27

遠く。遠く。流されるような感覚だけがあった。

ゆらゆらと波に揺られて浮かんでいる。それは、まるで海の上にいるような感覚。

波に運ばれ、どこまでもどこまでも沖へ沖へと追いやられている。


危険だと思うことはなかった。

ただ身を任せ、終着点に着くことだけを待っていた。

絶対に全てを変えてみせる。その意気込みを胸に、目を……開いた。


「えっ?」


そこは、見覚えのある森であった。

辺りを見回せば、間違いがないことを確信する。


「子供の頃に行ったキャンプ場か……」


つまり、事故が起きる前に帰ってきたことになる。自らの体を見下ろせば、全体的に縮んでいて小学生の体に戻っていることは確かだった。


「白兎……は、無理か」


右手に意識を集中させて白兎の仮面が出せないかを確認してみるが、出てくる様子はない。ここに来るまでに力を使い果たしたか、そもそも召喚不能なのか判断は出来ないけれど、仮面の力が使えないことだけは確定した。


「まずは、状況確認からだな」


焦らずに動こう。今がいつなのかを知り、どれだけの時間が残されているのかを確認してからでないと危険だ。下手なのことをして手遅れになることだけは避けなくてはならない。

そのためには、双葉たちを見つけることが先決だ。ここの情報を知りたいならば俺が戻ってくるよりも前からここに居るはずの人たちに聞くのが一番。

本当なら、記憶の結合でここいらの知識や時間などが頭にあればよかったのだろうが、そこまで都合よくはいかなかった。


無理なる無理でいい。こちらの都合に世界が合わせるわけがない。だからこそ、早めの行動を心がけよう。


「確か……ここは……」


過去の記憶を頼りに現在地を割り出す。

森の中。キャンプ場であることは間違いない。

なら、俺はここで何をしていたのか?

自らに問いかけ、回答を導きだす。


「薪、集めか?」


周囲に散乱している薪になりそうな木の枝。双葉たちの父親に頼まれて薪を探しに森に入ったような気がする。それは初日だったはず。なら、仮定として来たばかりであるとしておこう。

とりあえず木の枝を拾い、どこに向かうべきかを考える。


選択を誤って迷う可能性があるのでここの選択は注意が必要だな。さて、どうするか……


「何やってるのよ白兎。父さんが待ってるわよ」


声が後ろから聞こえた。

振り替えると、動きやすそうな服を身に纏った少女が仁王立ちしている。

分かりやすく頬を膨らませてご立腹のようだ。

しかし、俺は怒る彼女を眺めながら懐かしさに襲われていた。


「双葉……なのか?」

「当たり前でしょ? こんな美少女、この世に二人しか居ないわよ。私とアリス。どっちかと間違えたら頬を叩いてあげるわよ?」


自信満々な様子で反り返した胸に手を置いてドヤ顔を決める。

ああそうだった。そうだったではないか。双葉はこんな女の子だった。

常に自信を持っていて、偉そうにしながらもアリスを大切にしていた。

そんな子だからこそ、俺は心惹かれていたのだろう。


懐かしくて、涙が出てきそうだ。


「あら、私の顔が見られて泣くほど嬉しいのかしら?」


にまにまとした笑みを浮かべながらにじり寄ってきた。

言われ、確かに浮かんでいた目元の涙を拭い、気持ちを落ち着ける。

懐かしい気持ちを心の奥底へと押しやり、拾った木の枝を地面に下ろす。


「さて、未来からようやく迎えに来たみたいだし、早くアリスを見つけるわよ」

「はっへっ!?」

「何を驚いた顔しているのかしら? 私の白兎なら、これくらいで動揺するのは止めなさい」

「いや、驚くに決まってんだろ!?」


ここは過去のはずだ。

つまり、未来からここに来たなんて情報があるわけがない。仮に何らかの方法でそれが可能であることを知ったとしても、見た目に変化のない俺が未来から迎えに来たなんて断言出来るはずがないのだ。

ここが、まともな過去であるならば……


「そんなに驚くことではないわ。だって、この世界ループしているもの」

「はい!?」

「私は、何千、何万と同じ時間を繰り返したらしいの。まあ、記憶しているのは初めの数回だけで、後は帽子屋さんにお願いしていたのだけどね」


右手を差し出すと、そこには帽子を被った女の子の仮面が浮かび上がる。

白兎やチャシャ猫と同じものであることは確かだろう。しかし、だ。


「なんで、使えるんだ?」

「知らないわよ。使えるから使えるの。あなたはどうなのよ。白兎の仮面はどうしたの?」

「それが、出なくて……」

「使えないわね。全くもう」


重いため息と同時に肩を竦める。

どうやら、ここにおいては使えるのが普通であるようだ。

つらつらと恨み言のよう色々と話をされたが、割愛することにしよう。ほとんど独り言のような文句の応酬だから、聞き流した。

その話を軽くまとめると、どうやら俺は同じ行動を繰り返すだけのAIみたいな状態だったようで、会話は成立しなかったらしい。

結果として、違う行動をしていた今の俺が別人であると推測したようだ。


問題は、未来から迎えに来たという発言だが、これは帽子屋経由で別次元では普通に歴史を進めていることを知っていたそうだ。迎えが来るとしたら、未来にある次元のどこかからだろうと言われていたらしい。


事情を聞けばなるほど納得となるようなことも多く。この世界の情報を擦り合わせる作業は滞りなく過ぎた。


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