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「基本的なことは以上よ。もっと詳しく聞きたいなら、帽子屋さんにお願いね」


仮面を器用にくるくると回しながら小悪魔のような笑みを浮かべる。

悪いことを企んでいそうな笑みに帽子屋に問うのは後回しにするべきだと考える。


「次はあなたの話が聞きたいわ。私の居なかった未来。一体どうなっていたのか、凄く気になるもの」

「教えたいのは山々だけど、俺は説明下手だぞ?」

「まだ直ってなかったの? 私の白兎なら、もう少し勉強してもらわないと困るわよ。将来は二人三脚で頑張る予定なんだから」

「この時点で予定が入っていることにビックリだよ」


俺の記憶が正しいならば、まだ付き合っては居なかったはずだ。アリスと水面下で激突していたような気もする。

まあ……そもそも彼氏彼女の関係に微塵も興味が無かった時代だ。仲良く出来ていたら楽しいで済んでいたのだから今更考えても意味はない。


深く掘るのは止めよう。底が見えそうにない。


「まあ、将来の予定はどこかに放置するとしてーー」

「聞きたいのであれば話すわよ? 高校受験から大学。就職、子供の数。老後の過ごし方までこと細かく説明可能よ?」

「今は別にいいかな!!」


まさかの小学生で老後の過ごし方まで予定を組んでいるとは思わなかった。途中で事故や病気になったらどうするつもりなのだろうか?

いや、双葉のことだ。その辺りを仮定した二次案三次案を用意しててもおかしくない。話始めたら二時間くらいは余裕で話続けることだろう。

時間が無いのだ。聞いている場合ではない。


「仕方がないわね。今度ゆっくりと聞いてもらうわ」

「聞きたくないけどな……」

「あら、面白いことを言うのね。予定を繰り上げるのも私はありなのよ? 学生結婚も理想には入るもの」

「勘弁してくれ!!」


さすがにその覚悟は出来ていない。

そうなった場合の生活を考えただけでも顔が真っ青になる。

せめて、まともな貯蓄が出てからでないと……いや、こんなこと考えているだけで末期だな。完全に毒されている。


「さて、そろそろ本題に戻りましょうか?」

「ああ。説明の話だったな。話が逸れまくって半分忘れてたわ」


未来の説明をしないといけないことは分かるけど、俺の説明で全部伝えきれるのか不安だ。となると、何らかの手段を講じる必要がある。

どうすれば……


「んっ?」


双葉が暇そうに遊んでいる帽子屋の仮面と目があったような気がした。

偶然のような気もするが、もしかしたら何らかの助言をしたいのではと感じられる。


いや確か、帽子屋の能力って……


「なあ、帽子屋の力を使えないか?」

「帽子屋さんの力って確か、記憶の共有……ああ、そうね。使えれば、説明は不要ね」


前に聞いた力を思い出したのだ。

あの時は使えない力だと言っていたが、こんな場面であれば有用である。

互いの記憶を共有しあえば、細かい部分も詰めることが可能だ。

なんで思い付かなかったのか不思議なくらいである。


「ずっと使うことなかったから忘れてたわ」

「自分の力を忘れるなよ」

「なら、あなたは仮面の力を全て理解しているのかしら?」

「………………俺が悪かった」

「分かればいいのよ」


仮面の力をまるで理解していない俺が言うべきセリフではなかった。

ちゃんと理解しているのならば今も使えるはずなのだ。使えないのにブーブー文句を言うのは間違っている。


「さて、じゃあ使いましょうか。覚悟はいいかしら?」

「いつでも」


どんな風に力を使うのか気になる。

何個か発動を見たことがあるけれど、こんなにゆっくりと見るのは初めてかもしれない。

猫先輩はいつの間にかだったし、アイの力はよく分からなかった。アリスは論外で白兎のは気がついたら発動していたからゆっくりとは見ていない。

なので、少し期待していた。

こんな時だと言うのにワクワクと目を輝かせてしまう。


「そんなにジッと見られると恥ずかしいわよ」

「ああ、悪い」

「もう。仕方がないわね」


気づかずに詰めていた距離を二歩分下がり、視線を少しずらした。

一連の行動を確認してから、右手に放置したままの仮面を被る。


『はっいはーい。呼ばれて飛び出て帽子要りますか? 帽子屋でーす』

「はい?」


物凄いハイテンションでポーズを取る姿に目が点になった。

仮面を被り、能力を発動させるにはその仮面に宿る人格が必要になるのは分かってはいるが、こんなテンションで現れるなんて全く想定してなかったせいで脳が処理しきれなかった。


『あれあれ~帽子屋さんの言動に圧倒されてる感じですか~? それとも、魅力にメロメロですかね~ぷぷっ』

「なっなんだ……こいつ」


自分の言葉に自分で笑うなんて器用なことをしやがる。

それに、俺のことを煽ってきているように感じる。特に笑い声なんて馬鹿にしていること間違いなしだ。


『なんだこいつって失礼しちゃいますよ~帽子屋さんだって言ってるじゃないですか!! なんです。なんです~もしかして、耳が不自由とかですか~その若さでもう老化きてます?』


帽子で顔を隠しながら器用に笑い続ける。

正直、いい気はしないし腹も立つ。それでも怒鳴らずにいられたのは、ちらりと確認するような視線に気がついたからだ。


帽子屋が俺のことを試している。そう感じられたからこそ、怒るのでも唖然とするのでもなく。冷静な対応が重要だと感じた。


『は~ここまで言われて怒らないってビックリ、ビックリ。ぷぷっ。もしかして、感情死んでますか~? もしもーし。起きてますかー?』

「煽るのはいいから、本題に入ろうか」

『本題ですかぁ? それって、帽子屋さんの素敵能力を使う機会のことですよね~ワクワクしますね!!』

「使えるか使えないか。それだけははっきりとさせてくれ」

『使えますよ~もちろん使えます。ただ、にっくき女王に大半持っていかれたので、全部は無理でーす。一部共有くらいですよーそれでいいです?』


そう言えば、帽子屋の能力も奪われてたな。過去でも、それが変わらないのは驚きだが、ループしていることを考えれば妥当なのかもしれない。

仕組みがよく分からない。双葉の話を聞いても不十分なことが多かった。しかし、記憶を覗けば分からない部分が減る可能性が高いので、制限された能力でも使用するべきだと考える。

こくりと頷けば、顔を上げて帽子を取る。


仮面と同化しているはずの帽子が取れるんだなと場違い感想を抱いていると、目の前で帽子が二つに分かれた。

同じ大きさの二つの帽子。その片一方を俺に被せ、もう一方を自分が被る。

特に何も起こらないまま数秒が過ぎ、帽子が回収されて、今度は帽子屋が被っていた方を被せられる。


行動の意味は不明だが、これが能力発動に必要な儀式であることは理解した。

大人しく見ていると、


『はい。じゃあ、はじっめますよー!!』


大きく手を叩いた。

瞬間。意識がブラックアウトした……

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