双葉 1

『はいはーい。帽子屋さんの特殊映像記録鑑賞会。はっじまるよー!!』


耳元で響く大きな声に、思わず腕を振る。

しかし、何かに当たる気配はなく。空気を殴る感触だけがあった。

意識があり。目を開くことが可能であると理解すると、スッと視界が開けた。

正面には多数の映像が流れている。そのどれもが同じような景色が写っていることから、ループしてからの記憶映像なのだろうと当たりをつける。

端の方に番号がふられており、万を越えていることを確認して目を丸くした。

それだけの時間をここで過ごしていたと考えると心が痛い。


ずっと頭の中で助けを呼ぶ声が聞こえていた。それを無視して日常を謳歌していた自分が腹立たしい。

もっと早くここに来られたならば……そう思わずにはいられない。


「早く。助けないとな」


決意を新たに、帽子屋を探す。

声が聞こえたのだ。近くに居るはずのなのだが、どこにも見当たらない。

どこにいるのだろうか?


「帽子屋?」

『はいはーい。呼ばれて飛び出る帽子屋さんですよーいつ呼んでくれるのかドキドキしながら待ってました!!』

「ハイテンションなのはいいから、どうすればいいのか教えてくれ」

『そんなにがっつかない。がっつかな~い。野獣のように襲われたら、帽子屋さん壊れちゃう~』


双葉の姿で身をくねくねさせるのを見ていると心の底からムカッと来て拳が飛び出しそうになる。

落ち着かないといけないのに、ペースが乱される。まさか、こんな風にペースを乱すことが目的なのだとすれば、簡単に達成されること間違いなしだ。

煽りが物凄くウザい。


『欲望のままに、帽子屋さんを襲ってもいいんですよーここなら、現実とは違うから、いつでも初めてを味わえますよ~あれあれ~顔真っ赤にしてどうしました~照れました? 照れてますか~?』

「んなわけあるか!!」


照れるのではなく怒っているのだが、腹を抱えて笑う帽子屋はまるで止まる気配はなく。マシンガンのごとく煽りまくってくる。

なんなんだよこいつは、俺に何か恨みでもあるのかと思うほどだ。


『ハイハイ。分かってまーすよ。記憶の見方ですよね~ちゃんと説明しますよ~時間も無いですし~』

「手短に頼む」


怒りを抑えるために拳を握りしめているが、感覚が無くなり始めてきた。

ちょっと危険な気がするのでさっさと進めたい。


『まあ、ふつーに映像に触れたら見られまーす。ただ、三回しか見れないのでどれを見るかはしっかりと考えてくださいね~帽子屋さんたちの勇姿。その腐った目に焼き付けて目を焦がすといいですよ。キャッキャッ』

「はいはい」


話を切り上げ、見るべき映像を探す。

流れている映像は、どれも森の光景ばかりだ。情報がほとんどないので、とりあえず帽子屋かやっていたであろう部分を除外する。

すると、残ったのは三つだけであった。

どうやら、双葉は三回で攻略を諦めてしまったようである。


「双葉らしくない気がする。けど……見れば分かるかな?」

『帽子屋さんの勇姿は見なくて大丈夫ですか~? 十万台の映像なんて何も情報無くてオススメですよー』

「何も情報無いなら薦めるな!!」

『むーむー。帽子屋さんも頑張ったんですけどねー』


明らかに拗ねている。

だけど、相手してやる気分にもなれないので、さっさと映像を見ることにした。

触れればいいとのことなので、とりあえず触れてみる。

すると、意識が映像の中に取り込まれる感覚が生まれた。

視界が再びブラックアウトする。

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