14

「んで、今日も双葉ちゃんは先に出た。と?」

「ああ。話す暇すらなかった……」


ラーメン食べて帰宅し、 双葉の帰りを待っていたのだが、帰ってくることはなかった。

連絡も無く。こちらから連絡しようとすれば電源が切れていますのコールのみで反応もない。

打つ手が無くて浩介に取ってもらったぬいぐるみを抱えながらのソファーで寝落ちするまで待っていた。

迎えに行こうにも拒絶されているかもしれないと思ってしまい動けなかったのだ。

いつもと違う双葉の態度に不安は募る。


「まっ学校では会えるだろ? そこで話してみろよ」

「そうなんだが……はぁ」

「双葉ちゃんにだってそんな時があるってことだろ? 本当の兄妹じゃないんだ。四六時中ベタベタしてる方が変だって」

「それはそうだし、俺たちはそんなことしてない」


少なくとも、俺にそのつもりはない。


「はいはい。ごちそうさまですってか」

「うるさい」


バスを降り、学校への短い道を行く。

今日は風紀委員は立っておらず、そのまま校門をくぐることが出来た。

ちらりと浩介に視線を送れば、そそくさとネクタイを外している姿が見えた。


そんなにネクタイが嫌いか?


「首元が苦しいんだよ」

「何も言ってないだろ?」

「目が饒舌に喋ってるんだよ」


ジト目を向けられ、あははと頬をかいた。

校則で決まっているのだからちゃんとすればいいのに、なんてことを思わなくもないが、決まっているからこそ破りたいと考えたりしているのだろう。

考えの違いまで踏み込む気はない。怒られるか怒られないかの違いでしかないのだから。

話をしながら昇降口で靴を確認するが、来ている様子はなかった。それでも、まだまだ希望は捨てずに教室へ入り、双葉と有村さんの机を確認する。


「カバン無し。だな」

「今日は遅いのかも……」

「休みの可能性だってあるぞ?」

「そう、だな」


目敏く反応する浩介に頷きながら、避けられている予感に胸が痛む。

避けるために学校にすら来ないなんて可能性があるとは思いたくはないが、もうすぐ始業のチャイムが鳴る時間。

有村さんや双葉がギリギリで入ってくる姿を今まで見たことがない。この時間に席に着いていないのならば、十中八九休みである。


「はぁ」

「ため息は止めとけよ。気持ちは分からないでもないけどさぁ」

「俺、何かしたのかな?」

「さぁな。だけど、何もなくてサボる二人じゃないからな。何かあったって考えるのが妥当じゃないのか?」

「だよな……」


何度も送っているメールに返信はない。

電話をしても電源が入っていないと言われるだけ。

連絡を取る手段がない以上。こちらからのアプローチは無理。向こうからの連絡待ちになってしまう。


気にならない。なんて言えはしない。俺のせいであるなら謝りたいし、そうでなくとも力になりたい。

今の俺は、兄と呼ばれているのだから……


「チャイム……やっぱり休みみたいだな」

「だな」


うだうだと考えていても仕方がない。俺は俺でやれることをやるだけだ。


ワンダーランド。


俺が原因でないなら、きっとあの世界が理由になるはずだ。

なら、それを取り除く方法を考えるのが早い。

昼休みにでも、猫先輩に会いに行こう。

話したいことは、たくさんあるのだから……



昼休みになった。

購買で手早くパンを購入すると猫先輩の元へと向かう。


「失礼します」

「ふむ。昨日に続いて今日も来るとは……ようこそ、光義兄よ」


今日も今日とて書類整理を一人でしている猫先輩。他の風紀委員はやらなくていいのか不思議に思うところである。


「食事はパンか?」

「あっはい。猫先輩もどうですか?」

「差し入れ込みとはありがたい。頂こう」


買えたのは、メロンパンとチョココロネとクロワッサンが二個ずつ。

飢えた獣が群れなす購買での買い物合戦でなんとかつかみ取れたものである。

本当なら、ド定番焼そばパンやカツサンドなどの大物を狙いたかったのだけど……まあ、買いにくる人に対して入荷が少な過ぎて瞬殺である。

余りやすいのを掴めたにすぎない。


「ずいぶんと甘党のようだな?」

「これしか買えなかっただけです」

「仕方がないか。あの戦場を知る者としては、よくやったと称賛するとしよう」

「ありがとうございます」


チョココロネを二個手に取りスキップするように席に座る。

猫先輩。割と甘党なんだなと思わされた。意外ではあるが、喜んでくれたなら幸いだ。


残っている四つを口に入れて、自販機で買っておいたジュースで流し込む。

猫先輩は、自分で用意していたお茶を飲んでホッと息を吐いていた。

まったりとしていてリラックス出来ているようだ。


「それで、話があるのではないか?」

「はい。昨日の手紙。覚えてますか?」

「当然だ。まさか、進展があったと言うのか?」


