第22話 中身判明

駐車場にある、放置駐車されたと思われる少し錆びついたトレーラー。

否応無しに近付いたためか、改めて気付いた事があった。

それは、トレーラー上のコンテナには必ずある開閉式の収納口。

真正面では分かりづらいが、視点をずらすと僅かに膨らんでいるように見える。

再び、腕のようなハンマーが現れ、コンテナに一撃を・・・

食らわさず、寸止め状態で止まった。

「これ、何をしようとしてんの?」と、秀太が思わず声を発した時・・・


    ・いいかげんに きづけ  これは VR じゃない・


秀太にとって衝撃的な平仮名表示は更なる追い打ちがあった。


    ・あなたは これに のって いる・


目の前のコンテナ映像は一転、ニュース映像の “それ” に切り替わった。

点滅する矢印が指し示す “それ” は、あの「黒い巨大な怪物」だった。

明らかに戸惑っている秀太をよそに、『決められた作業』は進行を止めない。

そして、(硬い床に鞭を思いっきり打ちつけたような)強烈な破裂音とともに、

コンテナの表面と寸止め状態の “ハンマー” とのわずかな隙間から、アーク

溶接のような眩い光を伴った火花が発生した。


「ご覧いただけますでしょうか? 少なくとも・・私からは、あの黒い怪物が

コンテナを切断しているように見えます。」

火花を発生し続ける “ハンマー” の動きは、コンテナの収納口の扉に沿って

動いていた。

黒い巨大な怪物の、斜め背後から捉えられた映像。

コンテナの中央に書かれた、朱色に光る枠線。

そこから、何かがぶつかるような音。

焼き切られ、煙を上げて地面に落ちるコンテナの収納口。

「やっぱり、そうです! “ナックルボール” ですよ、あれは!!」

コンテナからゴロンと転げ出た異様な物体に対し、絶叫するレポーター。

褐色のゴツゴツした亀の甲羅に似た模様に覆われている、丸い岩。

そう形容するしかない物体と対峙する、黒い巨大な怪物。

“両者”との間に数秒間の間があった。

亀の甲羅に似た模様の継ぎ目から、何か生えてきそうな・・・ その時。

黒い巨大な怪物は、すかさず腕のようなハンマーを出現させると、それを

手の形状に変形させ、丸い岩のような物体をコマのように回し始めた。


この行動に、ワイドショーのコメンテーターが思わず唸った。

「あのカラスの怪物・・・ちゃんと理解してますよ、ナックルボールの習性を。」

「どういう事ですか?」

「コマを回す、という行為なんですが・・・あれはナックルボールの活動を一時的に休止させる効果が、どうやらあるみたいなんです。」

「ですが、いつまでも回しっぱなしという訳にもいきませんよね?」

「あのコマ回しという対処法ですけど、ナックルボールを駆除し切れないチームが

避難する時間を稼ぐために用いる、ひとつの危険回避方法なんです。」

甲羅の尖った部分を軸に、思いの他きれいに回っている岩のような物体。

「あのカラスの怪物が次にどういった行動を起こすか?   問題はそこです。

考えられるとしたら・・・ おそらく、次の二つでしょうか。」

そのカラスの怪物が、片方の腕を引っ込めた。

「そのまま、この場から離れて行ってしまうか、ナックルボールを破壊するか。

そのどちらかだと思います。 もし、破壊なんて事にでもなったら・・・」

コメントを遮るかのように、カラスの怪物は次の行動に出た。

真上を向いている甲羅の尖った部分。差し伸べようとする、ハンマーのような手。

そして、そこから発生する金属音、火花、若干の煙。

回転速度が落ちようとしている、丸い岩のような物体。

「拡散放水用意!!」は、自衛隊からの合図だった。

カラスの怪物を、四方から取り囲むように配置された放水車4台の噴射口が一斉に

角度を上げた。

「どういう事なんでしょう!? あの黒い怪物は、回転を止めにかかっているようにしか見えません!」

「レポーターさんは、すぐに退避したほうがいいです!  どうやら破壊するつもりみたいですよ!」

そして、ハンマーのような手で押さえつけられていた丸い岩のような物体の回転が

・・・止まった。

同時に、もう片方の手を出現させたハンマーの先には、鋭く尖った針のような物が

付け加えられていた。

「放水!!」

「何か、何かを刺し込んだ模様です!自衛隊も放水を開始しました!」

ハンマーを突き付けているカラスの怪物と、丸い岩のような物体の間に虹。

「あの放水って、どういった意味合いがあるんでしょうか?」

「甲羅みたいな所に継ぎ目があるんですが・・・   どうもね、そこが弱点みたいなんですよ。  その継ぎ目の角が合わさった箇所に槍のような物を突き刺すか、

あるいは弾丸がそこを貫ければ、ナックルボールは崩壊します。ただですね・・・

その際、猛毒の気体が発生して、周囲数メートルの範囲にいる人間は即死、です。

放射線対応の防護服も関係無しでしたね。ただ、瞬時に大気と水に反応して無害化

になる事が解っていますので、危険な拡散を防ぐ有効な手立てと言えます。」

そのカラスの怪物は、手持ちの黒い鋭利な針を次々と継ぎ目に刺し込んでいく。

・・・にも関わらず、大変に懸念された「周囲に甚大な被害を及ぼす崩壊現象」は

一向に起きる様子が無い。

そして、計6本を刺し込んだ時点でカラスの怪物の動きが止まった。

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