第18話 海岸にて (1)

千葉県南の突端、畜羅岬。その周辺は大騒動になっていた。

「危険ですからあーーっ!! ここから離れてくださあーーい!!」

警察が見物に来た野次馬を退去させ、規制線を張ろうとしている。

海辺のマンションに防護ネットを設置しているのは自衛隊だった。

灯台に続く一本道は報道関係の車で埋め尽くされ、さながら専用駐車場と

化していた。

警察と自衛隊が慌しく作業をしている最中、TVレポーターがマイクを取った。

「今現在、沖にある “ 黒い巨大な物体 ” に目立った動きはありません。

それとですね、自衛隊が調査を継続中との事で、私たちを含むどの局もヘリは

おろか、ドローンですら取材の許可が下りませんでした。ですので、近くにいた

漁船が避難する際に撮影した映像を入手できましたので、そちらに送ります。」

その直後、現場の模様を取材していたワイドショー番組は騒然となった。

送られてきた映像は、とにかくブレにブレていたが・・・

「うわあ~、なんじゃこりゃあ~?」 「なんか、バカでっかいカラスだな。」

撮影者らの音声入りのようだった。

映像は全貌を捕らえかけていたが、そこに「待った」がかかった。

「そこのー漁船!! 危険だからー!! 直ちにー!! 退去するよーにー!!」

海上保安庁の巡視船からのスピーカーの声で、その映像は終わっていた。


「これって、上陸未遂で終わった・・と、見ていいんでしょうか?」

「まだ安心はできないと思います。まだ、調査結果は出てないんですからね。」

「希望的推測なんですが、どこかの映画会社のサプライズ宣伝とか。」

「そうだといいですよね。でも、その辺は警察が捜査している筈ですよ。」



そのワイドショー番組を映し出している画像を見ている秀太と少女。

「すっごいなあー。あれ、動き出したらおもしろそうだね。」

そう言っている秀太を横目で見ている少女。

眉間に、縦ジワが一本入っていた。



「あ、今から海上自衛隊の緊急発表があるようです!」

テレビ画面は、報道陣の前に立つ指揮官の映像に切り替わった。

「え~、畜羅岬沖の “黒い巨大な物体” に関連性が高いと見られていた

企業と団体、または個人に至るまで重点的に捜査した結果報告を先ほど

千葉県警からいただきました。」 固唾を呑む報道陣。

「それによりますと、現時点で詳しい特定には至らず、全くの所属不明と

結論付けされました。よって・・・今、政府の承認を待っているところで

ありますが、甚大な被害を未然に防ぐという意味において、海上自衛隊は

“黒い巨大な物体”の爆破解体措置を決定いたしました。なお、準備の都合上、

決行の時刻は追ってご報告させていただきます。」



その頃、秀太と少女は犬小屋型PC端末を挟んで違う映像を見ていた。

秀太がワイドショーに釘付け状態で、少女は何を見ているかというと・・・

半分だけ細い線が引かれているように見える、円グラフのような図形。

しばらくその図形を見ていた少女は、ゴロンと床に寝そべり、ため息。

何かに落胆したような、冴えない表情をしていた。



「世界のメディアも挙ってニュースに取り上げているようです。」


{ 日本の海上自衛隊が捕捉しながら対処しきれなかった黒い巨大怪物、

日本上陸目前で活動停止 }


{ 日本の地を踏む寸前で力尽きたか? 巨大な海のカラス }


{ 正体不明の黒い巨大な怪物は、日本に突きつけられた新たな脅威か? }


「ご覧下さい。おそらく、自衛隊側では爆破解体の準備を着々と進行している

と思われますが、どうも支障をきたしてしまいそうな天候になりそうです。」

“黒い巨大な物体”の背景は、それまでの青一色から灰色に覆われようとしていた。

そして、積乱雲の中でフラッシュのように瞬く光。

ワイドショー側がレポーターに「中継車へ避難して下さい」の直後、猛烈な雨。

その大雨のせいか、“黒い巨大な物体”の周囲は白く靄がかかったように見えた。

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