第20話 上陸
秀太の目の前にいる、中学の時の英語教師で担任だったイングリッド先生。
そして、なぜか隣にいる少女。 いぶかしげな表情をしている。
『シュータくん・・・この子をねぇ、助け出せたのはいいんだけど、まだ 名前が無くて・・・ 研究所では15番目の子供だから “オミクロン”って
名付けていたらしいの。 ひどいと思わない? だから、シュータくんが
ステキな名前を付けてあげてほしいな。 どうかしら?』
「先生、そんな事すぐに思いつくわけないですよ。ポチとかタマならともか・・」
パアァァン!!! と、叩く音が響いた。
同時に、キツイ平手打ちを喰らったような衝撃で目を覚ます秀太。
明らかに不機嫌な表情の少女。 手に持っていたのはスリッパ。
そして、そのままプイッと出て行ってしまった。
「えぇ~? 何なんだよ・・・?」
唖然として見送っていた秀太だったが、ふと我に返った後、ある事に気付いた。
(何で、またこの部屋に・・・いる???)
ある程度部屋が明るくなって、自分がすっぽり収まってしまっている場所にも。
だが、目の前は単に黒い壁で、何も映っていなかったが・・・。
・てっぽうづか しゅうた・ 「・・・はいっ!」
突然表示された平仮名に思わず返事をしてしまった秀太。
・あなたの やくめ・ 「え・・・? 役目?」
秀太の目の前に映像が映し出された。 だが、暗い海底ではなく・・・
日差しの強い海上と、去ってゆく黒雲。 なぜか遠くに見える海岸。
その場にでもいるかのような、耳に入ってくる潮騒の音。
さらに、海岸から聞こえてくるざわめき。
自分の置かれている状況といえば・・・
頭だけ外に出て、体全体は筒状の浴槽にどっぷり浸ってしまっている感じ。
高密度の粘液の中にでもいるような体感は以前と同じだったが、今回の場合、
事情が異なっていた。
「えっ? どうなってる?」
“内部”が自分の意志に関係なく勝手に動こうとしている。 抵抗は試みたが、 その力があまりに強いため、秀太はもはや身を任せるしかなかった。
・かーそる を みて・ 「・・・カーソル?」
大挙して並ぶ自衛隊車両の奥、報道関係の車が何台か駐車している、さらに奥。
牽引するトラックの無い、10tクラスのトレーラーがそこにあった。
カーソルの表示はそのトレーラーを囲み、点滅している。
その場所へ向かおうとしているのか、映像はどう見ても海岸方向に進んでいる。
( あなたの やくめ ・・・って何だ? 俺に何をやらせようとしてる? )
それにしても、海岸に並んでいる自衛隊車両のCGの見事な造形と言ったら・・
報道関係車両といい、それらの避難指示をしている警察官の自然な動き方といい、
とにかく「芸が細かい」。 そして、全てが小さく見える。
まるで、自分が怪獣にでもなったかのような物の見え方・・・。
戦車や装甲車がいるのに威嚇射撃も無いのは、やはりVRのご都合なんだろうか?
そう考えているうちに、足元が波打ち際に差し掛かった。
その時、右腕が(勝手に)トレーラーのある方角を指差し、左右に2回動いた。
「・・・??」
この行動の意味が、今の秀太には理解できるはずも無かった。
それでも進む歩は止まらない。 砂浜に足がめり込んでいくのが分かる。
砂浜と舗装路の段差を軽くまたぐと、何か硬い物を踏み砕いた気がした。
すると、なぜか自衛隊の車両が道を開けてくれた。
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