第43話 メッセージはGO・・・

「よし、ウインチ効かせろ!!」

4本がけの太いワイヤーはガッチリ食い込んでいるが・・・

肝心のレイザービルは、その場から微動だにしない。

その効かせようとしているウインチを引っ張れば引っ張るほど、逆にレイザービル

へと近づいてしまう、上陸用舟艇アーリントン・1 。

それは立っている滑走路にも原因があった。

吹き始めた海風だけでは払いきれなかった、僅かに残っていた塩、そして金属粉。

トルクをかけた分、タイヤは路面をグリップし切れず、ズルズルと滑ってしまう。

「くそっ! こんなはずでは・・・!」


       ・まだ うごかないで・   の表示は・・・ 

       ・やじるしを みて・    に変わった。


「えっ?」

奇妙な上陸用舟艇の方をを指し示している、点滅中の矢印。

秀太が視線をその矢印に向けた時、向こう側で何か動きがあったようだった。

一方の少女はと言うと、PCの画面に何か字を書くような指使いをしている。


「ここは応援要請するべきです!」

「やむおえんか・・・重機と・・あと、メガフロートを手配してくれ。」

乗組員が空母へ連絡を取っている最中・・・

「隊長!!見てください!!」

「何があった!?」

「ヤツが・・・こちらを向いています!!」

「なんだと・・・?」

操舵室内のモニタースクリーンに映る、レイザービルの正面。

正四角錐に尖ったクチバシを連想させる顔(?)。

その両脇に位置する、透明なドームの中に浮かぶ、つやの無い真っ黒な球。

「まだ停止しきってなかったのか・・・」

その時、空母から連絡。

『アーリントン・1、無理をするな! 撤退して体勢を立て直せばいい!』

「提督、あと一歩なんです! これからヤツにとどめを刺します!」


慣れない胡坐(あぐら)をかく姿勢から立ち上がろうと思った時、自分が

何かに縛られている事に気付く秀太。

腕を突っ張らせてみたが、状況は変わってない感じがする両腕の感触。

「・・・どうしようか・・・」

思い切り力を込めれば、切れなくはない気もしたが、あまり事を荒立てたくは

ないと思っていた秀太だった。


「ジェネレーター回せっ!! コンデンサーに接続!」

上陸用舟艇のボディ上部、金網が張ってある強制空冷ファンがジェット機の

発進のような爆音を立て、回り始めた。

「これより、放電攻撃を開始します!!」

「今度こそ終わりだ!!」

隊長はレバーを叩くように倒し入れた。


レイザービルの胴体に食い込んでいる、4本がけ投げ縄のような太いワイヤー。

そこから激しい火花と煙。

だが、それも一時だった。

それでも回り続ける強制空冷ファン。


「?? どういう事だ!?」

「ジェネレーターは正常に稼動しています!」

「ですが、このままでは燃料切れで停止してしまいます!」



紙パックの“いちごみるく”を吸いながら、PCの画面に表示されているグラフらしき

画像を見ている少女。

八つに区分けされた、一本の棒グラフ。

そのうちの一つだけに変化、徐々に黄色の表示へ変わろうとしていた。



『アーリントン・1、重機とメガフロートをそちらに向かわせるのは可能だが・・

あくまでソイツが完全停止という確証を得られてから、の話だぞ?』

「承知しています。これから、その確認作業に入るところです。」

『この際、取得した映像データを持ち帰るだけでも構わん。念を押すが・・ もし、少しでも異常を感じたら、即時撤退するように。』

「・・・・・了解しました。」

「ジェネレーター、停止します!」

強制空冷ファンの、ジェット機のような爆音が止んだ。

海風と、打ち寄せる波の音がするだけとなった南鳥島。

「よし、もう一度引っ張ってみる・・・」と、隊長が言った、その時。

「隊長、見てください!!」


レイザービルを映し出している映像に変化があった。

無数に近い数の真っ黒いトゲ。その先端がLEDのように発光。

それらは多数点灯し、文字を形成していた。

英語のアルファベットで6文字。


          GO HOME


「なんてこった・・・」

愕然とする、隊長と乗組員たち。

さらに、レイザービルの行動に変化があった。

硬い地面に鞭を思い切り打ち付けたような音。 そして・・・

胴体に食い込んでいる太いワイヤーの一ヶ所ずつ、計4ヶ所からアーク溶接

のような眩い瞬きと煙。

オレンジ色に鈍く光る切断面とともに崩れ落ちた、4本の太いワイヤー。

シャラシャラ・・・と音を立てながら、ゆっくり立ち上がるレイザービル。

アーリントン・1の隊長と乗組員の全員は、最悪の事態を覚悟したが・・・

「・・・・・?」

なんと、レイザービルは彼らの目の前を横切り、島の短い滑走路を歩き始めた。

そして、そのまま海の中へ・・・。

唖然としてその様子を見送っていた隊長はマイクを取り、スイッチをオンにした。

「こちら、アーリントン・1・・・救助願います。砂浜までは歩けそうですが・・

沿岸で立ち往生する可能性、大です。」

『ご苦労だった。ニイハウ(駆逐艦)に曳航させよう。』



       ・しまを でる・


「あの島、なんで立ち寄ったの?」

秀太がそう問いかけても、返答のメッセージは表示されなかった。

日射しが降り注ぐ、どこまでも青い海の中に再び表示されるオレンジ色の矢印。

海亀が横切り、去ってゆくのを待ってから進み始めるレイザービル。     






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