第25話 敵の多い海  (2)

少女が目を覚ますと、すぐ隣には秀太がいた。 床に大の字になって寝ている。

いつの間にか、ベッドにいた自分。何枚か無造作に置かれた、湿っているタオル。

すでに柔らかくなっている、ジェル系の氷枕。

よだれを垂らして眠り呆けている、秀太の寝顔をじっと見つめる少女。

そして、大儀そうに起き上がり、少女がした事は・・・。

ズルズルと秀太を引きずり、“VRの部屋”へ再び押し込んだのだった。


秀太が目を覚ますと、目の前にデカデカと表示された、ひらがな5文字。


         ・これをみて・


「ええっ!? 今度はナニ!?」


続いて映し出された人物の映像に、秀太はさらに驚愕した。

「・・・・・イングリッド先生・・・???」


『シュータ君、体の具合はどう?  おそらく、車イスからは卒業してるものとして話すけど、君の置かれている状況・・・ すごく危険、と見るほか無いの。』


映像が変わった。

おそらく、ワイドショーの時のそれと思われる、カラスに似た怪物の映像だった。


『まさか、こんなモノに乗っているなんて、君は信じられなかったと思います。

でも、これで世界から注目の的。世間は、この怪物クン、次は何をするんだろう?

って見てるはず。という事は、オーバーテクノロジーを研究する機関とそのバックに付いてる大企業も同じ。 世間で言うスタイラスは、とても素早くて敵わないけど

このカラスみたいな怪物クンだったら、動きが鈍そうだし何らかの方法で捕まえる

事ができれば、謎めいたオーバーテクノロジーの解明に繋がるし、それに伴う利益

は莫大な物になるだろう、と見ているらしいの。 舐められたモンよね。

で、シュータ君には申し訳無いんだけど、そのカラスの怪物クンを使ってね・・・

ぜひ、やって欲しいことがある! うん! お願いできるかなー?』


質問や会話が成り立たない、一方的な映像。

世界の地図、海図。 

そのあちこちにある『ポイント』を提示され、そこへ向かって欲しい・・・ 

との事だった。


       ・つづきは また あとで・


この後、ある海域とポイントがピックアップされ、拡大表示の映像に変わった。


「俺の事はお構いなし・・・か。」



「レイザービル、現在位置が判明いたしました。 御蔵島南西約35km・・・」

「・・・それはな、イナンバ島(じま)と読むんだ。」

「今の所、ほとんど動きは見られないため、上陸している可能性が高いです。」

「確か、そこは無人島のはずだ。 念のため、御蔵島に問い合わせてみてくれ。

釣り人が上陸していないか、どうかを。」

 

海上保安庁の巡視船からの詳しい報告は、海上保安庁→海上自衛隊→国防省→

日本政府(総理)の順に伝えられ、政府は予てから要請のあった許可申請を含めた

返答を、新国連と兵器開発企業「WO-PARTS」に送った。


ため息をつく少女。 

秀太と一緒にいる、犬小屋型PC端末のある部屋が、また薄暗くなっていた。

海中深く移動していた時は、円グラフの色の割合が見る見るうちに少なくなって

いったが、この無人島に上陸してからは色の減り具合が治まったように見える。

少女は円グラフの画像から、海図のような画像に切り替えた。

伊豆半島の突端を描いたような画像が一部見えている。

その海図の中央、小さな島を描いたような図形と、星印が点滅しているマークが

重なっていた。

他は、いずれも砲弾型のマーク。

それらは、あちこちに点在しているが、一つは二つ並んだ島の細長い方の島に停泊

(?)したまま動きを見せず、星印が点滅しているマークに向かって来ているのは

ハワイ方面から複数、そして、インド洋方面から一つ。

少女が注視しているのは・・・



「北太平洋第七艦隊空母、フランク・ハワードで新たに指揮を取る事になった・・

デビッド・ソロモンです。 この度は、このようなリベンジの機会を与えていただいた、WO-PARTSに感謝したい・・・と、思います。」

パブリックビューイングでの、この映像にスタジアムは大歓声が起きた。

さらに、テンション高めの司会アナウンスが場を焚きつけるように囃し立てる。

『怪物に立ち向かう狩人たち・・・  記念すべき、その第一陣は・・・     彼らだッッ!!!』

スクリーンに、B-BORN のTEAM名表示。

戦闘攻撃機の発進、編隊飛行のプロモーション映像が映し出されている。

『失われた国家再建のため、彼らは立ち上がりました。全世界に散り、流浪の民と化してしまった同胞に勇気を! そして、帰るべき場所の道標となるために!!』

この模様はネットでも配信され、さながら、何かのショーのようでもあった。


「それにしても、WO-PARTSは何を考えているんだ? たいした実績があるわけ

でもないのに、黒いウワサは絶えないTEAMが何故、審査をパスした?」

「人伝てに聞いた話なんですが・・・どうやら、その手の悪評を払拭したいという

要望が通ったみたいなんですよ。  まぁ、経緯は不明なんですが、抽選で一番に

選ばれたのは事実ですし。」

「まぁ・・・ 何にせよ、まずはやらせて様子を見ようという魂胆か。」

「そうですよ。我々はヤツの強さがどれ位なのか、知る必要がありますからね。」

イージス艦カウアイの操舵室では、艦長と副艦長がショー化したミッションに一言

物申したい口ぶりで話していた。


秀太の疑問は膨らむ一方だった。 中でも・・・


( なぜ、先生は俺が車椅子を使っていないのを知っている・・・? )

( 中学卒業以来、一度も会っていないのに・・・ )

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