11

「っ!!」


気がついた時には世界は絶望に染まっていた。

空を覆う紫の雲が、赤い星と黒い太陽を隠している。

廃墟となった街並みに、人の気配は無い。

隣に居たはずの浩介も、その姿を消している。


「それだけは、よかった」


巻き込まれていない。そのことに安堵した。そして、前以上に気を引き締めないといけないと自らの心に誓う。


「死んで帰ったら、浩介が泣くだろうしな」


小さく笑う。

隣を歩く友人が唐突に、前触れもなく死んでしまう状況なんて、あっていいはずがない。

事故みたいなものだなんて諦められる気もしない。


だから……


「やるか。白兎」


手のひらを開き、白兎の仮面を呼び出す。

戦える訳ではない。それでも、身体能力を強化しないと生き残れない。こんな地獄のような場所で装備無し攻略なんてしていられない。

仮面をつけ、鋭くなった聴覚で周囲を確認する。


音はない。近くには居ない……ようだ。


今のうちに逃げておこう。隠れられる場所で時間を潰そう。


いつ帰れるのか分からないのだ。


「よし」


足に力を入れ、跳ぶ……


「えっ?」


グイッと、服が引っ張られる感覚で跳ぶのを中断する。

誰も居なかったはずの背後。

もしも、これが息を潜めていたドードー鳥であったなら、俺の命はここまでだ。


「誰だ」


大きくは出さず、小声で首だけを振り返る。


「えっ?」


その姿を確認し、全身から力が抜けた。


そこに居たのは……


「女、の子?」

「そうよ! わたしよ!」


ニコッと満面の笑みを浮かべながら、いたずら成功とばかりにぴょんぴょん飛び跳ねるのは小学校低学年くらいに見える女の子だ。

布をそのまま服にしたような薄汚れたワンピースを着た少女。


いつの間に。


そんな言葉が頭を過るが、首を横に振って頭から追い出す。


「君、一人なの?」


仮面を取り、腰を落として目線を合わせる。

大きな瞳。小さな顔立ち。ニカッと大きくは笑みを作ると白く綺麗な歯が並んでいる。


「そう。わたしは一人よ」

「名前は?」

「わたしはわたしよ?」


頬に指を置き、可愛らしく首を傾げている。


「あなたは兎ちゃんね!」

「いや、俺は……」

「カッコいい白兎しろうさぎ。会いたかったわ!」

「あの、な?」

「嬉しい嬉しい。ようやく会えたわ」


会話をしようと試みるが、少女は自分勝手に喋り、抱きついてくる。

羽のように軽く。抱き締めている感覚が薄い。

本当に、この少女はなんなのだろうか?

家族が居るのなら、そこに連れていくべきなのだろうが一人と言ってるし……困ったな。


カラッ。


近くで物音が聞こえた。

視線を送れば、嘴が建物の陰から見える。


「逃げるぞ。捕まってて」

「分かったわ」


白兎の仮面を被り、強化された脚力で一息にその場を離脱する。


「あの子。鳴いてるわ」

「鳴いてる!? 声なんて聞こえないぞ!!」


白兎の仮面による聴覚強化。仮面の耳に意識を集中させて必死に鳴き声を聞こうとするが、それらしき音はない。


「きっとお友達を呼んでいるのね!」

「最悪だよ!!」


鳴き声は届かなかったが、物音が耳に飛び込んでくる。

正面だ。

翼を大きく広げ、突進してくるドードー鳥が二体。翼を広げているために、他のやつよりも巨大に見えるその二体にこのままだと突っ込んでしまう。

急ブレーキをかけると、何屋なのか分からないほどに壊れた店へと飛び込んだ。

ドンッと後ろで大きな音が聞こえてくるような気がするが、考えている余裕はない。

音のする方を探せば、あちこちから近付いてくるように感じられた。

聞こえなかった鳴き声。それは本当に仲間を呼ぶ声であったようだ。


「スゴいわスゴいわ!」

「何が!!」


建物も走り抜け、狭い路地を駆け、壁を蹴りながら屋根へと昇る。

感覚だけでやってはいるが、これを現実でやろうとしたら怪我を覚悟しながらになるだろう。

昨日は双葉。今日は少女を抱えながらのアクロバット移動。

踏み間違えが死に繋がることを頭の片隅に置きながら必死の行動。

下手な絶叫系のアトラクションに乗るよりも怖い。いや、安全面が保障されているアトラクションのほうがはるかにマシだ。

なんせ、今の俺は安全面に保障なんてない。死んだらそこで終わりなのだ。


「楽しいわ。楽しい!! もっと、もっと!」

「はしゃぐな!!」


腕の中でバタバタとされると足を踏み外しかねない。抱き締めている感覚がほとんどないから、下手したら落としても気づかない場合もある。

気を付けないと。


「うわっ」

「キャーー」


上から降ってくるドードー鳥。嬉しそうに歓声を上げる少女に上を向いてもらう。

指示してくれたら嬉しいな。

しかし、飛べないはずなのにどこから?


視界を動かすと、高い建物からダイブし、パタパタと必死に羽を動かしながら移動するドードー鳥の姿が見えた。


「なんでだよ!!」

「あっちよ。あっちからも来るわよ」


指差す方には、確かに同じ方法で空を舞うドードー鳥の姿がある。

完全に狙いに来ていることが分かり、屋根から降りる。


ああ。もう。どうしろってんだ!!



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