裏 2
「せっかく楽しかったのにもう終わり。残念だわ。残念ね」
ぷらぷらと足を空に投げながら、建物の屋上でふて腐れている少女が一人。小学生としか思えない小さな手足を一杯一杯に使い、全身で残念さをアピールしている。
「そうは思わない? 女王様~ 」
「私は、思いませんよ」
ザッと地面を鳴らしながら隣に立ったのは肩よりも少し長い程度の少しウェーブした髪を揺らした少女……双葉だ。
女王の仮面を片手に持ち、少女を睨み付ける。
「どうしたの。女王様? 怖い顔してるわ。不思議よ?」
「兄さんに、何をしたんですか」
「兎ちゃん? 楽しかったわ。兎ちゃんも楽しそうだったもの。もっと時間があれば、凄いものも見れたはずなのに残念だわ。残念よ」
にへらと顔を崩して笑い、ぷらぷらと体を左右に揺らす。
無防備だ。
背中を押せばまっ逆さまに落ちて行ってしまうだろうと思うほどに、無防備な姿をしている。
それなのに、双葉は悔しそうに視線を背けることしか出来ない。
「女王様は素敵だわ。こんな素敵な世界を作ってくれたんですもの。感謝してもしたりないわ」
「私は……」
「でも、残念。残念よ。素敵な世界が、もうすぐ終わろとしてるなんて、本当に残念ね。アリスたちのお墓、壊れちゃうかもしれないわね。いいの?」
「よく、ない。でも……」
ズンズンとジャバウォックが地面を鳴らし、咆哮を上げる。
まるで泣いているかのような咆哮に、少女はパチパチと手を鳴らした。
「嬉しそうだわ。嬉しそうね。もうすぐ助かるって叫んでいるわ」
「駄目。そんなのは、絶対に……」
「だったら、分かるわよね? 分かるでしょ?」
少女の瞳が双葉を捕らえる。
空虚で何も感じない人形のような瞳が、ジッと双葉と女王の仮面を見つめる。
「いや、です……」
「どっちが、どっちなの?」
「どっちも……私は、諦めない」
「強欲ね。強欲だわ。強欲。強欲! あれも嫌、これも嫌なんて受け入れられるわけないわ。当たり前のことよ?」
きゃっきゃっとはしゃぎ、立ち上がると双葉の周りをくるくると回る。
「もう時間ないわ。時間ないの。世界を壊すか、人を壊すか。どっちかしか選べないのよ。選べないわ。だから、選んで、女王様が選べないなら。兎ちゃんでもいいのよ?
兎ちゃんに選んでもらうといいわ」
「そんなこと、出来ません!!」
「なら、ちゃんと考えるべきよ。考えるの。どっちに転がっても、女王様の意図にはそぐえないんだもの。後悔しない道を選ばないとね。選ぶべきだわ」
パンパンと手を叩けば、ジャバウォックが消え失せる。
背中を向けて、少女も立ち去った。
「じゃあ、またね。女王様。次は、答えを聞かせてね。聞きたいわ」
その声だけが、双葉の耳に残される。
「もう、どうしたらいいんですか? 教えてください。双葉……」
泣きそうな声が、崩壊する世界に落とされる。
回答は……なかった。
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