第28話 敵の多い海・横槍
「それは、確かなんだろうな?」
『間違いありません。あのカラスの怪物から発せられた電波により、“虫ども”が
著しく活性化したのは確かです。 おかげで、わが主砲にチャージが完了いたし
ました。 いつでも十字軍の艦隊を撃滅できます。』
「よし、攻撃準備に入れ。」 『了解しました!』
『艦長、ちょっと待て。』
「・・・これは! 総帥閣下!!」
『よく聞け。私から提案がある。』
操舵室内で、一斉に直立不動の姿勢になる、軍服に黒いベレー帽姿の乗組員。
『隊長!ここはもう、切り札しかありません!!』
戦闘攻撃機TEAM、B-BORNの編隊はイナンバ島上空を旋回飛行していた。
島の岸壁にもたれ掛かり、全く動く様子の無いカラスの怪物。
『隊長!我々も・・・同時に発射すれば、きっと成功するはずです!」
「分かった。・・・頼んだぞ。」
隊長は “切り札”を、各機は再度、対戦車ミサイルの発射準備を開始した。
その時。
イナンバ島上空に眩い閃光がきらめき、島全体を一瞬だけ明るく照らす。
だが、それは旋回飛行していた戦闘攻撃機編隊の大爆発を意味していた。
「!!?」 「何が起きた!?」 「警戒警報!!」
第七艦隊は、状況が理解できてないまま戦闘準備に入らざるを得なかった。
ところが、警戒すべきカラスの怪物は依然として何かしらの行動を起こした
様子が無い。
『テレビ屋さんがた、早急にこの場から退避するように!』
第七艦隊から無線で緊急の避難指示が出されたTVクルーは、その指示に従った。
島の岸壁、海上、そしてカラスの怪物に降り注ぐ、多数の金属片。
そして、人の形をした真っ黒い消し炭の数々が海上に落下したり、あるいは
島の岸壁に叩きつけられ、こっぱみじんに砕けていった。
スクリーンにデカデカと、{ 中止 }の文字。
スタジアムは騒然となっていた。
「全機消失(ロスト)・・・ 撃墜されたものと思われます!」
その報告を受け、第七艦隊艦長は「WO-PARTSに繋いでくれ。」と指示。
しばらくして、返答があった。
『ソロモン提督、お話があります。』 WO-PARTSのCEOからだった。
『ここはひとつ、撤退していただけませんか?』
「我々はヤツの未知なる攻撃で、戦闘攻撃機TEAM全機を失った。これより艦隊を
あげて、反撃に転じようと思っている。」
『そんな事を言ってる場合ではありません! 今からそちらへ映像を送ります。」
全艦隊に送られてきたのは、既にニュースやネットで全世界に広く知れ渡っている
イスラム原理主義組織、{ アル・カリ }のプロパガンダ映像だった。
アラビア語の字幕がゆっくり流れ、文末の最後にカーソルが点滅。
そこから新たに文章が書き込まれたようだった。
『問題なのはここからです。今から英訳した(日本語)文を添えます。』
{ 十字軍は、無抵抗の黒い怪物を よってたかって痛めつけ、なぶり殺しに
しようとしている。 この卑怯な振る舞いを、我々は断じて許さない。
まず手始めに、島の上空に群がるハエを駆除。
そして、黒い怪物を回収し、保護するわけだが、その際手出しは無用だ。
もし、邪魔をするようであれば、我々の “ 見えない光の矢 ” が、
おまえたち十字軍艦隊を、内蔵している兵器ごと貫くだろう。
命が惜しくば、指をくわえて見ている事だ。 }
続いて、ある船団の映像が映し出された。
豪華客船、車両運搬船、LPGタンカー。
いずれも、遠巻きに見ていた野次馬的存在の船。 そのはずだった。
『これを見てください。』
3隻の船舶のマスト部分。 点滅する矢印が添えられたクローズアップ。
それらには、いつの間にか黒い旗が掲げられていた。
そして、その黒い旗に関する図解映像には、こう記載されていた。
黒地に白文字で書かれたアラビア語の意味。
{ 異教徒は一度灰になって転生し、改めて改宗すべし
アル・カリ }
「・・・・・・・・」
『今の我々では、到底太刀打ちできません! ここは身を引きましょう!』
ソロモン提督は、やむおえず命令を下した。
何ひとつ反撃できないまま・・北太平洋第七艦隊はイナンバ島海域からの撤退を開始したのだった。
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