裏1

「楽しいわ。楽しいわ! とっても、楽しいわ」


色んなところで繰り広げられる戦いを見つめながら、歓喜の声を上げる。

フリフリのドレスを着た幼女は、幼い手足でくるくると回りながら、 集まってくる霧で遊ぶ。


「鬼ごっこ。かんれんぼ。ちゃんばら。もっと、もっとやりたいわ」


悲鳴と怒声が入り交じり、恐怖の震える者から居なくなる絶望と悪夢のワンダーランドの中でその幼女は異質だった。

心の底から楽しそうに笑っていた。血が飛び、肉が裂け、骨が砕ける音に歓声を上げる。


踊れば踊るほど、霧は集まる。

踊れば踊るほど、化け物が遊び。

踊れば踊るほど、人が死ぬ。


「もっとよ。もっと楽しませて」


紫の雲が震える。赤い星が光輝する。黒い太陽が高く昇る。

世界は幼女を祝福していた。


「せっかく作ってもらった世界なんだもの。もっと、楽しませてよ」


ジャバウォックが、何もない空間から突然現れた。

その肩に飛び乗ると拳を突き上げる。


「ゴーゴー」


ずん、ずん、と重い足取りで動き出す。

だが、その瞳は涙で溢れていた。瞳の裏側には、小学生程度の子供が入った水晶がいくつもあり、彼ら彼女らが水を生み出し、頬を伝うごとに数多の化け物を産み落としていく。

ジャバウォックが歩いた後には化け物が産まれ、殺しあう。生き残りは新たなる獲物を求めて絶望のワンダーランドを闊歩する。


「うふふ。うふふふふ。いいわ。いいわ。いいわ! もっと、もっと増やしましょう! わたしの子供をもっと増やして、白兎を歓迎しないと。そうでしょう? アリスのなりそこないさん」


ぴょんと肩から飛び降り、胸元にある水晶に触れた。

中に入っているのは、双葉を小さくしたような少女。

何も着ることが許されない水晶の中で丸くなり、小さな声で「助けて。助けて」と呟いている。


「ふふ。あなたの王子様が助けに来てくれるのかしら? 楽しみね」


くるりと一回転すれば、世界に光が満ち溢れた。


「あーあ。もうおしまいなの? せっかく作ってもらったのに、時間が早く過ぎてしまうわ。また、溜めないと駄目ね。次は、もっと楽しい遊びをしましょう」


世界が消え去る。

その姿を目に焼き付けるように、自らの内に抱き締めるように、手を広げた。

世界は、正しい時を刻み出す。

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