13

「ーーーーい」

「んっ……」

「おいって、兎ちゃん!」


声が聞こえる。

これは……


「浩介……?」

「そうだぜ兎ちゃん。なんだよ。いきなりボーッとしてよぉ?」

「その名前で呼ぶな」


目の前に迫る浩介の頭をどかしながら、首を振る。

音が聞こえた。ゲームセンターの賑やかな音だ。人の話し声。客引きの大声。自転車の音。

多数の音と声を聞きながら、脳が状況を理解していく。


「気分悪いなら、送ってくぞ?」

「いや、大丈夫」


落ち着いてきた。

大丈夫。大丈夫……


「あっ」


ふと、双葉の顔が頭を過る。

探すつもりはあったけれど、少女と共にドードー鳥に追われていたせいでちゃんと探せていなかった。


「電話していいか?」

「んっ? おう。別にいいぜ」

「悪い」


電話帳から双葉の電話番号を呼び出し、鳴らしてみる。

プルル、プルルと呼び出し音が聞こえ、無事でいてくれと祈りを込めながら携帯を握る手に力が入る。


『兄さん。どうしました?』


耳元に響く不思議そうな声にホッと息を撫で下ろす。


「特に用事はないんだ。無事でよかった」

『はい。無事の確認だけですか?』

「ああ。そうだ」

『でしたら、もう切りますね。遅くなりそうですので、ご飯は適当にお願いします』


プツンと切られ、ツーツーと電話が鳴く。

機嫌でも悪かったのだろうか?

そっけない態度だった。遅くなると言うのも珍しい。


「双葉ちゃん?」

「ああ。そうなんだけど……遅くなるらしい」

「それなら、一緒にラーメンでも食いに行こうぜ。美味しいラーメン屋見つけたんだよ」

「あっああ。そうだな」


浩介が肩に手を回して歩き始める。

携帯を見つめていたが、掛け直しても意味がないような気がしてカバンの中に突っ込んだ。

双葉が無事であることの確認は出来たのだが、気になることが代わりに増えてしまった。

日常が少しずつ変わり始めようとしているのだろうか?


「本当に大丈夫かよ?」

「気になることがあるだけだよ」

「俺に話せる内容か?」


静かに首を横に振る。

知られたところで、浩介に何かが出来るわけではない。むしろ、信じてもらえない可能性もあるのだ。

変人。なんてレッテルを張るような奴ではないことは分かっている。でも、心配をかけることは確かなので積極的に話したくはないのだ。


「そうか。じゃあ、誰かに相談は出来るのか?」

「それは……大丈夫だ」

「ならいいよ。話せる奴に話せばいいだけだからな。居ないなら、無理矢理にでも聞こうと思ったけど」


ニヤニヤと笑いながら拳を振り上げる。


「不安そうな顔ばっかしてると、幸運が逃げるぞ。双葉ちゃんだって、そんな顔の兎ちゃんを見たくないだろうしな」

「………………そうだな」


双葉に心配をかけさせるわけにはいかない。色々と考えることはあるけれど、それはベテランである猫先輩と一緒に考えることにして、出来る限り明るく振る舞うことしよう。

浩介にも、心配させてばかりではいられないしな。


「ありがとう」

「気にするなって。俺は俺のやりたいことをやってるだけ。言いたいことを言ってるだけだよ。それをどう受けとるかは、兎ちゃん次第ってことさ」

「そうだな。でも、ありがとう」

「なら、その感謝をラーメンで表してもらおうかなっと」

「ああ。いいぜ。奢ってやる」

「会計で悲鳴を上げても知らねぇぞ?」

「覚悟しとく」


互いに肩を組んで夕暮れ染まる街を行く。


浩介には本当に感謝しかない。友人で居てくれてありがとう。そんな気持ちを胸に、笑いあうのだった。


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