***


 長い雨が続くと太陽を待ち望むように、長い晴天は雨を待ち望む。そのような気持ちを湧き上がせるには十分な乾季。さばんなちほーでは緑が徐々に枯れてゆき、遠くを見渡すのに阻害するものが稀有になる。熱せられた土は土埃となって舞い上がり、熱せられた空気は陽炎となる。


 医療センターの周囲の木々はさばんなちほーの植物とは反対に未だに青々と生い茂る。汲み上げられた地下水がスプリンクラーによって一定時間ごとに冷たい水を散布していた。そのため医療センターを隠すために植樹された木々はこの乾季の時期だけ炎天下から逃れて来た様々なフレンズの隠れ家、涼しい木陰のオアシスと変貌していた。


 医療センターのエントランスが開くと二匹のフレンズが出てきた。ロバとシマウマだった。ロバの右足首は包帯が巻かれており、庇うようにぎこちない歩き方をしていた。そんなロバを手助けするように肩を貸していた。


 二匹のあとから白衣を着たキララがゆっくりと二匹と同じ足並みの遅さで出てきた。手には小さなバスケットを下げていた。バスケットには布が掛けられており、二つの膨らみがあった。


「せんせい、ありがとうございました」ロバが振り返り頭を下げた。シマウマも釣られて頭を下げた。


「どういたしまして」優しく微笑みながらキララは語りかけた。「怪我が悪くなるかもしれないからかけっこごっこは絶対ダメよ。それと小さなことでも体が変だな、って思ったら遠慮なく来てね。寝てても、お風呂に入ってもすぐに診てあげるから。それと、これ」


 キララは二匹の目線と一緒になるよう少し屈み、二人の前に先ほどまで手にしていたバスケットを差し出すように持ち上げた。そっと、掛けられた布を掴み上げた。ロバとシマウマはバスケットの中身を覘くと目を大きくし「ジャパリまんだ!」と声をあげた。


「痛いのを我慢して治療を受けたロバちゃんへのご褒美と、ロバちゃんを心配してここまで連れて来てくれたシマウマちゃんへのご褒美」


 キララの言葉を聞いた二匹は互いに顔を見合わせ喜び、バスケットはキララからシマウマへと渡された。二匹のあどけない笑みと笑い声にキララは両手をそれぞれの頭にやり優しく撫でる。二匹の目が細くなり輝くよう感じた。


「それじゃ、気をつけて帰るのよ。パーク巡回の時に怪我の様子を診に行くからね」とキララは片手を振り見送る。


「せんせい、またねー」ロバとシマウマは手を振る代わりに先がふさふさとした尻尾を振りながら医療センターを後にした。


 キララは小さくなっていく肩を借し寄り添うような二匹の背中をエントランスの壁に寄りかかり終始見つめていた。シマウマは馬よりもロバに近い種類、と頭の中では理解をしていても自然界では考えられない種族を超えた関係に目を奪われていた。医療用ラッキービーストがキララに語りかけるまで思慮に耽っていた。


「ドクター」


「あら、ごめんなさい。ぼうっとしちゃった」キララは手を上げて背伸びした。「管理センターに報告お願いできるかしら」


「ドクター、了解シマシタ」


「さばんなちほー、南西区域でフェンスが破損。フェンスに使用していたワイヤーがロバのフレンズの右足に絡まり負傷する事態が発生。ワイヤーが足に食い込み壊死の恐れがありましたが、緊急で運ばれ早期治療のため重症化せず。怪我は経過観察します。至急破損したフェンスの修繕をお願いします。報告以上」


 腕を回したりと上半身ストレッチしながらキララはいつもの口調とは違う堅苦しい口調で喋った。喋り終わり、間を置いて医療用ラッキービーストからピンポンと機械音が発生され「報告ヲ完了シマシタ」と告げるとピコピコと足音の擬音を出しながら医療センター内へと戻っていった。


 キララも処置に使用した機材や道具を片付ないと、と思い医療センター内へと戻ろうと振り返る。ふと視界の端にある光景が写り込んだ。自身の足元を見ると影が短い。これからもっと暑くなるという乾季の正午。


 風に揺らぐ木々の木陰にふさふさと揺れる金毛と銀毛が輝く情景。


 痛々しさが感じられたか細いまだら模様の腕には包帯がなくなり、少しばかり肉つきがよくなった長身のアムが木の根元に座りながら不定期なリズムで頭を上下に揺らしていた。


 アムの隣には土で茶色に汚れたサッカーボールを大事に抱きかかえ、頭をアムの肩にもたれ懸からせ時折耳を動かす目を瞑ったヌイが座っていた。


「笑うとやっぱり可愛いわね」キララはクスッと笑う。「さて、お仕事、お仕事」


   ***


 追伸


 ちょっと更新に遅れます。連勤で辛い。本当に申し訳有りません。書き終え次第投稿します

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