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広大な施設内のフレンズを体調管理をするために幾つもの点在しする医療センターの内、キララが常駐する医療センターはさばんなちほーの片隅にあった。周囲は背の高い木々で生い茂り、自然のままの形を再現をした超巨大総合動物園ジャパリパークにおいてお客様に異物と感じられないよう隠れるように建てられていた。建物の高さは二階建て高さはあまりないだが、横に広く作られていた。開園当初はフレンズ同士の縄張り争いによる怪我やその治療を想定して獣医スタッフも多数配置されていたが、実際にはコミニケーションでのフレンズ同士の解決が行われ今では区域担当獣医と数体の医療用ラッキービーストで賄えていた。コンクリートで作られた外壁には蔓植物が四方に枝先を伸ばしており、外壁を隠すことと緑のカーテンとしての役目をになっていた。屋上には設備維持の補助として規則正しく太陽光発電パネルが並べられていた。センター内部は医療設備や処置室が設けられた区域とキララ達が生活する居住区域の二つに分かれていた。
「わーい、ぴっかぴかのお日様だ」ヌイがセンターのエントランスから両手で持ったキャンバス時の袋を掲げながら駆け足で出てきた。「ひさしぶりのぴっかぴかだ」
地面はたっぷりの雨を吸い込んだ泥濘ができていたが、ヌイは跳ね上がる泥を気することなく尻尾を大きく振りながら長い雨季が終わりを告げたことを全身で喜んでいた。それは踊っている様だった。
キララも続いてエントランスから出てきた。黒色のシャツ、赤色のベスト、カーキ色のパンツに編み込みブーツ、そして純白の白衣を着ていた。腰まで届く黒の後ろ髪は首元で束ねられ赤のヘアゴムで束ねていた。手には大きめの藤で見込まれた籠を抱えており、顔が隠れるほどの高さにまで積まれた白衣やベッドシーツといった洗濯物が入っていた。
「ヌイちゃん、遊ぶのは後々」洗濯物の山から首を傾けて顔を覗かせる。
ヌイは「はーい」と心地い良い声で返事をするキララの横に並び、少し離れた場所にあった歪な四角さと若干傾いている手作り感のあるテーブルとベンチに向かう。二つともキララが作ったものだ。
キララは洗濯物をテーブルに置いた。ヌイは手にして袋を逆さまにしてテーブルの上に広げた。袋の中からは太めのロープが数本と、たくさんの洗濯バサミがテーブルの上に散らばり落ちた。
「ほんと、景観を損なうから物干し竿は使っちゃいけないって言われているけど、木々から見えたのは洗濯物でした、って意味がないと思うんだけどね」
キララはそう愚痴をこぼすと一本のロープを掴み、丁度いい太さのある枝を生やした木に近づいた、二、三度枝を揺らして折れないかを確認するとロープの片方を結び、もう一方側も同じようにロープを張った。
ヌイもその光景を横目で見ながら同じように行う。まだ大人になっておらずキララよりも頭二つ背が低いヌイは自身の背に合った手頃な高さでロープを張る。人とは違う、細かい手の動きが苦手なヌイであったが一方を悪戦苦闘しながら結んだ。「できたー」と声をあげて喜び、もう一方を結ぼうと周りを見る。だが手が届く場所の枝ぶりは細く、少しばかり高い枝しかない。木登りが苦手なヌイは背伸びをして試みるも上げた踵で震えるのみでたった。
「……ここすればいいのか」ふとヌイの顔が影に覆われ、頭上から声がした。
ヌイの手からロープは離れ、金毛に覆われた大きな手が枝にロープを巻きつけて結び目を作った。
「あ、アムちゃん」ヌイは振り返り自分よりも頭二つ背の高いアムに見上げる。両耳をピンと立て、尻尾を振った。「アムちゃん、ありがとう」
「……」
アムはヌイの言葉に反応することなく、振り返って歩き出しテーブルの上に残っているロープを掴む。以前は身体中に巻かれていた包帯は今では少なくなり、白と黒を基調とした洋服から細く伸びる腕や足など数カ所だけであった。鋭い眼差しは依然と変わらず、言葉も少ない。ただ黙って静かに誰に言われることもなく作業を続けた。
そのようなアムの様子を見てヌイはゆっくりと耳と尻尾を垂れ下げていった。その目はどこか寂しく、表情は微かに震えるようで先ほどまで明るく元気な姿が消えていった。
キララは二匹のフレンズを手を止めて眺めていた。キララもまたどこか悲しげな表情をしていた。
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