理不尽に放り込まれているにも関わらず、そんなことも知らずにぬくぬくと育った自分が許せなくなる。
もっと早く……なんて思いもするが、こんなことになるなんて考えたこともなかった。
ワンダーランド。白兎。帽子屋。それが無ければ、こうして知ることもなかっただろう。
だが、それがあったからこそこんな目にあっているとも言えた。
幸せな未来を見せたい。
望みが、強くなる。
「帽子屋さん」
右手を空に向けて小さく呟いた。
それに反応したようで、空に向かって仮面が浮かび上がる。
「やっぱり、居るのね。なら、なんとかなりそう」
仮面を消す。
月明かりに照らされた瞳には、絶望の色はない。
次の手を考えている顔だ。
(そうか。なら)
見届けよう。
双葉の全てを。そして、それを未来に繋げるのだ。
俺は俺の役目を遂行する。
外で眠る双葉。だが、それ以降は特段変化はなく。俺は映像の外へと追いやられた。
次で、最後だ。
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