第52話 漂流船、発見 

PCから着信音が鳴った。

フィラデルフィア・フォトグラファーズ代表ポール・ハンターは、専用の

ホットラインからの通信に慌てて応答に出る。

発信者名『キャプテン・フック』と記載されていたためであった。


「何か進展あったんでしょうか?」 


『聞いてくれ。一応、テロ組織絡みの罠かガセネタ情報の類でも新国連には報告する決まりだから・・・報告をしたんだ。 すると、向こうは何て言ってきたと思う?』


「いや、そう言われましても・・・」


『再調査を希望するのであれば申請は随時受け付ける・・・そうだ。』




いつものように犬小屋型PCの前に座り、両手で画面を撫で払ういつもの操作をしている少女。


「ああ、なるほどね。」

秀太にもそれが何を示しているのか、さすがに理解はできたようだった。


画面の上、少女の頭の位置に表示されている立体映像。

スーっといった感じで動いている、いくつかの小さな光の点。

似たような光景なら、秀太にも見覚えがあった。

でも、地上から見たら人工衛星は高空を移動するただの光の点。

しかも、当然ながら飛んでいるのは一機だけではない。

その中でミサイルを発射したヤツを特定し、そして・・・

       

      ・うちおとす・


とまで言った(文章による意志表示)少女。

少し怪訝な表情で少女を見ている秀太。




『同志黒龍(ヘイロン)、副主席のご意向をお伝えします。』


PCからの音声メッセージに慌てて対応する男。

「ヘイロンです。 お聞かせ下さい。」


壁に〝永遠なる共産党〟(中国語)と書かれた文字が額縁に納められている。


『大海烏の立ち寄ろうとするであろうポイントが判明しました。映像を送ります。』


ヘイロンと名乗った男は、目の前のモニター画面を注視した。


ドローンから撮影されたと思われる映像。


洋上を何百メートル進んで一旦停止。そしてまた動き出すという動き方を繰り返している、黒い二等辺三角形。


その尖った先の延長線上に一隻の船影があった。


「・・・あれ? その船、何か様子が変な感じに見えるんですが?」


『最近になって、自然に浮上してきたらしい沈没船です。 まあ、自然にとは言え、

そんな物が浮上してくる事自体有り得ない事ですので、中に〝何か〟入っているのは

まず間違いないでしょう。大海烏もそれを狙っていると思われます。そこで・・・』



少女は秀太の方に向き、PC画面の一ヶ所を指差した。

指先に簡略化した船の形の図形。  点滅する間隔が少し早い。


「何かあるんだね? 分かった。」


秀太がコックピットに身体を沈めると、大海原の光景が目の前に広がった。


水平線上に、点滅する矢印。

遠方にあるそのポイントを指しているからなのだろうか、秀太は当初そこを島だと

思い込んでいた。


だが、近づくにつれて・・・ それは大きな〝元〟貨物船と分かった。

見た感じ、沈没していた年数が相当経過していたと思われる状態。

ありとあらゆる海藻の類、フジツボやイソギンチャク、サンゴなどの海洋生物などが

付着したまま。

何らかの原因で浮上してきたのは明らかで、それでいて何故か船本来の姿勢を保っている。


「・・・・・・」

あまりにもボロボロな外見を見て、どこをどう入っていいか分からない感じで躊躇している秀太。


      ・ふねの そこに あなが あいている・

      ・そこから はいれる・


「・・・・・・」


( いったい、俺は何をやっているんだ? この行動に意味なんてあるのか? )   ふと、自問自答してみた秀太。    すると・・・


  ・・・・・まあ 秀太から見れば 確かに 訳わからないよな・・・・・

  ・・・・・だからといって 疑問に思っている 場合じゃないんだ・・・・・

  ・・・・・何たって 世界のため だからね・・・・・

  ・・・・・その 世界から 注目の的なのは 自覚してほしい・・・・・

  ・・・・・ひとつひとつの 行動に 意味は あるんだ・・・・・

  ・・・・・そこにいる 女の子は よくやっているよ・・・・・

  ・・・・・気まぐれで 秀太に 指図している 訳じゃない・・・・・


秀太の頭の中は、思い出された様な感じで聞いた事が無い言葉が飛び交うという奇妙な感覚が再び起きていた。


「ああーっ! うるさい‼」


     ・しずか だよ・ 


「・・・いや、君に言ったんじゃないんだ! そこは分かってくれ。」


     ・もしかして あたまのなかで はなしごえ した?・


「え、分かるの?」


     ・わたしも たまに ある・


「そうだったんだ・・・」

秀太は続けて何か言おうとしたが、そこは思いとどまった。


見上げると、オレンジ色の長方形の表示。 そこを指し示す矢印が点灯。


まだ日の光が差し込んでいるので、船の底の部分であるのは容易に確認できた。


























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