第10話 戻りつつある感覚

今、秀太が感じている奇妙な違和感。

やけにリアルだった、白ヒゲの大男老人の夢。

貼られた覚えのない数々の絆創膏。  それらではなく、

蓄膿症の鼻が重く詰まっていたのが一気に解消されたような・・・

 ” 耳の通り ” 。

( 呼吸する音が聞こえる・・・!)  少し口を動かしてみると・・・

カチ、カチと、歯と歯が当たる音まで(聞こえる)。

( どうなってんだ?? 俺・・・。 )

一時的ではない。  それらの音は継続して聞こえている。

気付いてみれば、背中の芯がしびれる様に痛い。

そして、今までロクに感覚なんてものが無かった、左腕、左手。

それが今は・・・ しびれを伴った、キツイ筋肉痛のような痛み。

( もしかしたら・・・ )

秀太は左手で自分の左足を触ってみた。

( やっぱり戻っている! )

その時、自分の服装がTシャツと短パンに変わっていた事にも気付いたが、

着替えた覚えが無いのを不思議がるよりも・・・

( ひょっとしたら・・・立てるかもしれない! )で、頭は一杯になっていた。

  ググゥ・・・ キュルルル・・・

ほとんど忘れていた腹の虫の音をしばらく聞いていたが、あまりにも頻発するので

もういい加減聞き飽きていた。

( 音楽が聞きたい )( 大自然の雰囲気 )( レース真っ最中の臨場感 )

失われた体の感覚が甦ってくると、やはりと言うか、欲求という感情が芽吹く。

( せっかく足の感覚が戻った事だし、まずは食い物のありかと出口・・・だ。)

と、意を決し、両足を真上に上げ、勢い良く床に着地させた。

「うわああっ!!!!」

同時に、それまで感じた事の無かった激痛が両足に走った。

見ると・・・紫色、パンパン、不気味・・・といった具合に腫れ上がっていた。

「なんだよ・・・もう・・・。」

秀太は打ちひしがれていたが、何か『ざわめき』を一瞬だけ聞いたような・・。

振り返って見ても、自分のいる淡いスポットライトが当てられているシート以外は

ほぼ暗黒。 そして、ほぼ無音の、この部屋。

しばらく考え込むしかない、今の状況。

そう言えば、自分の発した声・・・ 叫び声だったが、( 確かに聞こえた。 )

いつの間にか・・・  LEDランプが発光しているような、小さい光の点が数ヶ所点灯していた。

それでも充分暗い。 でも、何かを見つけたようだった。

”それ”は、普通に歩けば数歩ほどの近さだが、何しろ自身の足が大変芳しくない。

ムートンブーツを連想させるような腫れ方をした両足は、真上に上げていれば多少

痛みは和らぐものの・・・。

足を着地した時点で、凄まじい激痛が走るのは変わりなかった。

辛うじて形の分かる ”それ” は、とても食べ物の形には見えないようだったが、

( 何か分かるかも知れない。 )という感情は秀太に湧きつつあった。

だが、やっかいな両足の激痛が行動を躊躇させる、文字通りの足枷となっていた。


『・・行くっきゃないぜ・・』『・・・足を付けなくても行動できるよ・・・』


一瞬だけ頭の中で聞こえた(?)” ざわめき ” は、これの事だったのか?

訳の分からなさは、まだ始まったばかりだった。



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