9

「失礼します」


昼休み。

食事をさっさと終え、風紀委員が集まる部屋へと赴いた。

事前に猫先輩の教室も覗いたが、こっちに居るだろうと教えられたのだ。

猫先輩のことを聞くと、何故か女性の先輩たちが歓声を上げていた。何事か色々質問もされたのだが、逃げることに必死でその内容まではよく覚えていない。


耳に残ったのは「BL研の実力を……」と言ってたことだが、あまり深入りしたくはない。腐った沼に足を踏み入れるには……ちょっと勇気が足りない。


聞かなかったことにしたい。


「光義兄か。昨日の件かな?」

広い教室で一人、書類整理に励んでいる猫先輩。

他には誰も居ないようだ。都合がいいな。


「はい。そうです」

「ボクに、興味があるわけじゃ……ないんだろ?」

「はっはぁ?」

「残念だ」


書類を重ね、席を立つと俺を中に引き入れる。

扉を閉め、鍵までかける徹底ぶり。ワンダーランドの一件はあまり広く知られないほうがいいと言うことなのだろう。

話だけを聞いて受け入れる人が居るとも思えないが……


「二人きり。残りの昼休み時間を有意義に使わないとな」

「そうですね」


若干身長が高いためか、目を見ようとすれば少し見上げる形になってしまう。

距離感が近い気もするが、猫先輩が話しやすいのであればこのままでもいいだろう。

まさか……学校で変なことにはするまい。


「別れた後に、何かあったか?」

「いえ、特には何も。襲われもしませんでした」

「そうか。綺麗な体のままならよかった」

「必死でしたから」

「無事で嬉しいよ」


髪に触れ、顔に触れ、ちゃんとここに居ることを確かめるような仕草にゾワゾワしてしまう。

なんか、話が噛み合っていない気が……


「なら、なんでここに?」

「これの相談のためです」


朝の手紙を差し出す。手と視線がそっちに移った一瞬で二歩ほど距離を取った。

美形で格好いい先輩なのだが、あまり近くで見られると少し照れてしまう。

あんなに近くによるなんて、もしかして目が悪いのかもしれない。


「読んでも?」

「はい」

「では……」


手紙を一読。

顎に手を乗せ、真剣な表情で何度も、何度も手紙に視線を送る。


「これは、いつ?」

「朝学校に来たら、机の上に」

「なるほど……これは、一考する必要があるな」

「もしかしたら、ワンダーランドをどうにか出来るかもしれません」

「そうだな。不気味な字体。狂気じみた内容。不明な差出人。気になる点は多いが、君が鍵であることは確かなようだ」

「はい」


昨日、初めて入ったはずの俺が鍵である可能性は低かったはずだ。

しかし、猫先輩の想定を越える出来事があったのも事実。


女王。特異能力のない仮面。


この二つを並べても、なんかしらの可能性に繋がるのではないだろうか?


「ボクたちの戦いは、君たちを待つためにあったのだろうな」

「猫先輩」

「ふっ光明が見えたな。光義兄よ。君に頼みがある」

「分かってます。差出人を探しだし……ワンダーランドを終わらせるんですよね?」

「そうだ。露払いはボクたちでしよう。連絡はしておく」

「お願いします」


頭を下げると肩に手を置かれた。

どうしたのかと顔を上げれば、優しい笑みを浮かべ。


「いや、礼を言うのはボクの方だ。希望を、ありがとう」

「はい」


熱い包容を交わし、外に出る。

バタバタと走っていく女子生徒の後ろ姿が見えた。

覗き、なのだろうか?

これを警戒して鍵をかけたのだろう。

猫先輩の慧眼に感服しながら、教室へと戻る。

双葉とも、ちゃんと話をしないといけないな……

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