第29話 鹵獲 (ろかく)
以前とは比べ物にならない部屋の暗さ。
とにかく、光っている物が何も無い暗黒の状態。 それが今だった。
なぜか、イングリッド先生が「だいじょーぶよー」と励ます映像が頭に浮かぶ。
その時、秀太の足に手で掴んでくる感触。
低い位置からして、少女は床に突っ伏しているんだろうという事は想像できた。
秀太がしゃがんでみると、断続的に鼻水を吸う音が聞こえる。
( この場合、そばに付いててあげないといけないよな・・・ )
第七艦隊が去った、その海域。 イナンバ島に接岸した車両運搬船。
船の最後部の大きな搬入口が開けられ、大勢の作業員がカラスの怪物を取り囲む。
中型船舶の碇に使われる同じサイズの鎖が使われ、がんじがらめにしてゆく。
そして、搬入口の奥から伸びているフックつきのワイヤーをカラスの怪物の両端
2箇所引っ掛け、引き込むのだが・・・その際、丸太のコロ代わりに使われたのは
、彼ら曰く「チャージしなくなってしまった虫ども」と見なされた、海へ廃棄予定のナックルボールだった。
車両運搬船のウインチが左右同時に巻上げを開始した。
徐々に引っ張られ、じりじりと移動してゆくカラスの怪物。
岩浜に散りばめられた、「虫ども」と呼ばれるナックルボールの数々。
下敷きとなってゴリゴリと岩浜を削る音。
弾かれて海へ没する物も出てくるが、誰ひとり気にも留めない。
海中へ沈んでゆくナックルボールが触手を出し、3回点滅する発光現象を繰り返していた事など、誰も気付かない。
やがて、カラスの怪物が完全に収納されると、車両運搬船は島を後にした。
特に片付けられる事の無いまま… イナンバ島の岩浜に放置されたナックルボールのおびただしい数々。
その中の一体が、去ってゆく船に向かって触手を出し、5回ほど点滅する発光現象を一度だけ発生させた。
「まずは超大物の獲得、おめでとうございます、総帥閣下。」
『今回の場合、今までとはワケが違う。 すぐに科学調査班全員を集め、カラスの怪物を調査させるのだ。 急げ。』
「はっ!!ただちに!!」
LPGタンカー偽装船の艦長は、豪華客船偽装艦にいる科学調査班に指示を出した。
「科学調査班は、すぐに車両運搬船に向かい、(黒い怪物の)調査を開始せよ。
これは総帥閣下の御命令である!」
豪華客船偽装艦から発進したヘリコプターが車両運搬船に着艦すると、何やら
車両運搬船の乗組員の様子が騒がしい。
到着した科学調査班の主任は「何があった!?」と、乗組員に問いただした。
すると、「格納庫のハッチが開かなくなってしまいました。」との事。
「溶接で切断も試みましたが、何故か全く歯が立ちませんでした。」
その報告にも信じきれない科学調査班の主任は、自らアーク溶接の機具を使用
してみた。 ところが・・・
火花こそ多少出るものの、ハッチとの接触面は少し焦げる程度でしかなかった。
「いったい、どうなっているんだ!?」
一方、カラスの怪物が収納された格納庫内では異変が起きていた。
本来、照明を付けなければ暗闇であるはずの、その中。
船体を傷つけないよう、敷石代わりの下敷きにされていた多数のナックルボール。
その場にいる、全部の個体が触手を出し先端を鈍く光らせているせいで、薄ぼんやりと明るくなっている格納庫内。 だが、それだけでは無かった。
ハッチがある箇所に、びっしりと張り付いている数々のナックルボール。
外からバチバチッと音がするたび、その部分は仄かに赤くなるが・・・ すぐに火花を生じて拡散、リレーしているかのようにナックルボールを介し伝達してゆく。
そして、その行き先は・・・ナックルボールの触手が掴む、黒く鋭いトゲだった。
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