2

一日は早く過ぎ、放課後になった。

特に何もなく。いつも通りの日々。


「ふわぁ。ようやく放課後か」

「割と寝てただけだろ?」

「そんなことないやい。体育の授業は、頑張った」


腕を組んでうんうん頷いている。

確かに、体育の時間は頑張っていた。

内容はサッカー。

浩介が一人だけ別次元の動きで点数を取るもんだから、最終的にはゴールキーパーを体育座りでやらされていた。

ボールが飛んできたら解除していたが、それでも反応速度は早く一本足りともゴールには届かなかった。


これで部活に入っていないのだ。おかげで、運動部の連中からのラブコールは多い。

その全てを、アニメをリアルタイムで見られなくなるから。なんて理由で断るのだから、浩介の芯の強さは相当の物だろう。


「結果として、次の授業でイビキかきながらの爆睡は止めたほうがよかったな」

「いやー体力使い果たしてさぁ。こう、動いたって気分は最高だし、黄色い声援もなかなかーー」

「よかったな」


黄色い声援を浴びた直後にドン引きされるのはいつものことである。

あまり気にしないでおこう。


「兄さん」

「どうした?」

「今日、買い物。いいですか?」

「おう。荷物持ちするよ」

「えーゲーセンいかねぇのかよ? 今日入荷の新商品。見に行こうぜ。神テク見せてやるぜ?」


ボタンを押す仕草に、今日は狙いの物があるのだと分かった。

浩介のクレーンゲームは見ているだけでも面白い。まさか! と思うような方法でも取れてしまうので外野も楽しめるのだ。

しかし、 用事があるならばそっちが優先だ。

ゆえに、


「有村と行けばいいんじゃないのか?」


そんなことを口にする。

なぜなら、ゲームセンターで遊ぶ二人を時折見かけるからだ。

浩介がゲットしてハイタッチするシーンである。二人で遊ぶほどの仲なのだから誘えばいい。そう思った。


「ああ。ムリムリ。あいつさぁこっちから誘うと「そんなところ行くわけないでしょ!」なんて言うんだぜ。なのに、気づいたら後ろで歓声上げるから驚くのなんのってね。まあ、ノリでハイタッチもするけど、遊んでる訳じゃないんだよ」

「そうだったのか」

「私も知りませんでした」


仲がいいように見えたのは気のせいだったようだ。

まあ……有村も色々と思うところがあるのだろう。そっとしておこう。


「まあいいや。今日ところは、一人で行くよ。今度、おっきなぬいぐるみ。取ってやるよ」

「金大丈夫かよ」

「練習なんだからいいんだよ。素振りみたいなもんだ。金は惜しまんさ」


朗らかに笑いながら教室を出ていく浩介。

練習であっても、金を使うことには変わらない気がするが……当人が気にしないならそれでいいのだろう。


「んじゃ俺たちも行くか」

「はい」


近くのショッピングモールに向けて歩き出す。



学校から徒歩で十分。家からだとバスを使わなければならないが、学校帰りにはちょうどいい立地にそこはあった。

ちらほらと同じ学校の制服が見えるほどには、生徒は集まっている。

浩介が目指すゲームセンターもここなので、途中まで一緒でもよかったのだが、早くプレイしたかったのだろう。


「今日は何を買うんだ?」

「お肉と野菜を少々。他にも細々としたものがありますよ。少しかさ張るかと……」

「了解」


買い物は基本一週間に一回でまとめて買ってしまう。生活費は双葉が管理しているので、買い物のプランは丸投げだ。だからこそ、荷物持ちに精を出さなければと思う。


「おっ浩介だ。もう取ってるな」

「本当ですね」


入り口に置かれたクレーンゲームをプレイしていたのか、一抱えほどあるクマのぬいぐるみを掲げていた。

その隣には有村が居て、小さく拍手をしているのが見える。

どうやら、合流したようである。

離れて見れば恋人のようにも見える二人だ。どちらかが素直になれば付き合い始めるのだろうが、その兆しはまだ無い。


「浩介。彼女欲しいって騒ぐ癖にな」

「由里さんが素直になれないのが問題だと思いますよ。浩介くんは、自由に生きていますから」

「だよな」


他人の目を気にしない。我が道を行く。

その結果、周りから浮くことになろうとも、浩介は気にせず邁進する。そのことに、少なからず尊敬の念を抱いていた。

小学校からの付き合いだが、本当に変わらない。変わらない姿に、心地よさを感じていた。


「兄さん」

「ああ。急ぐか」


浩介たちを見て、立ち止まっていた。

早く買って帰らなければ帰りが遅くなる。

スキップするような足取りの双葉。その後に続いて店へと入る。


パリーン。


何かが割れるような音が耳元で……響いた。

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