第53話 白く丸い壁

船底に近付いてみると、本当に入れそうな穴だと分かった。

どうやら光源があるらしく、薄暗いという感じの明るさ。

見覚えがあった。

丸い岩のような物体から生えている触手の先端がLEDのように光るそれを。


「ここにもいたのか。」


身長約40mのレイザービルが余裕で立つ事のできる(元)貨物船の倉庫。

その倉庫内の天井、至る所に張り付いているナックルボール。

数千体程いるだろうか?

彼ら(?)のイルミネーションのおかげで周囲の状況を確認できた。


「・・・何もない?」


だが、違和感を感じている。


つい先ほどまで海洋生物の住処だった船室(倉庫)。

それなりに腐食が進み、床は簡単に踏み抜けてしまいそうだったが・・・

秀太の目の前には不自然にきれいな白い壁があるだけだった。


まだ、違和感を感じている。


その白い壁の輪郭。

よく見ると、丸いだけでなく・・・

無理矢理ねじ込まれた感じさえする、船倉の変形した周囲。


      ・ようい して・


「え? いや・・・ 何を⁇」


秀太の目の前にレイザービル全体の見取り図と思われる表示。

所々、太い丸の図形が映し出された。


「こんなのあったっけ?」


    ・てろりすとの ふねを・

    ・しずめたときに ぬきとったもの・


「ああ、それか!」


    ・それを じゅんばんどおり つなげて・


上半身の見取り図に映し出された丸の図形に、それぞれ番号が振られた。

ただ、〝0番〟だけ単なる丸い図形で、他の番号は全てドーナツ型の図形を

していた。


「0番が最初・・・で、いいんだよね?」


    ・その とおり・


指示通り、実際に手にしてみる秀太。

見覚えは無かった。

まるで雪平鍋のような形だが、やはりその鍋のように持つのが正解なのだろう。

あとは順番さえ守れば形状的にも間違えようがない。


0番を含む、計九つの部品(?)を組み上げると・・・


以前より少しだけ長い、筒状の物体。

何故か、3番目の筒に取っ手のような突起物が生えて(?)いるが・・・

秀太は敢えて気にしない事にした。



『現在、大海烏に移動の兆候無し。 なお、標的点に例の艦隊が接近中です。』


「ははっ、向こうから近付いて来てくれるとは! 手間が省けるってもんだ!」


ほくそ笑む、ヘイロンと呼ばれる男。



一方、北太平洋第七艦隊は浮上した沈没船のいる海域に向かって・・・いた。


「全艦、微速前進を保て。」

と言ったあと、マイクのスイッチをOFFにするソロモン艦長。


「オブライエンさん、もう一発来ると思うかね?」


「来ますとも。ただ、強力なヤツが降ってこない事を祈っていますが。」


「こちらとしては発射の瞬間。それを最重要視している。」


日没になろうとしていた。

     


        ・ここに たって・


「え、ええ??」


矢印の表示は目の前の白い壁の上を指していた。

とは言え、捕まる所は何もない。

周囲を見渡す秀太。

よく見ると、左側に壁が剝がれ落ちて鉄骨がむき出しになっている箇所があった。


「おーい、そこ通るからチョットどいてくれー。」


レイザービルの左手が、煙を軽く払うような仕草をした。


すると・・・ 左側に張り付いていた数々のナックルボールが、ひらひらと枯れ葉

のように船底へ落ちていったのだった。


「お、通じたのかな?」


      ・そういう ことに しておく・


鉄骨のむき出しになっている所も腐食が進んでいるが…とにかく、そこを足掛かりにするしかない。


左足を乗せかけた時、その鉄骨部分は簡単に折れてしまったが・・・

それでも高い位置にある鉄骨に左手をかけ、最後は海水を排出する推力の力を借りて白い壁の上に立つことができた。


足元を見ると、オレンジ色の長方形が二つ表示されている。


(ここに足を置けって事か)


秀太がその位置に足を合わせると・・・


     ・かまえて・


「え、ええ??」


目の前にレイザービルの簡略化された表示、八つの筒と一つの雪平鍋(?)の図形。

さながら、ライフルかバズーカを肩に立てかけているような感じ。

あとは左手を3番目に合わせるよう、指示の表示。

それがピタッとハマったと同時に、姿勢がロックされた。


「これって、まさか?」


          ・その まさか・


チュイーーーーン・・・


少女のいる部屋から発生しているらしい、静かに響き渡る異音。

秀太がレイザービルに搭乗して、初めて聞く音だった。
















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