こくりと、首を縦に振る。

進展がある。そう断言出来るほどではないが、気になるところがあるのも事実だ。


特に、あの少女……


情報があれば、知っておきたい。


「あの手紙と関連があるのかは不明ですけど、謎の少女と出会いました」

「捕まえたのか?」

「捕まえた……と言うより、一緒に行動しました。あの世界を楽しい楽しいと笑う子でした」


狂気を覚えるような純粋な笑顔は、自分が死ぬことを考えてはいないようだった。ドードー鳥に襲われそうになった時ですら楽しそうに鬼ごっこと言い切るほど。

あの時は必死であったが、今にして思えば不自然としか言いようがない。


「なるほど。それで、名前は?」

「知りません」

「知ら、ない?」

「はい。名前を聞いても、わたし。としか答えませんでした」

「なるほど。そう言うことか……」


顎に手を置いて思考を開始している。その間に、昨日の出来事を口に出して言ってみる。

猫先輩は考えながら聞いてくれているようで時折頷いてくれた。

全てを話終えると、顎から手を放して視線を向けてくる。


「いくつか、疑問がある。少女は置いておくとして、ドードー鳥が謎だ。連携を取る。空から降ってくる。巨大ドードー鳥。聞いたことのない話だ。現実にあったとは、到底思えない」

「でも、確かに……」

「分かっている」


一歩距離を詰めると、俺の肩に手を乗せる。

ニコっと笑みを浮かべ 、


「光義兄が虚言を労して撹乱を狙う人物ではないことは重々承知している。今までにない出来事に戸惑いはあるが、現実であると思っていた方がいいだろう。特に少女の件は最重要だ。もしかしたら……その巨大ドードー鳥に差し出すことであの世界を解放出来るかもしれない」


あの、ドードー鳥に差し出す?

そう考えて、首を横に振る。

あいつは、ドードー鳥を産み出すための存在であり、あの世界の根幹に関係しているとは思えなかった。


「それは……」

「ふむ。光義兄は不服そうだな」


ジリジリと詰め寄ってくるので自然と体が後ろに下がっていく。


えっと、何がしたいんだ?


「だが!」

ダンッ!!


「えっ!?」


壁際まで詰められ、思いっきり壁を叩きながら限界まで顔を近づけてくる。

イケメンが目の前まで迫ってくるのを白黒させながら見守ってしまう。


「何が起こるのか分からない世界だ。試せることは試した方がいいとは、思わないか?」


ジッと見つめられ、頷きそうになる首を必死に止める。

そして、猫先輩の肩を掴むと一気に押した。


「確かに、何が起こるのか分かりません。ですが、あの子を生け贄にするのは違うと思います」


狂気的な世界を無邪気に楽しむ少女。彼女は一人だった。

そんな彼女を放っておくことは、俺には出来ない。「助けて」なんて言われた訳でなくとも助力を欲しているように見えた。

あの世界でしか楽しめないなら、もっと他の世界を知ってもらうべきだ。楽しいことはもっとあることを理解するべきだ。

だから……


「俺は、誰かを生け贄にするよりも、誰かを救いたいです。助けたいです。その先に、未来があると信じてます」

「理想論だな。そんなものでは、何も救えない。違うかな?」

「それでも、俺は……」

「ふっ」


鼻で笑い、背中を向けた。


「いいだろう。その子のことは、君に任せる。なんとかしてくれたまえ」

「あっありがとうございます」

「君の気概を優先するだけだ。こちらはこちらで動くとしよう」

「はい」

「では、最後に決めることがある。それを決めて解散としよう」


振り向き、ウインクしながら人差し指を立てた。

決めること? と首を傾げる。


「その子の名前だよ。呼び名が無いと不便だ。そうだろう?」

「あっああ。でも、何て呼べば……」

「候補がないのなら、僕からは「アイ」なんて名前を立候補させようと思う」

「アイ……」

「カタカナでアイ。まあ、英語でわたし。と訳す「I」から取ったのだが、どうだろうか?」

「ああ。いいと思います。分かりやすいですし」


なるほど。英語か……一番の基本から持ってきたのにまるで気づかなかった。


「では、アイ。と言うことにしておこう」

「はい」

「では、解散だな」


頷けば、嬉しそうに手を振る。

まだ仕事も残っているのだろう。これ以上の邪魔は出来ないので、一礼だけして外へ出る。

何人かの女性がこそこそと逃げ出す姿を目撃したので中に居る先輩に目で「なんですか?」と問うてみると、首を横に振り肩をすくめられた。

関わらない方がいいか。なんて考えながら扉を閉める。


アイ。双葉。考えることは多くなりそうだ。


ため息を溢して教室に戻る。

浩介と話して気分転換でもしようじゃないか。

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