15

「いい加減昼休みどこ行ったのか教えろよ?」

「どこでもいいだろ?」


放課後になり、浩介と商店街に向けて歩いていた。

猫先輩のところに行っていたことを浩介には内緒にしていたために、ずっと同じ質問が続いていた。

別にバレても問題はないのだが……蜘蛛の子を散らすように逃げていった女子生徒が気になって口に出したくなかった。妙に嬉しそうにしていたような気がしてしまい、かかわり合いたくない気持ちが強い。

少し思い出すだけで背筋に冷たいものが走る。


「ちぇーいいじゃねぇかよ」

「なんでそんなに気にするんだ?」

「だってさぁ。もしかしたら、特別な覗きスポットを見つけたかもしれないだろ!!」


興奮しているのか、声がどんどんと大きくなっていく。

耳を塞ぎながら、そんな理由かよと息を吐いた。


「兎ちゃんだって、桃源郷を見たいだろ!?」

「いや、別に……」

「なっなんだって!!」


なんでそんなに驚かれるのか分からない。

確かに、女の子の体に興味が無いわけじゃない。見れるものなら見たいと思うし、触れるなら……なんてことも考える。

でも、でもである。


双葉のことを考えると、あんまり表に出せないんだよな……


妹である双葉が部屋を勝手に掃除することもあるので成人向けの本を隠すのもリスクしかなく。オープンにしていたら色々と歯止めが効かず、大変なことになる気がするので出来ないのだ。

結果……性欲は隠すようになったのである。それを浩介にすら言えない。言ってバラされたら元も子もないのだ。


「彼女欲しい!! とか思ったことないのか!?」

「それはあるわ!!」

「彼女にあんな服やこんな服着て欲しい!! なんて、欲望はないのか!?」

「いや、それはないかな……」

「なんだって!!」


いちいちオーバーなリアクション。

そこまでオーバーにする必要があるのかと問いたいくらいだ。

彼女は出来るものなら欲しい。当然の欲望だろう。でも、その彼女を着せ替え人形する趣味までは持ってない。

まあ、浩介が言いたいのはコスプレ関係なんだろうけど。


「アニメの制服。巫女服。バニーガール。ナース。体操服。警察。CA。メイド服。スクール水着。これらの素晴らしさが分からないと言うのか!?」

「………………まあ、分からないでも、ないけど……」


服を想像すると、なぜか双葉が着ている姿が思い浮かんでしまう。

少し頬を赤くしながら「どうですか?」なんて言ってクルリと一回転させてしまうと胸が高鳴って仕方がない。

他の子。

例えば、有村さんが着てる姿は全く想像出来ないから不思議だ。一緒に居る時間の長さが影響しているのかも。


「誰で想像したんだよ。双葉ちゃんだろ? 双葉ちゃんの素晴らしい胸だよな!?」

「なんでそこを強調するんだよ」

「仕方がないだろ。あの胸は凶器だぜ。免疫のない男子だと、鼻血と元気になる息子のダブルコンボで動けなくなる。間違いないね」

「まさか、浩介も……」

「俺は平気だよ。双葉ちゃんの想い人を知ってるし、昔から遊ぶ仲だから免疫も充分だしな」


へへっと笑いながら胸を張る姿に、ズキンと心臓が痛んだ。


双葉の想い人。それは……俺だった。その告白を断ったのが今、双葉と離れている原因で間違いないはずだ。


どうしてあの告白を断ったのか。今にして思えば「なんで?」と考えてしまう。

双葉が嫌いな訳ではない。妹だから。と言うわけでもない。


ただ、浮かんだのだ。双葉そっくりの泣き顔が……


「暗い顔するなよ。まぁ、要らないことを思い出させた。俺のせいかもだけどな」

「いや、そうじゃないさ」

「なら、いいけどよぉ。とりあえず、楽しいこと考えようぜ」

「そう、だな……」


無理をして笑っているように見え、心苦しい。

心配をかけていると分かる。


話を反らしたほうがいいな。でも、どんな話なら……んっ?


視線の先。浩介から死角になるところで、見知った顔が唇に人差し指を出している姿が見えた。


「うん」

「どうしたんだよ?」


浩介は気づいていない。

なら、そっちに話をずらすとしよう。


「なら、浩介の恋バナでも聞きたいな」

「うぇ。マジかよ。俺がモテないことを計算に入れた上での提案か?」

「そうか? 一部にはモテモテに見えるが?」

「マジで!? ヒャホー。誰だ。誰なんだよ!!」


テンションが一気に上がったようで跳び跳ねて喜んでいる。

うんうんと頷き、気にしているだろう名前を口にした。


「例えば……」

「例えば!?」

「猫先輩とか?」

「猫、先輩……って男じゃねえか!!」


一瞬の間が開いたと思ったら、即座に叫びが届く。

だが、あながち間違いでもないと思える。服装検査の行動を見ていると、多小なりとも気にしているような感じだった。


とは言え、俺も二人きりで話すと誘惑されてるような仕草をされるので少し距離を置くべきか迷ってはいる。

男好き。なんて噂を聞いたことはないが、距離感が近いことだけは確かだ。


「いやいやいやいや。流石に男に好かれても嬉しくねぇよ!?」

「なら、誰ならいいんだ?」

「それは……うーん。有村。とか?」

「そうなのか?」

「いや、一番近くに居るしさぁ。景品取るとすっげぇ喜んでくれるし、普通に、可愛いし……まあ、勉強とか、身だしなみとか、面倒が多いこと……いや、もういいだろ。この話!!」

「そうだな。本心か?」


しどろもどろになる浩介に、ニヤニヤしながら問いかけると、傍目でも分かるほどに顔を真っ赤にさせながら、


「当たり前だろ!!」


叫んだ。


「だっそうだよ。有村さん」

「へっ!?」


指差せば、ギッギッと壊れたロボットのように首を動かす浩介。その先に居るのは、浩介と同じくらい頬を朱に染めながら、手で顔を隠そうとしている有村さんだ。

意外と、破壊力あったようだ。瞳まで潤ませてプルプル震えている。


「なっなっなっ……うわわわわわわわわわ!!」


走り去ろうとする浩介の肩に手を回して動きを止める。

とても楽しい時間になりそうだ。

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