第44話 ・りょうてを さしだして・
『駆逐艦 ニイハウ艦長、アグバヤニです。 アーリントン・1の連結完了、
乗組員全員の搭乗を確認しました。これより、曳航を開始します。』
「空母フランク・ハワード艦長、デヴィッド・ソロモンだ。 そのまま、
パールハーバーまで連れて行ってやってくれ。 よろしく頼む。」
大海原を行くレイザービル。
突如、秀太の目の前に表示されている矢印が下の方角を指し示した。
「・・・何かあるって事なんだろうな。」
矢印通り進むと、射し込む太陽光線の量が少なくなってくる。
海底の方を見ると暗くて地形が解り辛くなっているが、目標らしき物体は
すぐに判別できた。 何故なら・・・
矢印の点滅している先には、オレンジ色の枠線で囲まれた映像。
きっちり船の形を示している。
海底に降りて見ると、やはり沈没船だった。
さらに近づいて見ると・・・ブイが設置されたのか、海中に真っすぐ浮いている。
ワイヤー部分の印字スペースに縦書きの標識があった。 KB-ZS・#40とある。
これからどうすればいいか迷っている秀太。
その目の前を数字の羅列がスクロールして行く。
「ははぁ・・・」 秀太は少女がPCの画面を操作している情景を思い浮かべた。
だが、その意味は解ろうはずもなく、ただただスクロールして行く数字の羅列を
見送るだけの秀太だった。
北太平洋第七艦隊空母フランク・ハワード管制塔に無線連絡があった。
『 (潜水艦)LEE-EELの艦長、ハギスです。 RB(レイザービル)からの怪電波を傍受しました。後ほど録音データを送信しますが、いかがいたしましょう?』
「(空母)フランク・ハワード艦長、ソロモンだ。それは後ほどじっくり聞かせてもらうとしよう。 ヤツが電波を発信したという事は、何かをしでかす前兆と見ておいたほうがいい。直ちにその海域から離脱し、そのまま母港へ帰還してくれ。
パールハーバーでまた会おう。 以上だ。」
相変わらず、数字の羅列が横スクロールで表示されていく。
何をどう探せばいいのか何もわからないまま、秀太は沈没船の周囲をただうろつくしかできないでいた。
そして、沈没船のスクリュー部分に差し掛かった時・・・
その近辺で別の数字が一回だけ表示された。
“55034”
意味など理解できるはずも無く、ただの数字の羅列の一つ、と見送っていた秀太に対し・・・ 少女はそれを見逃さなかったらしい。
すぐにその付近のエリアをブロック分け表示にし、一つのブロックを点滅させた。
だが、そのブロックだけ逆台形の形をしている。
・ここを せつだんして・
秀太は一瞬、戸惑いを感じた。
「・・・え? こんなのどうやって切断すればいいんだ?」
その点滅表示している箇所。
レイザービルの視点から見ると、とても低い所だった。
その場所は奥まってもいたので手が届きそうで届かない。
スクリューと、切られたまま固着してしまった舵が微妙に邪魔をして、その方向
からも手が届かなかった。
沈没した船は海底に斜めになって倒れている状態ゆえ、問題の箇所へ手を届かせる
のは、その一方向のみ。
「ねえ、スクリューと舵・・・ぶったぎってもいいかな?」
とりあえず、少女に質問してみる秀太。
少女の(文字だけの)返答は・・・
護衛の潜水艦2隻LANCEROTTY-LANCEとLEE-EELは、艦隊のいる海域を離れようとしていた。
「提督、なぜ潜水艦に帰港命令を出されたのですか?」
オブライエンCEOの質問に、ソロモン艦長は少し間を置いて答えた。
「彼らに影響が及ぶ恐れも考えられたから・・・と、言っておこう。」
「では、何か新たな作戦でも?」
「我々の研究班なんだが、レイザービルに関する何とも大胆な仮説をこの私に提示してくれてね・・・」
「ほぉ・・・聞かせていただけますか?」
どうせ無視されるんだろうと思っていた、秀太の問いかけ。
しかし、意に反して(文字だけの)返答はあった。
・わたしが あいず したら・
・ふりかえって りょうてを さしだして・
・かならず・
相変わらず理解に苦しむ内容と思った秀太。
「近くに艦隊がいる事だし、注意を怠るな・・・なんだよね?」
しばらく待ってみたが、それに対する返答は無かった。
空母フランク・ハワード管制塔別室には、艦長のソロモンと兵器開発企業
WO-PARTSのCEOのオブライエン、その二人だけ。
「君も御存知の通り、ヤツはテロリストどもの再三に渡る “光の矢”の攻撃を受けた
・・・にも関わらず、何事も無かったように行動している。」
「実に興味深い相手です。素材といい、行動といい。」
「そこで、研究班の意見によると・・・」
コメントの録音音声が再生された。
{ RBは、強烈な電磁波やビーム攻撃に耐えうる防御力に長けているものの、
アルカリの “見えない光の矢”のような長距離射程の武装は、今の所まだ無い
と、我々は見ています。 それゆえ、RBの一連の行動は世界中に散らばった
武器を探し回り、武装の強化を謀っているとしか考えられません。
現に、アル・カリの偽装艦に装備されていた、“見えない光の矢”の主砲部分は
全て抜き取られていた後だったと、調査班からの報告がありました。 }
「提督、レイザービルがあの場所にいる、という事は・・・」
「そう、何かあるんでしょうな。 そして、ヤツが何をしようといるか?の
調査を含め、次の作戦に移行する訳であるが・・・」
そう言ってオブライエンCEOを見る、ソロモン艦長。
「・・・??」
「その前に、WO-PARTSのCEOの君に、許可と了承を得なければ・・・と。」
「改まって、何でしょうか? 私は艦隊のやり方を支持していますが。」
「つい先ほど入手できたアレを使って見たい、と思うが・・・どうだろう?」
「・・・・・・」
「これも研究班の推論なんだが、ヤツの対ミサイル防御には特徴があるらしい。
至近距離ではあるが、決して直撃する事は無くミサイルは爆破される。 これは、
ヤツの周囲が常に高出力のビームで被われているか、或いは超高出力のビームを
的確に当てる事ができる技を有している・・・としか考えられない。 しかし、
今回のステージは海中で、その威力は半減以下になるのでは?・・・だそうだ。」
「なるほど!! ビームは海中で使えない、と見たのですね!?」
「その通り。ただ、この作戦でヤツの持っている貴重なデータの半分以上を失ってしまう危険性も充分に考慮しなければならない。そこで、君に相談という訳だ。」
「・・・そうでしたか。」
しばらく考え込む、オブライエンCEO。
「これから切断するけど、いいんだよね!?」
すると、返答の代わりにハンマーの図柄が右側に現れた。
目の前に、固着して動かせなくなっている船の舵。
秀太は、右手の先端を舵の付け根に近付けた。
暗い海底に、アーク溶接のような眩い火花と大量に発生する気泡。
PCの画面に表示されている、艦隊を示しているであろう図形を睨む少女。
両手の位置が、何かをしようと身構えているように見えた。
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